年越しの裏切り第2話
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誠は口を開きかけ、用意していた言い訳が喉に詰まったようだった。
私が立ち上がり、背を向けた時、彼が手首を掴んだ。
「未来、ごめん」
彼の声は低かった。
「今年だけだ。もうしない。しおりが落ち着いたら……」
私は静かに手を引き抜いた。
「待たなくていいわ。誠、離婚しましょう」
彼が固まった。
「何……何だって?」
私は彼の目を見た。
「離婚するって言ったの。あなたはゲストルームで寝て」
窓の外で花火が炸裂し、彼の驚愕した顔を照らし出した。
「今日一緒に年を越せなかっただけで?未来、それだけで離婚とか、そこまでするのか?」
私は答えず、寝室に向かった。
ドアを閉めると、外で彼が叫ぶ声が聞こえた。
「また文句か!少しは物分かりが良くなれよ!」
物分かり。
またこの言葉だ。
私は膨らんだ下腹部に触れ、小声で言った。
「これからは私たち二人だけよ」
かつて彼と死ぬまで愛し合うと信じていた早瀬未来は、この大晦日の夜に死んだ。
妊婦検診の日、朝から雨が降っていた。
朝食を終えても、誠の部屋のドアはまだ閉まっていた。
私はノックして声を掛けた。
「八時に出発よ」
中から返事はない。
七時五十分、私はバッグを持って出た。
エレベーターの中で誠からメッセージが届いた。
【急用が入った。タクシー呼ぼうか?】
画面を見つめながら、初めての妊婦検診を思い出した。
彼は一週間前から休暇を取り、緊張して検診票をしわくちゃにしていた。
エコー室で、医師が「これが赤ちゃんの心音です」と言うと、彼はすぐに涙ぐんだ。
病院を出ると、駐車場で私を抱いてぐるぐる回った。「俺は、父さんになるんだ!」
あの頃、彼の携帯は二十四時間私のためにオンにしていた。
私が東町にあるお店のおでんが食べたいと言えば、一時間かけて車で買いに行ってくれた。
だが今、彼は言う。会社に用事があると。
私は返信した。
【いらない。自分で運転していく】
病院はいつも人で溢れている。
産婦人科の待合室は妊婦でいっぱいで、ほとんどに夫が付き添っていた。
検診は順調だった。
医師はエコー画面を見て微笑んだ。「赤ちゃんは元気ですよ」
私はその小さな姿を見つめ、鼻の奥がツンとした。
この子は私の子供。
私だけの子供だ。
「次回は後期検査です。ご主人も一緒に来て同意書に署名してもらってください」
医師が念を押した。
私は頷いたが、心の中では、その頃には離婚協議書がどこまで進んでいるだろうかを考えた。
診察室を出て、薬局でビタミン剤を受け取りに行った。
列に並んでいると、視界の端に見覚えのある人影が映った。
誠だ。
彼は三、四歳くらいの男の子を抱いて、小児科の救急外来の方から歩いてきた。
しおりがその横に付き添い、目を赤く腫らしていた。
男の子は顔を赤らめ、元気なく誠に寄りかかっている。
誠は頭を下げて何か話しかけ、表情は優しかった。
彼らは私に気づかなかった。
私はその場に立ち尽くし、手の中に持っていた薬の入った袋が突然重くなったように感じられた。
そうか、彼は今日病院に来るのを覚えていたんだ。
ただ、私に付き添うためじゃなかった。
「未来?」
誠が突然振り返り、私を見て顔色が変わった。
彼は慌てて子供をしおりに押し付け、早足で近づいてきた。
誠は私の持っている薬の入った袋に目をやった。「どうして……検診、終わったのか?」
「ええ」
「未来、わざと付き添わなかったんじゃない、実は……」
男の子が泣き始めた。「誠おじさん!痛い……」
しおりが子供を抱いて、涙ぐんだ目でこちらを見た。
「誠、蒼太(そうた)があなたに抱っこしてほしいって……」
誠が板挟みになった。
私はこの光景が滑稽に思えた。
「行きなさい。子供が大事でしょ」
「未来、蒼太が突然高熱で意識を失って、しおり一人じゃ対処できないから、だから俺が……」
しおりが悲鳴を上げた。
「誠!蒼太が吐いたわ!」
子供が服を汚し、誠のコートも汚れた。
彼は本能的に先に子供の世話に向かった。
私は踵を返して歩き出した。
「未来!」
彼が後ろで叫んだ。
私は振り返らなかった。
エレベーターのドアが閉まる時、彼が子供を抱いてトイレに駆け込むのが見えた。
しおりがその後ろに付き添い、手を彼の腕に添えている。
本当に家族みたい。
車の中で、私はハンドルを握り、手が震えていた。
怒っているのではない。冷たさを感じたからだ。
骨の髄まで冷たい。
携帯が震えた。誠からのメッセージだ。
【蒼太の容態がよくない。少し遅くなる】
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