弾丸を遺し、私は夜明けの海へ第3話
この話は約1636字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ビアンカは肩越しにちらりと後ろを振り返り、双子を廊下に残したままドアを閉めた。
「申し訳ありません、マダム。子供たちがどうしても父親に会いたいと我儘を言うもので。まさか、お2人揃っていらっしゃるとは思いませんでしたわ」
ダンテはすでに立ち上がっており、その表情は氷のように冷酷だった。
「ビアンカ、二度と俺やエレナの前に姿を見せるなと言ったはずだぞ」
「落ち着いて。あなたを追いかけてニュー・エデンに戻ってきたわけじゃないわ」
ビアンカは悠然と部屋に入り込むと、テーブルの上に自身のバッグを置いた。
「子供たちの父親と私は、ファミリーの用事を済ませるために戻ってきただけ。今日ここへ来たのは、オーダーメイドしていた結婚指輪を受け取るためよ」
5年前、ビアンカはダンテの専属秘書だった。
彼女は仕事にかこつけて幾度となく彼に接近し、ある夜のファミリーの宴のあとなど、彼の寝室に無断で上がり込んだことすらあった。
翌朝、ダンテは彼女を即座に解雇した。そして皆の前で、自分が愛するのは私だけであり、マダム・ロマーノの座を奪える女など存在しないと高らかに宣言したのだ。
その直後、彼女はニュー・エデンから姿を消した。誰もが、彼女は私たちの前から永遠に消え去ったのだと信じて疑わなかった。
ところが今、彼女は私の目の前に立ち、外には5歳の双子を待たせている。
ビアンカは私の方へ向き直り、左手を高く上げて、大粒のダイヤモンドが輝く婚約指輪を見せつけた。
「ご心配なく、マダム。私も今は結婚しておりますのよ」
彼女はゆっくりと指輪を回しながら、笑みの裏に明確な挑発を込めた。
「夫が200万ドルかけて作ってくれた特注品ですの。ダンテがあなたを愛しているように、夫も私を愛してくれていますわ」
彼女の視線が、私の目の前にあるカタログへと移る。
「夫から心底愛されている女なら、誰かに彼を奪われるなんて心配は無用でしょう?そう思いませんか、マダム?」
私が口を開くより早く、ダンテのビンタが彼女の顔面を打ち据えた。
ビアンカの顔が大きく弾かれ、部屋中の空気が一瞬にして凍りついた。
ダンテはゆっくりと手を下ろし、一切の感情を排除した瞳で彼女を見下ろした。
「警告したはずだ。俺の目の前で、妻を侮辱することは誰にも許さないとな」
ビアンカは打たれた頬に手を当て、信じられないという顔で彼を睨みつけた。
ダンテは支配人へ振り返った。
「こいつのVIP資格を剥奪しろ。今後、この店への出入りは一切禁止だ」
ついにビアンカの余裕の仮面がひび割れた。
「彼女のために、私にここまで恥をかかせる気?」
「失せろ」
彼女はギリッと歯を食いしばり、私に憎悪の視線を浴びせてから、足早に部屋を出ていった。
ドアが閉まり、室内には重苦しい沈黙が降りた。
ダンテは再び私の傍らに跪き、私の手を取った。
「あんな女の言うこと、気にするな」
彼は私の指先に唇を寄せ、軽いキスを落とす。
「二度とこんな不愉快な思いはさせない。ニュー・エデンで君の上に立つ女など存在しない。ロマーノ・ファミリーの頂点に立つのは、未来永劫、君だけだ」
迷いのない、確信に満ちた声。
書斎でのあの密談を聞いていなければ、さっきの一撃こそが私への絶対的な忠誠の証だと信じて疑わなかっただろう。
その時、彼の携帯が鳴った。画面を一瞥したダンテは、通話を拒否した。
しかし数秒後、再び着信音が鳴り響く。
彼の瞳に僅かな苛立ちが走った。彼は立ち上がり、「ファミリーで少しトラブルが起きたようだ。ここで待っていてくれ、すぐに戻る」と言い残した。
「行ってらっしゃい」
ダンテは慌ただしく部屋を出ていった。
ドアが閉まったのとほぼ同時に、見知らぬ番号から私のスマホにメッセージが届いた。
【地下駐車場に来て】
立て続けにメッセージが届く。
【さっきあなたが目にしたのは、彼があなたに見せたかっただけの虚像よ。降りてらっしゃい。私の夫がどれほど私を愛しているか、見せてあげるわ】
私はそれを見つめ、静かに立ち上がってエレベーターへと向かった。
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