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山も海も越えたのに、愛は届かなかった第1話

この話は約1380字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

連休を利用して、私・桜井美緒(さくらい みお)は遠距離恋愛中の彼氏・藤崎悠真(ふじさき ゆうま)を驚かせようと、内緒で航空券を取った。

ところが飛行機を降りた途端、到着ロビーで花束を抱えて誰かを待っていた彼を見つけた。

遠くに住む恋人がサプライズで空港まで迎えに来てくれる。そんな動画を、ネットで見たことがあった。

きっと、私たちも以心伝心なのだ。私が来ると察して、待っていてくれたに違いない。

駆け寄って抱きつこうとした、その時だった。

見知らぬ女の子が私を追い越し、彼の胸に飛び込んだ。

* * *

騒がしかった空港が、急に静まり返った気がした。

緊張で、心臓が嫌な速さで脈打っていた。

スーツケースを握る指は、力を込めすぎて白くなっている。私の目は、あの女の子に釘づけだった。

どうか、人違いであって。心の中で、ただそれだけを祈った。

けれど、悠真は口元に笑みを浮かべ、両腕を広げて彼女をしっかり受け止めた。

「そんなに急ぐなよ。この前どうやって転んだか、もう忘れた?」

彼女はむっと唇を尖らせ、スーツケースを彼のほうへ押しやった。

「悠真が受け止めてくれなかったせいでしょ。おかげで半月も入院したんだから!」

先月、悠真とビデオ通話をした時、確かに背景は病室だった。

彼が病気になったのだと思い、私は気が気でなくて、すぐに航空券を取ろうとした。

「俺は平気。友達がバスケで足をひねったから、病院に連れてきただけ。

無理して時間を作って来ようとしなくていいよ。普段だって仕事で忙しいのに、これ以上疲れてほしくないんだ。

修士論文の口頭試問が終わったら、俺から会いに行くから」

そう言い終えるや否や、電話の向こうから甘えるような女の子の声がかすかに聞こえた。

私は少し眉をひそめた。

「どうして女の人の声がするの?」

彼はスマホを手に病室を出た。目元には笑みが浮かんでいた。

「隣のベッドの子が、彼氏に甘えてるんだよ」

私はつい、自分の勘ぐりすぎを笑ってしまった。

あの時、彼が病室を出たのは、静かな場所で私と話すためではなかった。

私に気づかれるのが怖かったのだ。

あんなにうれしそうに笑っていたのも、私から電話が来たからではない。

あの女の子が彼に甘えていたのだから。

鼻の奥がつんと痛み、何の前触れもなく涙が落ちた。

それでも、2人から目を離せなかった。

悠真は彼女の手を握り、自分から降参した。

「全部俺が悪かったよ。今度こそ埋め合わせするから、このあと好きなもの食べよう。何でもいいぞ」

彼女はお腹をさすった。

「でも、もうお腹すいちゃった」

悠真は懐から袋を取り出した。

「そう言うと思った。

大学の前で売ってる、お気に入りのホットサンド。卵とソーセージ入り、マスタード抜き。

ずっと懐に入れてきたから、まだ温かいよ」

彼女はうれしそうにホットサンドを抱え、大きくかじった。それからいたずらっぽく、悠真に目配せをした。

「でも、温かいミルクティーも飲みたいな。あっつあつの」

悠真は観念したようにため息をついた。

「じゃあ、ここで待ってろよ。買ってくる」

私は目を伏せ、自嘲の笑みをこぼした。

黒いダウンジャケットばかりが目立つ空港で、私はひときわ鮮やかな黄色を着ていたのに。

彼の目には、あの子しか映っていなかった。たった2メートル先にいる私に、最初から最後まで気づきもしなかった。

呆然と立ち尽くしていると、突然、誰かが私の背中を軽くたたいた。

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