山も海も越えたのに、愛は届かなかった第1話
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連休を利用して、私・桜井美緒(さくらい みお)は遠距離恋愛中の彼氏・藤崎悠真(ふじさき ゆうま)を驚かせようと、内緒で航空券を取った。
ところが飛行機を降りた途端、到着ロビーで花束を抱えて誰かを待っていた彼を見つけた。
遠くに住む恋人がサプライズで空港まで迎えに来てくれる。そんな動画を、ネットで見たことがあった。
きっと、私たちも以心伝心なのだ。私が来ると察して、待っていてくれたに違いない。
駆け寄って抱きつこうとした、その時だった。
見知らぬ女の子が私を追い越し、彼の胸に飛び込んだ。
* * *
騒がしかった空港が、急に静まり返った気がした。
緊張で、心臓が嫌な速さで脈打っていた。
スーツケースを握る指は、力を込めすぎて白くなっている。私の目は、あの女の子に釘づけだった。
どうか、人違いであって。心の中で、ただそれだけを祈った。
けれど、悠真は口元に笑みを浮かべ、両腕を広げて彼女をしっかり受け止めた。
「そんなに急ぐなよ。この前どうやって転んだか、もう忘れた?」
彼女はむっと唇を尖らせ、スーツケースを彼のほうへ押しやった。
「悠真が受け止めてくれなかったせいでしょ。おかげで半月も入院したんだから!」
先月、悠真とビデオ通話をした時、確かに背景は病室だった。
彼が病気になったのだと思い、私は気が気でなくて、すぐに航空券を取ろうとした。
「俺は平気。友達がバスケで足をひねったから、病院に連れてきただけ。
無理して時間を作って来ようとしなくていいよ。普段だって仕事で忙しいのに、これ以上疲れてほしくないんだ。
修士論文の口頭試問が終わったら、俺から会いに行くから」
そう言い終えるや否や、電話の向こうから甘えるような女の子の声がかすかに聞こえた。
私は少し眉をひそめた。
「どうして女の人の声がするの?」
彼はスマホを手に病室を出た。目元には笑みが浮かんでいた。
「隣のベッドの子が、彼氏に甘えてるんだよ」
私はつい、自分の勘ぐりすぎを笑ってしまった。
あの時、彼が病室を出たのは、静かな場所で私と話すためではなかった。
私に気づかれるのが怖かったのだ。
あんなにうれしそうに笑っていたのも、私から電話が来たからではない。
あの女の子が彼に甘えていたのだから。
鼻の奥がつんと痛み、何の前触れもなく涙が落ちた。
それでも、2人から目を離せなかった。
悠真は彼女の手を握り、自分から降参した。
「全部俺が悪かったよ。今度こそ埋め合わせするから、このあと好きなもの食べよう。何でもいいぞ」
彼女はお腹をさすった。
「でも、もうお腹すいちゃった」
悠真は懐から袋を取り出した。
「そう言うと思った。
大学の前で売ってる、お気に入りのホットサンド。卵とソーセージ入り、マスタード抜き。
ずっと懐に入れてきたから、まだ温かいよ」
彼女はうれしそうにホットサンドを抱え、大きくかじった。それからいたずらっぽく、悠真に目配せをした。
「でも、温かいミルクティーも飲みたいな。あっつあつの」
悠真は観念したようにため息をついた。
「じゃあ、ここで待ってろよ。買ってくる」
私は目を伏せ、自嘲の笑みをこぼした。
黒いダウンジャケットばかりが目立つ空港で、私はひときわ鮮やかな黄色を着ていたのに。
彼の目には、あの子しか映っていなかった。たった2メートル先にいる私に、最初から最後まで気づきもしなかった。
呆然と立ち尽くしていると、突然、誰かが私の背中を軽くたたいた。
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