尽くす妻、卒業!二度目の人生は夢を掴む第2話
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一方で、菖蒲がそう言うのを聞くと、充は機嫌を直すどころか、逆に顔をしかめた。
「子供がすねて言ったことだろ?そんなことで本気にするなよ」
だが、菖蒲は大輔が蛍の手をぎゅっと握っているのを見つめた。そして、彼の幼い顔から、母親である自分に対して強い警戒心を向けているのが見て取れた。まるで次の瞬間、自分が彼を蛍から無理やり引き離すと思っているようだ。
前世では、大輔が口でどれだけ蛍になついていても、菖蒲はまったく気にしていなかった。実際彼の心の中では、母親である自分を一番だと思ってくれていると信じていたから。
でも今、ハッキリを気が付いた。子供は思ったことと違うことなんて言わない。この子の言葉は全部、本当の気持ちだったんだ。
そうこうしていると、蛍は身を屈めて大輔のほっぺを軽くつねった。そして、わざと真面目な顔で話しかけた。
「大輔くん、ママのこと怒らないであげて。ママはあなたのお世話で、とっても大変なんだからね」
しかし、大輔は悔しそうに口をとがらせながら、不満げな声を漏らした。
「でも、すねて言ってるんじゃないもん。僕、おばちゃんと一緒にいたいの。ママなんていらないから」
そう言いながら目に涙を浮かべている息子を見て、充は眉をひそめた。そして、菖蒲に更なる不満のまなざしを向けた。
「お前は母親として失格だな。普段からもっと大輔のことを考えてやれよ」
そして、大輔もすぐに口をはさんだ。「パパの言うとおりだよ!ママは全然僕のことなんてかまってくれないもん」
その父子が口をそろえた言葉に、菖蒲は息が詰まった。彼女は思わず口元に、自分をあざけるような笑みが浮かべた。
大輔が生まれてからずっと自分が一人で育ててきた。彼のどんな些細なことでも見逃さないほど懸命に目をかけてきたつもりだ。
大輔が病気のときは、一晩中そばに付き添ってあげたし、誕生日にはケーキも手作りしてあげた。そして栄養バランスを考えて、彼が嫌いなものも食べてもらえるように工夫して作ってあげていた……
そのどれもこれもが、自分が大輔にどれだけ心を尽くしてきたかを示している。
それなのに、この父子から見れば、自分は母親失格ということらしい。
「そう、ならそう思ってくれて構わないよ」
どうせあと15日で、ここを離れるのだから。もうこの父子とは争いたくはないと菖蒲は思った。
「なんだと!」
それを聞いて充が、菖蒲のその投げやりな態度に怒鳴りつけようとしたときだった。蛍にそっと袖を引かれた。
彼女は、申し訳なさそうに言った。
「充さん、全部私が悪いんです。だから菖蒲さんとケンカしないでください」
すると、充の顔から怒りは一瞬で消え、彼は優しい声で蛍をなぐさめた。
「君は悪くないさ。大輔の面倒を見てくれて、感謝しなくちゃいけないのは俺の方だ」
大輔もそれを聞いて、蛍の胸に飛び込んだ。
「蛍おばちゃん、僕、うそついてないよ。先生がね、子供はうそをついちゃいけないって言ってた。本当にママが悪いの。おばちゃんは、世界でいちばんいい人だよ」
そして充は厳しい顔で菖蒲を一瞥し、くるりと背を向けて歩き出した。
「蛍、俺と大輔が、さきに君を家まで送るよ」
彼がそう言うと、大輔も嬉しそうに二人の手をつないだ。
「しゅっぱーつ!」
一方で取り残された菖蒲はその場に立ちつくした。幸せそうな三人の後ろ姿を見つめていると、彼女は胸の中が苦しくて堪らなかった。
これが、前世で一生をかけて尽くしてきた、夫と息子なのだ。
彼らがこれほど自分を嫌うなら、今度こそ、手放そう。
三人の後ろ姿がだんだん遠くなっていく。菖蒲も自転車に乗ると、角を曲がって役所へと向かった。
「すみません、離婚届を出したいんですけど」
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