小説の世界に転生し、夫に見捨てられた端役の私第3話
この話は約1344字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
元の物語では、私は名前すら与えられない、端役にすぎなかった。
つかの間の愛に恵まれただけで、それだけで十分すぎるほど幸せだった。
あの日、私は誰にも内緒で、一人旅の準備をしていた。
どうせ死ぬなら、景色のいい場所で逝きたい。
最後に、蒼夜にだけは別れを告げようと思った。
そう決めて、病室の扉を開けたその瞬間、そこには寄り添う二人の姿があった。
「柚羽、薬を飲まないと、治るものも治らなくなっちゃうよ」
彼の腕の中には、唇を尖らせた柚羽がいた。
「いや。だって、私の病気が治ったら、蒼夜がいなくなっちゃうんだもん」
「いなくならないよ。柚羽が望むなら、ずっとそばにいる」
蒼夜が優しく彼女の鼻をつまむと、柚羽はふんと鼻を鳴らした。
「信じない。だって蒼夜はあの女と結婚してるんでしょ。彼女が騒いだらどうするの?」
その問いに、蒼夜は眉をひそめただけで、何も答えなかった。
まだ私に未練があるのかと思ったが、柚羽が突然、声を荒げた。
「もういい!ここであなたがあの女といちゃつくのを見てるくらいなら、私、帰るから!」
蒼夜は明らかに慌てていた。
「そんなことない!柚羽が嫌だって言うなら、しばらくは彼女のところへは行かないよ。ほら、傷口が開いちゃうよ」
なだめすかすように彼が抱きしめると、柚羽は次第に眠りに落ちていった。
その光景を目の当たりにして、私はもう自分をごまかし続けられなかった。
強い衝撃に、限界まで弱りきった体は耐えきれず、その場に崩れ落ちた。
「ここみ!」
背後から蒼夜の声がした。切羽詰まったその声に、焦りがにじんでいた。
触れられたくなかった。でも、もう逃げ切る力さえ残っていなかった。
私は彼の胸に崩れ落ち、血を吐いた。
「どうして……?俺が行ったときは、もう落ち着いていたはずだろ」
彼の声は震えていた。
落ち着いていたわけじゃない。私は彼に心配をかけまいと、無理に平気なふりをしていただけなの。
今は心が冷めきっていた。もう、何も演じる気などなかった。
看護師から離婚届を受け取り、彼に突きつけた。
「サインして。あなたを解放する。私も自由になるから」
震える手で受け取った彼は、目を通して息を呑んだ。
「離婚……?ふざけるな」
確かに、私の心も身体も、今は彼を必要としている。それに、離婚すれば治療費だって払えなくなる。
それがわかっているからこそ、彼は私が決して離れないと踏んでいたのだろう。
でも彼は知らなかった。私には、自分の命さえ捨てる覚悟があることを。
誓いを破った男とこれ以上言葉を交わす気もなかった。私は柚羽の病室を指さした。
「離婚すれば、あなたたちの邪魔をする者はいなくなる。安心して彼女の世話に専念できる。それでいいじゃない?」
彼は慌てて私の手を握りしめた。
「ここみ、違うんだ。君が思ってるようなことじゃない。柚羽とはただの旧友で、療養に専念させるために、そう言っただけなんだ。あれは本心じゃなかった」
本心かどうかなんて、今となってはどうでもよかった。
ただひとつ、確かにわかっていることがある。
私は、彼のもとを離れたい。
発作が起きたあの夜のことを、私は一生忘れないだろう。
広い病室は、ひどく寂しく、冷たかった。
それなのに私の夫は、他の女の側で、優しく看病していた。
こんな結婚に、これ以上何の意味があるというのか。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R98876- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。