小説の世界に転生し、夫に見捨てられた端役の私第2話
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再び意識が戻ると、腕に針が刺さっていた。
注射器に吸い上げられていく自分の血を見て、胃が痙攣した。吐いてしまった。
看護師が慌てて私の汗を拭きながら言った。
「大丈夫です。院長自ら執刀されますから、きっと命は助かります」
私は微笑んでうなずいた。何も言えなかった。
廊下から、看護師と院長の声が聞こえてくる。
院長が深く息をついた。
「ここまで重症では……石井さんのお抱えの医療チームが手を貸してくれなければ、私にはどうにもならん」
看護師の声が切迫する。
「でも、もう帰国してしまってるんです!今から来ても間に合いません」
院長の声が沈んだ。
「石井さんに、本当に彼女を思う気持ちがあるのなら、なぜ命をつなぐ医師まで連れて行くのか」
その一言に看護師は言葉を失った。そして、私の胸にも深く突き刺さった。
しばらくの沈黙の後、院長がぽんと看護師の肩を叩いた。
「長く見てきて、思い入れがあるのは分かる。だが、我々が変えられないこともある。早いところ、彼女のご家族に覚悟をしてもらったほうがいい」
だが、私はその日に死ななかった。
息も絶え絶えになりながら、見慣れた気配が私を包んだ。
目を開けると、私はまた一日、生き延びていた。
目の前には、疲れ果てた様子の蒼夜が立っていた。
驚きと喜びで、全身の力を振り絞って身を起こした。彼に抱きつきたかった。
だが、彼は私を突き放した。
「ここみ。君は他の女とは違うと思っていたが、まさか仮病を使って、俺を柚羽から引き離そうとするなんてな」
怒りを帯びた彼の顔に、私は呆然とする。
「違う……私は本当に……」
彼は耳を貸そうとしない。携帯を突きつけ、画面いっぱいの不在着信履歴を見せつけた。
「柚羽は一刻を争う状態なんだ。それを知りながら、こんなに急かして俺を戻らせたのか。君はそんなに自分勝手な女なのか」
そばにいた看護師が思わず声をあげた。
「石井さん、さっきまで奥さんは危篤状態だったんですよ!もう少しで……」
「大丈夫。小林さんのところへ行ってあげて」
私は彼女の言葉を遮って、そう言った。
体をベッドの奥に向けた。そっと目尻の涙を拭った。
蒼夜は怒りをぶつけたあと、ようやく冷静さを取り戻したのか、咳払いをひとつした。
「柚羽はこの病院に転院してきた。環境がいいから。そうすれば、俺も二人を同時に見られる」
「好きにしなさい」
私はもう疲れ果てて、これ以上言葉ひとつも出せなかった。
彼は長い間、私を見つめていた。やがて歩き去っていった。
振り返りもせずに。
そうか。待っている人がいるのだから、急がないわけがないのだ。
ふと、結婚したばかりの頃を思い出した。
初めて発作が起きたあの夜、死ぬかと思うほど痛かった。
一晩中泣き叫ぶ私を、彼は抱きしめ続けてくれた。
私の命を一か月だけつなぐ特効薬は、一回の使用につき、千万円もかかる。
彼は一切惜しんだりしなかった。どんなに高額な治療も、ためらうことなく払い続けた。
私が足手まといだと、自分を責めていた。それに対し、彼は笑って首を振った。
「ここみがいてくれるだけで、俺は十分恵まれてる。感謝してもしきれないよ」
あとで知った。私の容体が安定し、深く眠りについたあの夜、彼はお寺へ行き、一晩中跪いていた。
自分の寿命と引き換えに、私の無事を祈ったとかなんとか。
でも、今さら私は聞きたくなってしまう。
蒼夜、あの頃、心の中にいたのは私だったの?
それとも、柚羽だったの?
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