年越しの裏切り第3話
この話は約1778字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は画面を見つめ、無表情で文字を打った。
【誠、あなたが帰ってきたら、離婚の話をしよう】
指が送信ボタンの上で止まり、私は削除して打ち直した。
【もう帰ってこなくていいわ】
送信。
それから連絡先リストを開いて、橘真司(たちばな しんじ)という知り合いの弁護士を見つけた。
電話が繋がる。
私の声は平静だった。
「橘先生、早瀬未来です。
離婚の件で相談したいのですが」
橘先生はカフェで会うことを提案した。
「早瀬さん、離婚協議書は作成できます。ただ、相手が夫婦共有財産を移転した証拠を提供できれば、財産分与でより有利になります」
私はコーヒーをかき混ぜた。「どんな証拠が必要ですか?」
橘先生は眼鏡を押し上げた。
「例えば、ご主人があなたの同意なく、夫婦の共有財産を他人に贈与した証拠などありますか?
ご主人に何か異常な点がなかったか、思い出してみてください」
私は考えた。
それからしおりのSNSを思い出した。
半年前から、彼女のSNSに投稿される物がどんどん高価になっていった。
新しいマンションの大きな窓、白いポルシェのハンドル、エルメスのバッグ、子供服も全部海外ブランド。
彼女は仕事がなく、離婚したばかり。どこからそんな金が?
「彼女、元夫から慰謝料をあまりもらえなかったって言ってたわ」私は呟いた。
橘先生は頷いた。「それは問題ですね。調べてみる価値があります」
帰宅後、私はしおりのSNSを徹底的に見た。
それらの写真の背景、ナンバープレート、ショッピングバッグのロゴまで、一つ一つスクリーンショットを撮った。
それから柳瀬小春(やなせ こはる)に電話をかけた。
小春は私が会社にいた時の弟子で、私の退職後、私のポジションを引き継いだ。
「未来さん?」彼女の声は低く抑えられていた。
私は単刀直入に言った。
「小春、お願いがあるの。
会社の最近の帳簿に、異常な支出はないか調べてくれない?例えば、個人への多額の送金とか」
電話の向こうが数秒沈黙し、小春の声がさらに低くなった。
「あります。早瀬社長がこの半年で何度も送金してます。受取人は全部白石しおりです。一番大きいのは住宅購入費で、4000万円」
それを聞いて私の心が沈んだ。
「他には?」
「車の購入が2000万円。残りは細かい消費ですが、合わせると……」
彼女は言葉を切った。
「だいたい3000万円です」
合計9000万円。
私は電話を切り、手が震えていた。
金額のせいではない。
先週、私が産後ケアセンターを予約したいと言った時のことを思い出したからだ。費用は約200万円。
誠は眉をひそめた。
「高すぎる。母さんに来てもらえばいい」
あの時、しおりのSNSには新しく買ったプラチナのバッグが投稿されていた。
私は一晩かけて、会社の財務システムにログインした。
退職前に使っていたアカウントだ。最高権限を持っている。
誠は変更していなかった。
いや、私が調べるなんて思ってもいなかったのだろう。
送金記録は明瞭だった。
しおりが帰国してから今まで、六ヶ月で約8654万円。
住宅購入費、車の購入費、高級品、子供服、早期教育費、家政婦……
一つ一つが、私の目に突き刺さった。
私はスクリーンショットを撮り、保存し、バックアップした。
それから誠が帰宅するのを待った。
彼は明け方に帰ってきた。身には酒の匂いを纏わせていた。
リビングに座っている私を見て、動きが止まった。
「まだ起きてたのか?」
「会社の口座から8654万円が消えてる」私は単刀直入に切り出した。
誠の表情が瞬時に硬直した。
「しおりの家も、車も、あのバッグも、全部あなたが買ったの?」
沈黙。
また沈黙。
「話して」私の声は静かだった。
「未来、しおりは離婚したばかりで、子供を連れて大変なんだ。だから俺がちょっと手伝って……」
私は彼の言葉を遮った。
「手伝うって、家も車も買ってあげること?
誠、私たちは起業一年目の時に、2000円の宅配料を節約するために、自分でサンプルを担いでバスに乗ったわよね。なのに今は8000万以上を、躊躇せずに他人に渡すの?」
彼は口を開いたが、声が出なかった。
「一週間。そのお金を全額会社の口座に戻して。
さもなければ、夫婦共有財産の移転で訴えるわ。同時に税務署にも通報する」
彼は目を見開いた。「気でも狂ったのか?金のために、俺を破滅させるつもりか?」
私は彼の目を見つめた。「金のためじゃない。私と私の子供のためよ」
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