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尽くす妻、卒業!二度目の人生は夢を掴む第1話

この話は約2646字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

表彰された日、今井充(いまい みつる)はテレビ報道の生放送で、赴任地に同行していた同僚医師、陣内蛍(じんない ほたる)へ、情熱的な愛を告白した。

「陣内さんがいなければ、俺はとっくに嵐に飲まれて海で命を落としていました。彼女は、俺の命の恩人であり、誰よりも大切な人なんです」

一方で、そのころ彼の妻である今井菖蒲(いまい あやめ)は、充の両親の世話と子育てに明け暮れていた挙句の果て、長年の無理がたたって、すでに虫の息でベッドに横たわっていたのだった。

そんな彼女は20年も尽くしてきたのに、夫から感謝の言葉ひとつももらえないなんて、思ってもみなかった。

そして、追い打ちかけるかのように、息子・今井大輔(いまい だいすけ)の一言が、彼女の心を砕け散る、最後の一撃になった。

「お母さん、見てよ。お父さんと蛍おばさん、すっごくお似合いだよね。だからもう、早くお父さんと別れてあげなよ」

それを聞いて、菖蒲は怒りと絶望のあまり、深い後悔に苛まれながら息を引き取った。

次に目を開けたとき、彼女は充が海上基地へ赴任する、その前日に戻っていた。

今度こそ、夫の帰りを待ち続けるだけで、名もなき存在として人生を終わらせたくない、そう菖蒲は思った。

そうだ、自分には、大空を目指すという夢があったんだ。

* * *

表彰された日、今井充(いまい みつる)はテレビ報道の生放送で、赴任地に同行していた同僚医師、陣内蛍(じんない ほたる)へ、情熱的な愛を告白した。

「陣内さんがいなければ、俺はとっくに嵐に飲まれて海で命を落としていました。彼女は、俺の命の恩人であり、誰よりも大切な人なんです」

一方で、そのころ彼の妻である今井菖蒲(いまい あやめ)は、充の両親の世話と子育てに明け暮れていた挙句の果て、長年の無理がたたって、すでに虫の息でベッドに横たわっていたのだった。

そんな彼女は20年も尽くしてきたのに、夫から感謝の言葉ひとつももらえないなんて、思ってもみなかった。

そして、追い打ちかけるかのように、息子・今井大輔(いまい だいすけ)の一言が、彼女の心を砕け散る、最後の一撃になった。

「お母さん、見てよ。お父さんと蛍おばさん、すっごくお似合いだよね。だからもう、早くお父さんと別れてあげなよ」

それを聞いて、菖蒲は怒りと絶望のあまり、深い後悔に苛まれながら息を引き取った。

次に目を開けたとき、彼女は充が海上基地へ赴任する、その前日に戻っていた。

今度こそ、夫の帰りを待ち続けるだけで、名もなき存在として人生を終わらせたくない、そう菖蒲は思った。

そうだ、自分には、大空を目指すという夢があったんだ。

……

特殊部隊の基地。

責任者・松浦弘(まつうら ひろし)が、厳しい表情で菖蒲を見ていた。

「今井さん、まずは試験合格おめでとう。君はこの任務において、初の女性パイロットとして就任することができた!

だが、パイロットというのは厳しいポジションだ。合格してからも、君にとっての長くてきびしい訓練が待っている。本当に覚悟はできているのか?」

弘が心配しているのは分かった。でも、菖蒲の瞳は固い決意に燃えていた。

「女性だって、実力はあります。私も任務遂行のために、貢献したいんです。

それに、父は生前、この国で優秀なパイロットでした。父の名に恥じぬよう、必ず成し遂げてみせます!」

それを聞いて、弘は彼女の言葉に納得し、感心したようにうなずいた。

「よく言った!今井さん、ただ……」

弘は何かを思い出したように、少し言いにくそうに続けた。

「そうなると、15日後、君たちは京市で訓練が始まる予定だが、ご主人もまもなく他の現場へ赴任するはずだ。夫婦が離ればなれになるのに……彼は承諾してくれそうなのか?」

それを聞いて、菖蒲の顔から明るい表情が消え、口元に寂しげな笑みが浮かんだ。

「彼にとっては、私が家からいなくなるのは、むしろ好都合だと思います」

だって前世で、充はたった一人だけ家族を連れて行ける権利を、同じ部隊に所属していた医師の蛍に譲ってしまったのだから。

それから20年間、彼が家に帰ってきたのはたったの2回だけだった。

1回目は、息子の大輔が成人したとき。

そしてもう2回目は、表彰されたあの日。

それまで、充が赴任地で仕事に集中できるよう、菖蒲は20年間も一人で家を支えてきた。そして、とうとう無理がたたって病に倒れてしまった。

それでも、あの表彰式では、夫が自分の名前を呼んでくれると信じていた。

でも、彼の心の中にいたのは蛍だけで、自分のこれまでの苦労なんて、すっかり忘れられていた。

自分が必死で育てた大輔でさえ、父親には蛍の方がお似合いだと言って、自分を邪魔者あつかいする始末だった。

そのとき、菖蒲は自分の人生が、なんて滑稽だったのかを思い知った。

この家のために、パイロットになる夢を諦めて、一生を捧げてきたというのに。

その結果が、夫の心変わりと、息子からの軽蔑だった。

でも、幸運なことに、自分にもう一度人生をやり直すチャンスが与えられた。

今度こそ、自分は大空を自由に舞う鷹のように、自身のために生き、輝く人生を送りたいと決めたのだ。

それから、申請書を出し終えた菖蒲は、自転車で家へと急いでいると、角を曲がったところで、向こうから歩いてくる三人と、ばったり出くわしてしまった。

夫の充と蛍が、息子の大輔の両手をひいて歩いているのだ。

大輔が何かを夢中で話していて、蛍は笑いながらその頭をなでてあげていた。

そんな二人を、充は穏やかな表情で見つめ、その目には優しい笑みが浮かんでいた。

その三人は、まるで幸せな家族そのものだった。

そして、菖蒲に気づくと、充の顔つきがとたんに険しくなった。

「どこへ行っていたんだ!まだ6歳の大輔が病院で点滴をしているのに、一人にさせておくなんて!」

すると、さっきまで楽しそうに蛍と話していた大輔も、ぴたりと口を閉ざすと、ぷいっと顔をそむけて鼻を鳴らした。

それを見て、菖蒲はぎゅっと拳をにぎりしめ、胸にこみあげる切なさを押し殺した。

「大輔が、私にはそばにいてほしくないって言ったのよ。陣内先生がいいって」

前世でも、蛍が充と一緒に赴任先へ向かう前から、大輔は彼女のことが大好きだった。

その頃の自分は、ただ蛍が子供好きなだけだと思っていた。だから大輔もなついているんだって。

でもまさか、大輔が蛍に、彼の母親になってほしがっていたなんて、思いもしなかった。

なら、今度こそ彼はもう自分が死ぬのを辛抱強く待つ必要はない。

15日後には、その願いは叶うのだから。

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