家族へ遺した、最期の贈り物第2話
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まもなくして、誕生日会の準備が整った。
食卓には明里の大好物であるサーモンが並び、ケーキには彼女の名前が書かれている。
鉄夫の言ったとおり、この誕生日会は最初から彼女のためのものだ。
だから、ケーキに私の名前はない。
「お母さん、もうひとつケーキを用意したほうがいいんじゃないの?お客さんに何か言われたらどうするの?」
明里は私たちの母である鮎沢久実子(あゆさわ くみこ)の腕にしなだれかかり、甘えた。
「いらないわよ。あの子の性格で、どこに友達がいるっていうの?仕事もうまくいかないし、本当の友達なんてできるわけないでしょう」
久実子は明里の手を軽く叩いて、宥めた。
「よく考えてごらん。普段あの子は、あなたにどんな態度とってたの?あんまり優しすぎると損するのよ」
――私がどんな態度をとっていたって?
幼い頃から、明里は私のものを何でも奪い、私は一度も拒んだことがなかった。
妹がいることが嬉しくて、だからこそ、ずっと我慢してきた。
けれど、彼女はそれに味を占め、どんどんエスカレートしていった。
卒業の日、私が手伝った彼女の卒業制作は国際的な賞を受賞した。
あれは私にとってごく普通の作品に過ぎなかったので、当時は特に何も感じなかった。
だがその後、甘い蜜を覚えた彼女は、私の作品を片っ端から奪うようになった。
渡さなければ、男に私を殴らせた。
助けを求めても、誰も信じてはくれなかった。
「妹の才能に嫉妬して狂ってる」と、皆が口を揃えて言った。
その時、私はようやく悟った。
――私が失ったのは、賞などではない。両親と竜也の愛そのものだ。
明里は天才と呼ばれているが、私はその天才を引き立てるための存在に過ぎない。
その記憶を思い出し、私は背を向けた。もう、この家族の姿を見たくない。
だが、背後の明里はまだ芝居を続けている。わざとらしく足を踏み鳴らしながら言った。
「もう、お母さん、声が大きいよ。お姉ちゃんが戻ってきたら、どうするの?」
「ふん、聞こえたって構わないわよ。彼女が戻ってきたなら、なおさら言ってやるわよ」
久実子の目には軽蔑しかなく、一片の情けも感じられない。
私はただ静かに、彼らが私について語るのを聞いているだけだ。
時計の針が何度も一周し、誕生日会の時間が近づいてきた。明里は部屋に戻り、念入りに身支度を整えている。
竜也はしかめ面でスマホを見つめ、別荘の中を一通り探したが、私の姿はどこにも見当たらなかった。
「お義父さん、お義母さん、俺が買い物に行ってきます。すぐ戻ります」
そう言うと、彼はまた私にメッセージを送った。
【機嫌直せ。たかが一着の服だろ?俺が買ってやる。
早く戻ってこい、誕生日会が始まるんだ】
彼が慌ただしく外へ出ていく背中を見ても、私の心は何も動かない。
彼は自分が探している妻が、今まさに地下室にいると知ったら――
しかも、ハエにたかられながら――
どんな顔をするのだろうか。
私はそっとため息をつき、考えるのをやめた。
視線を部屋の隅にある箱に落とし、彼らがそれを開ける瞬間を想像すると、胸が少し高鳴った。
少しして、明里はドレスの裾を持ち上げ、上機嫌で部屋から出てきた。
「お父さん、お母さん、竜也さんはどこに行ったの?」
久実子はため息をつきながら言った。「きっと樹里を探しに行ったのでしょう。本当に優しすぎるわね。
私から見ると、あの子は本当に良い婿よ。あなた以外にふさわしい人はいないわ」
その瞬間、明里の表情は一気に曇り、目の奥に計算高い色が浮かんだ。彼女はくるりと踵を返し、部屋へ戻っていった。
まもなくして、竜也がドレスを手に汗だくで戻ってきた。
私に再びメッセージを送ろうとしたその時――明里の部屋から、天を揺るがすような泣き声が響き渡った。
「私のデザイン画を、誰が破ったのよ!」
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