山も海も越えたのに、愛は届かなかった第3話
この話は約1172字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私は少し距離を置き、2人のあとを歩いた。
悠真の視線は、ずっと彼女を追っていた。腰をかがめ、辛抱強く彼女の話に耳を傾けている。
頭がぼんやりした。私たちが最後にあんなふうに手をつないで歩き、おしゃべりしたのはいつだっただろう。もう思い出せなかった。
いつからか、悠真から返信が来るまでの時間は長くなる一方だった。
LINEのトーク画面には、いつも私が送ったメッセージばかりが並んでいた。
2人が車に乗り込む前に、私は悠真へ電話をかけた。
長い呼び出し音の末に、ようやくつながった。
声はいつもと同じ、軽くて明るい調子だった。
「美緒、今、友達と出かけてるんだ。最近忙しいんじゃなかった?どうしたの、急に」
私は容赦なく問い詰めた。
「友達?男の人?女の人?」
悠真はためらいもせず、きっぱり答えた。
「男に決まってるだろ。俺、女っ気ないって知ってるじゃん」
私は冷ややかに笑った。
「そうなの?じゃあ、今手をつないでる子は、何のお友達なの?悠真、後ろを見て」
彼はぎこちなく振り返った。
目が合った瞬間、彼女の手を振りほどき、私に向かって駆け出した。
私はタクシーに乗り込み、バックミラーに映る、必死に追いかけてくる人影から目をそらした。
車内には何年か前に流行ったラブソングが流れていた。窓の外の景色が、次々と後ろへ飛んでいく。
忘れていた記憶が、また頭の中に押し寄せた。
18歳の時、彼は携帯の電波すら届かない山奥の村から、車の行き交う都会へやって来た。
新しい家での初めての食事。私が買ったばかりの服を着た彼は、食卓で声を詰まらせて泣いた。
「美緒さん、俺、いつか必ず恩返しするから」
彼が20歳の時、私は友人の紹介で一度だけ見合いをした。
悠真は大学の授業を抜け出して会いに来ると、見合い相手の顔が腫れ上がるほど殴った。
怒った私が家から追い出すと、彼は玄関先にひざまずき、目を真っ赤にしてすがった。
「美緒さん、追い出さないで。これからはちゃんと言うこと聞くし、二度と迷惑かけないから。お願い」
22歳の時には、卒業式で同級生や先生たちの前でプロポーズしてきた。
私がうなずくと、彼は私を抱きしめ、子供のように泣いた。
その後、彼が遠方の大学院に受かり、私たちは離れて暮らすことになった。
それでも休みができるたび、彼は列車の切符を買い、十数時間も座りっぱなしで私に会いに来た。
3年間、欠かすことはなかった。
毎年のバレンタイン。残業に追われて目が回りそうになっていると、彼はどこからともなく花束を抱えて現れた。
だから、そのうち返信がどんなに遅くなっても、会いに来る時間を作ってくれなくなっても。
私は一度も疑わなかった。
それまでに、十分すぎるほどの愛と安心をもらっていたから。
けれど、私は忘れていた。人の心なんて、一瞬で変わる。
愛を最後まで貫けるかどうかは、結局その人の誠実さにかかっているのだ。
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