寵を失いし宮女、後宮を去る第3話
この話は約2063字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
三日後は、若吟が入宮して初めて迎える誕生日だった。
そのために、行舟はこれ以上ないほど盛大な誕生日の宴を催した。
朝廷の百官とその親族がこぞって招かれ、若吟はまだ皇后の位にこそ就いていないものの、すでに皇后同然の扱いを受けていた。
若吟付きの女官の長である私は、当然ながら朝から晩まで奔走していた。少しでも手落ちがあれば若吟の機嫌を損ね、その怒りの矛先が宮中の下働きの者たちに向かいかねないからだ。
宴が始まる前、私は若吟を呼びに行こうとしたが、部屋の外で、若吟が両親と話しているのが聞こえてきた。
「若吟、聞くところによると、陛下がお前をそこまで寵愛なさるのは、かつて罰として跪かされていたとき、お前が一枚の外套を差し出したからだそうだな。
あの頃、陛下はまだ冷遇されていた一皇子に過ぎなかったというのに、お前はその時すでに、陛下が将来皇帝の座に上り詰めると見抜いていたのか」
若吟は声を潜めて答えた。
「父上、私を買い被りすぎでございます。あの時はそんなこと知る由もありませんでした。ただ、あの外套は皇女様とお酒をいただいていた際にうっかり汚してしまって、もう要らないと思って何気なく放り出しただけのこと。
たまたま陛下がそこに跪いておられたから、勘違いなさっただけですわ」
父は表情を強張らせ、すぐさま念を押した。
「そういうことなら、この話は決して陛下のお耳に入れてはならないぞ」
若吟は頷いた。
「ええ、もちろんですわ」
外でそれを聞いていた私は、思わず声を漏らして笑ってしまった。
自分自身を、そして行舟をも嘲るような、乾いた笑いだった。
なるほど、行舟が若吟に恋をした理由とは、まったくの勘違いだったというわけか。
中にいた人は物音を聞きつけ、「そこにいるのは誰!」と声を尖らせた。
私は答えることなく、身を翻してその場を離れた。
誕生日の宴は滞りなく始まった。だが途中、若吟が立ち上がって行舟に酒を勧めようとしたその瞬間、若吟は突然血を吐き、気を失って倒れた。
行舟はたちまち顔色を変え、大切なものを失うことを恐れるような表情を浮かべると、狂ったように若吟の元へ駆け寄った。
行舟があれほど取り乱すところを、私はこれまで一度も見たことがなかった。かつて九人の皇子が皇位を巡って争い、行舟自身の命さえ風前の灯だったときでさえ、行舟は常に冷静を保っていたというのに。
まるでこの世のすべてが、自分には何の関わりもないことだとでも言うように。
行舟はかつて言っていた。いずれ帝位に就く身であるからには、喜怒を顔に出してはならぬ、決して己の弱みを他人に見抜かれてはならぬのだと。
けれど今、百官の前で、その弱みはあまりにもあからさまに晒されていた。
宮中の医官がこぞって呼び集められ、若吟の寝台を取り囲んで診察にあたった。
行舟は寝台のそばを片時も離れなかった。
「若吟はいったいどうしたというのだ!」
医官たちは部屋中にひれ伏していた。
「陛下、柳様は毒を盛られております。この毒は、心臓から採った血を薬に用いなければ解毒はかないません」
それを聞いた行舟は、少しの躊躇いもなく自らの心臓から血を採ろうとした。医官や宦官たちは慌てて行舟を押し止め、なおも額を地に擦りつけて訴える。
「なりませぬ。陛下は何ものにも代えがたい尊い御身。玉体を軽々しく傷つけてはなりませぬ!
それに、この毒は、毒を盛った者本人の心臓から採った血でなければ効き目がございません。
今すべきは、毒を盛った者を突き止めることでございます!」
なぜか胸の内に不安がこみ上げてきた。顔を上げると案の定、若吟が行舟の腕の中でぐったりと寄りかかりながら、青ざめた顔で、指をこちらへ突きつけていた。
「先ほど、私は明月が差し出したお茶しか飲んでおりません。その後すぐにめまいがして、腹が引き裂かれるように痛みだしましたの」
すべては私に向けられた罠だった。宴が始まってから、私は若吟に何も渡してなどいない。
きっと若吟は、先ほどの会話を立ち聞きしていたのが私だと見抜いたのだろう。だからこそ前もって医官と示し合わせ、口封じのために私を陥れようとしたに違いない。
けれど、そこまでする必要があっただろうか。私は最初から、あの会話のことを行舟に告げるつもりなど毛頭なかった。今の若吟が行舟の心の中でどれほど大きな存在になっているかを思えば、私が何を言おうと行舟が信じるはずもないのだから。
私はもう、誰の暮らしにも口を挟むつもりはなかった。じきに、ここを去るのだから。
けれど今となっては、その場に跪き、行舟に釈明するほかなかった。
「陛下、私は宴が始まってから、柳様に飲食物を差し上げたことは一度もございません。
女官たちを一人ずつお呼びになり、お尋ねくださいませ。それで真相は明らかになりましょう」
行舟は黙り込んだまま私を見つめ、何かを決めかねているようだった。
そのとき突然、若吟が再び激しく血を吐き、行舟の袖を赤く染めた。
行舟はその鮮やかで目に痛いほどの赤を見つめ、瞳の奥に冷たい光を宿すと、ついに決断した。
「彼女を押さえろ。血を採れ」
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