弾丸を遺し、私は夜明けの海へ第1話
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6年前、私はニュー・エデンで最強と謳われるマフィアのドン、ダンテ・ロマーノを庇って凶弾に倒れた。その傷のせいで、私は二度と母親になれない体になるはずだった。
病室のベッドの傍らで、ダンテは私に誓ってくれた。
「君さえ生きていてくれれば、子供なんていらない」と。
だが、奇跡的に私は身籠った。
その喜びを彼に伝えようとした矢先、彼の携帯に残された音声メッセージから、幼女が彼を「パパ」と呼ぶ声を聞いてしまったのだ。
そこで初めて知った。彼がかつての秘書であるビアンカとの間に、双子の子供をもうけていたことを。
ロマーノ・ファミリーの人間は皆、その事実を知っていた。私一人を除いて。
彼は相変わらず私を「愛するただ一人の女」と呼びながら、裏ではビアンカに指輪を贈り、彼女の息子にファミリーの跡目を継がせる準備を進めていた。
私は彼を責め立てることも、彼の子を宿していると打ち明けることもしなかった。
そして結婚記念日。私はクルーザーの爆発事故を偽装し、「マダム・ロマーノ」であるエレナが、お腹の子供と共に海の藻屑と消えたと世界中に思い込ませた。
* * *
「今回のサン・ローザへの視察、私はパスするわ」
そう言いながら、私はスマホの画面に表示されていた妊娠の診断結果を静かに削除した。
ダンテは動きを止め、怪訝そうにこちらを見た。
「どうしたんだ?いつもなら、俺が1人で出張に行くのを嫌がるくせに」
3日前。彼の暗号化された専用端末から、ある音声メッセージが流れるのを聞いてしまった。
【パパ、お兄ちゃんと一緒にイルカを見に連れてってくれるって約束したよね】
スピーカーから響いたのは、どう聞いても4歳以上にはなる幼女の声だった。
ダンテと結婚して6年。ニュー・エデンの裏社会で、ドンであるダンテが妻を溺愛していることは周知の事実だった。
私が敵対組織に拉致された時、彼は私を連れ戻すために1つの組織を丸ごと壊滅させたこともある。
どこへ行くにも私を伴い、まるで数日離れることすら耐えられないかのように振る舞っていた。
誰にも私たちの絆は引き裂けない。そう信じて疑わなかった。あの幼女が彼を「パパ」と呼ぶのを聞くまでは。
「少し疲れているだけよ」
私は彼の視線を避け、手元のワイングラスをそっと遠ざけた。
ダンテは私の皿に好物を切り分けて乗せながら、優しく言った。
「なら、屋敷でゆっくり休むといい。港のトラブルが片付き次第、すぐに帰ってくるから」
夕食後。彼の書斎の前を通りかかると、ダンテと彼の母親、ヴィットーリアが声を潜めて言い争うのが聞こえてきた。
「レオはもう5歳なのよ。ロマーノ一族の血を引く、唯一の男の跡取りじゃないの。あの子をいつまで日陰の身にしておくつもり?」
「それは母さんが決めることじゃない」
「ビアンカはあなたに息子と娘を産んでくれたのよ。せめてレオだけでも、正式な跡継ぎとしてファミリーにお披露目すべきだわ」
しばらくの沈黙の後。ダンテの冷ややかな声が響いた。
「ビアンカと子供たちの生活は保障する。だが、あいつらの存在はエレナには絶対に秘密だ」
「いつまで隠し通せると思ってるの?」
「一生だ」
ヴィットーリアは皮肉めいた笑い声を上げた。
「あの子はロマーノに跡継ぎを残せなかったのよ。それなのに、どうしてあの子のために、私の可愛い孫たちが一生隠し子として生きなきゃならないの?」
私は無意識のうちに、自分のお腹へと手を当てていた。
6年前、ダンテの心臓を狙った弾丸を私が代わりに受けた。一命は取り留めたものの、医師からは「二度と妊娠は望めないだろう」と宣告された。
手術後、ダンテはベッドの横に跪き、私の手を強く握りしめて言ったのだ。「子供なんていらない、君さえ生きてそばにいてくれれば、他には何も望まない」と。
1週間前、定期健診を受けた。そして3日前、病院から妊娠の確定診断をもらったばかりだった。
彼にこの奇跡を伝えようと準備していたその時、私は彼の決定的な裏切りを知ってしまったのだ。
携帯の着信音が、私を現実へと引き戻した。
苛立った様子のダンテが電話に出た。
「緊急時以外はかけてくるなと何度言えば――」
電話の向こうから、幼女の泣き声が漏れ聞こえた。途端に、彼の声から棘が消え去った。
「泣かないで。パパも会いたいよ」
ヴィットーリアが弾んだ声で歩み寄る。
「まあ、私の可愛いお姫様かしら?」
ダンテがスピーカーをオンにすると、「おばあちゃん!」という愛らしい声が部屋に響いた。
ヴィットーリアは嬉しそうに笑った。彼女がこれほど温かい声を出すのを、私は一度も聞いたことがなかった。
これ以上、聞いていられなかった。
私は1人、庭園へと足を踏み入れた。そこに咲き誇る薔薇はすべて、ダンテが私のために植えさせたものだ。
この6年間、彼はこの薔薇園を埋め尽くすほどの愛を私に捧げていると証明し続けてきた。
しかし今、彼は別の女と2人の子供の存在によって、「愛」と「忠誠」が全く別物であると証明して見せたのだ。
闇夜の下に立ち、私は叔父が遺した緊急連絡先へと電話をかけた。
母は死の間際、私にこう言い残していた。「もしロマーノ・ファミリーに裏切られることがあれば、叔父さんが必ずあなたをニュー・エデンから逃がしてくれる」と。
電話が繋がる。相手は無言でこちらの言葉を待っていた。
「2週間後、クルーザーの爆発事故を手配してちょうだい」
「本気か?」
「ええ」
離婚などという手段で、私がダンテから逃れられるはずがなかった。
私が生きている限り、彼は必ず私を見つけ出し、屋敷へと連れ戻し、「愛しているのは君だけだ」と執拗に囁き続けるだろう。
だから、マダム・ロマーノはこの世から消えなければならない。
彼にはもう、別の立派な家族があるのだから。
マダム・ロマーノの肩書きも、彼がくれたものも、すべてを返してあげる。
2週間後、私は彼の世界から永遠に姿を消す。
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