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婚約者は僕の部屋も功績も第2話 消された名前

この話は約1174字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

翌日、完成したホテルでは、開業披露会のリハーサルが行われていた。

本番にはグループ各社の役員や取引先が集まり、会場の様子は社内向けに配信される。

僕は中庭の設計責任者として、壇上で計画意図を説明するはずだった。

少なくとも、前日までは。

会場へ入ると、スクリーンに映し出された登壇者一覧から僕の名前が消えていた。

代わりに表示されていたのは、『クリエイティブアドバイザー 瀬川悠斗』という肩書だった。

「朔、ちょうどよかった」

玲奈が台本を持って近づいてくる。

「今日は裏で進行を見て。中庭の説明は悠斗に任せるから」

「契約もないのに、会社を代表して話させるの?」

「本番までには整える。あなたは人前に出るのが得意じゃないでしょう」

勝手に決めたことを、まるで僕への気遣いのように言う。

舞台では、悠斗が僕の原稿を手にマイクテストをしていた。

「海から吹く風を光の動きに置き換え、夜の庭に第二の波を生み出しました」

何度も現場へ通い、照明会社と練り上げた一文だ。語尾ひとつ変わっていない。

リハーサルを見ていた担当者が拍手する。

悠斗は照れたように笑い、僕のほうへ視線を流した。

「相馬さんの資料が分かりやすかったので、すぐに理解できました」

僕が作った資料だとは、ひと言も触れない。

玲奈は満足そうにうなずいた。

「悠斗には発信力があるわ。いいものを作るだけで終わらせないのが、これからの仕事よ」

ステージ脇の操作卓には、発表用データを管理するタブレットが置かれている。

履歴を開くと、資料は昨夜二十三時十二分に差し替えられていた。

作成者欄の『相馬朔』が削除され、『瀬川悠斗』へ変更されている。

元データは僕の社用アカウントで作成したものだ。バージョン履歴まで消すことはできない。

画面を保存し、コンプライアンス室の専用フォルダへ送った。

直後、担当の神崎さんから電話が入る。

人のいないバックヤードへ移動し、声を落として電話に出た。

「相馬さん、瀬川氏との業務委託契約は、現時点で申請すらされていません」

「では、明日の登壇も認められていない?」

「はい。レジデンスの利用者変更も、成果物の作成者変更も、承認された記録はありません。関係部署で証拠保全を始めています」

普段どおり勤務し、本番にも出席してほしい。神崎さんはそう言い添えた。

通話を終えると、玲奈がバックヤードの入口に立っていた。

「誰と話していたの?」玲奈が、探るような目を向けてくる。

僕はスマートフォンをポケットにしまい、何でもない顔で答えた。「総務に、確認したいことがあっただけだ」

「余計な波風は立てないで」

彼女はそれ以上追及せず、スマートフォンの画面をこちらへ向けた。

ホテル最上階にある個室ラウンジの予約画面だった。

「今夜七時。悠斗も交えて、三人で話しましょう」

「何を?」

「部屋とプロジェクトのこと。あなたの署名が必要な書類が二枚あるの」

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