子宮ガンの診断書を持って来た義母に、離婚届を突きつける第2話
この話は約1843字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
森田の泣き声に、健一は苛立ちを隠せない様子だった。
それでも優しくあの女をなだめようとする。慰められれば慰められるほど、森田の態度は増長していき、私への視線は挑戦的になる一方で、声は極端に可哀想ぶっていた。
「息子よ、お前の父さんは早くに死んで、私は必死で一人でお前を育てた。それだけでも私の役目は果たせたわ!
今じゃ、この婆も死に際よ。
お父さんのような待遇なんて望まないわ。ただ、あなたと大輔と少しでも長く過ごしたいだけなの。全て私が悪かったわ。夫婦仲を裂いたのも私。出て行くわ、出て行く!」
もちろん、あの女が本当に出て行くわけがない。
私は素早く健一の腕を掴み、放っておくように言った。森田は玄関まで行き、健一が私に制止されているのを確認すると、またしても大声で泣き崩れ、床に座り込んだ。
「なんて薄情な!
息子よ!嫁をもらって実の母親を捨てるなんて!
うぅうぅ!」
あの女が本当に出て行くはずがない。これは初めての芝居じゃない。昔から、こうして弱者を演じては同情を誘ってきた。彼女との付き合いの中で、何度も騙された過去がある。
でも今は違う。
同じ手を使っても、もう私には通用しない。
しかし、森田はやはり健一の母親なのだ。実の母が死にものぐるいで泣き叫び、さらにがんまで患っているとなれば、健一だって放っておけるはずがない。私の手を振り払うと、すぐさま森田を助け起こし、私に向かって怒鳴りつけた。
「いい加減にしろ!早く母さんに謝れ!」
そして、私が最も愛情を注いできた大輔までもが、非難に満ちた目を向けてきた。
「お母さん、父さんとおばあちゃんから全部聞いたよ。たかが些細なことで、どうしてそんなに長く恨みを持ち続けるの?おばあちゃんの命も無視するつもり?」
たかが些細なこと。
愛情込めて育て上げた息子を、私は信じられない思いで見つめた。何か言おうとした矢先、大輔が言い放った。
「おばあちゃんを住まわせないなら、もうお母さんのこと認めないから!」
大輔が私を脅すなんて。
私が必死で育て上げた子が、彼を殺しかけたあの女のために私を脅すなんて。
私の心は底冷えし、観念したように言い放った。
「今ここではっきりさせましょう!
この家には、あの人か私、どちらかしかいられないわ!」私は怒りで全身を震わせながら、大輔の目をじっと見つめ、涙が込み上げてくるのを必死でこらえた。
でも、息子にはそれが見えていない。それどころか私の態度を幼稚だと思っているらしく、嘲笑うように言った。
「お母さん、おかしくなったの?いい年して、なんでそんな子供みたいなこと言うの!そんな考えじゃ、僕が結婚する時も、嫁とお母さんのどっちかを選べって言い出すつもり?」
「優子さん、もういい加減にしてくれ。平和な家庭なのに、どうしてわざわざ波風を立てるんだ」
健一は苛立たしげに私を睨みつけた。
「お前のために親不孝者を演じて何年も過ごしてきたのに、母さんとの最期の時間さえ許してくれないのか?」
健一の言葉で、私は全てを悟った。
血のつながりと私の間で、私が選ばれることなど一度もなかったのだ。もし私を選んだことがあるとすれば、それは当時の状況に追い込まれての選択でしかなかった。
私の心の中にあった、父子への期待も完全に消え去った。
森田の言葉は正しかった。
血は水よりも濃い。
彼らこそが本当の家族、血の繋がった一族なのだ。
私は彼らを見つめ、皮肉な笑みを浮かべた。「お世話したいんなら、好きにすれば?」
話が通じない相手と、これ以上言葉を交わす意味もない。
もう彼らと口を利く気も失せ、黙って自室へ戻った。
私の沈黙を、彼らは折れた証拠だと思ったらしい。
健一はわざと聞こえよがしに冷笑した。「女ってのは気難しいもんだな。甘やかしすぎたせいで、自分を何様だと勘違いしてやがる!」
すると森田は、またもや聖人ぶりを発揮した。「もう優子さんのことは責めないで」
「私が全て悪いのよ」あの女は啜り泣きながら声を上げた。「私が来たばかりに、せっかくの家庭が台無しになって」
「おばあちゃん、そんな風に言わないで」
大輔は森田をなだめながら言った。「お母さんが気難しくて面倒なだけだよ。お母さんが薄情だから、お年寄りにまでこんな仕打ちするんだ」
「心配しないで、おばあちゃん」息子は必死に自分の立場を示した。「僕と父さんは絶対におばあちゃんの味方だから!ゆっくり住んでいてよ。
お母さん、今日ボーナス出たんだから、後で謝罪の食事に連れて行かせるよ。オマール海老とタラバガニを食べさせるからさ!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)