山も海も越えたのに、愛は届かなかった第2話
この話は約1202字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
期待に胸を躍らせ、私は振り返った。
あの女の子が笑顔で、ファンデーションのコンパクトを差し出していた。
「すみません……お化粧が崩れちゃってますよ。よかったら、これで直してください。
彼氏が買ってくれたんです。すごくいいんですよ」
3か月前、私のもとへ、悠真から大量の化粧品が送られてきた。
お世話になった指導教授に恩返しがしたいから、教授の奥さんへ何かふさわしいプレゼントを贈りたいそうだ。化粧品を考えているものの、どれを選べばいいのかわからないらしい。
電話の向こうで、彼はすがるように頼んできた。
「ねえ、お願い。ちょっと試してみてよ。
頼めるの、美緒しかいないんだ」
私は成分を調べ、自分の肌でも試した。
アレルギー反応が出て、半月も顔が腫れたことさえあった。
そうして最後に選んだのが、このファンデーションだった。
結局、他の女のためにせっせと尽くしていたわけだ。
私は自嘲気味に笑い、彼女に尋ねた。
「さっき一緒にいた人、彼氏なの?付き合ってどのくらい?」
あまりに唐突な質問だった。それでも彼女は、自分の幸せを誰かに聞いてほしかったらしい。堰を切ったように、何もかも話し始めた。
「1年です。まだそんなに長くないけど、彼、私のことなら何でもお見通しなんですよ。
この何日か、わざとそっけない返信をしてたんです。予定より早く大学に戻って、びっくりさせたくて。
そしたら、どうなったと思います? 気づかれちゃったんです。地下鉄で1時間もかけて、花束を持って先に待っててくれたんですよ」
彼女は幸せそうに笑った。
「ほんと、ばかですよね!」
少し離れたところから、悠真がミルクティーを手に戻ってくるのが見えた。
彼女は私の手にコンパクトを押し込むと、手を振った。
「もう泣かないでね。私の幸せ、半分おすそ分けします。あなたにも、あんなにすてきな彼氏ができますように」
目の奥が焼けるように熱く、胸が苦しかった。
けれど、もっと痛かったのは、悠真でいっぱいだった私の心だ。
初めて会った時、彼はまだ地方の高校3年生だった。頭がよく、成績も抜群だった。
なのに、ギャンブル狂いの父親のせいで、学校も進学も諦めざるを得なくなっていた。
不幸な境遇の人を放っておけない、そんな性分が顔を出したのだろう。
大学で勉強したいと泣きながら訴えられ、私は心を動かされた。自分だってまだ20代の若い女にすぎないことさえ、忘れていた。
私は必死になって、彼をあの地獄のような家から連れ出した。
自分のそばに引き取り、高校、そして大学へと通えるよう援助した。
最初は遠慮ばかりして顔色をうかがっていた彼も、少しずつ明るくなった。
私は、彼の弱く傷ついた姿を何もかも見てきた。そこまでの苦労を思うと、胸が痛んだ。
だから、好きだと泣きながら告げられ、離れないでほしいと懇願された時も、私はまた、ほだされてしまった。
家族や親友の反対を押し切り、彼の告白を受け入れた。
その結果が、これだった。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)