婚約指輪がプルタブ?大富豪の令嬢ですが第1話
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彼氏・瀬戸悠真(せと ゆうま)と婚姻届を出すはずだった当日、約束の数千万円の特注ダイヤは、一つのプルタブにすり替わっていた。
私・神崎翠(かんざき みどり)はその場で、悠真に別れを突きつけた。
彼は慌てて購入証明書を取り出した。
「指輪は家に忘れてきただけだ。嫌なら、今すぐ取ってくる」
私は、こちらへ向かって慌てて駆け寄ってきた人影に視線を落とし、冷ややかに告げた。
「必要ないわ。あなたの『可愛いお気に入り』が、代わりに届けてくれたようだから」
目を赤くした女の子が私たちの前に飛び込んでくると、赤く腫れ上がった彼女の薬指には、大粒のダイヤの指輪が食い込むようにはまっていた。
彼女は肩を震わせて泣きながら言い訳をした。
「悠真さん、私、翠さんのためにサイズを確かめようとしただけで、そしたら抜けなくなっちゃって……」
悠真の顔色がみるみるうちに青ざめ、激しい口調で彼女を叱りつけた。
「誰が触っていいと言った!それは俺が翠に贈るものだぞ!」
彼は乱暴に指輪をねじって引き抜こうとしたが、指輪は微動だにしない。
私は腕を組んでこの茶番を眺めながら、ふっと笑みをこぼした。
「簡単なことよ。外せないなら、指ごと切り落とせばいいじゃない。」
* * *
彼氏・瀬戸悠真(せと ゆうま)と婚姻届を出すはずだった当日、約束の数千万円の特注ダイヤは、一つのプルタブにすり替わっていた。
私・神崎翠(かんざき みどり)はその場で、悠真に別れを突きつけた。
彼は慌てて購入証明書を取り出した。
「指輪は家に忘れてきただけだ。嫌なら、今すぐ取ってくる」
私は、こちらへ向かって慌てて駆け寄ってきた人影に視線を落とし、冷ややかに告げた。
「必要ないわ。あなたの『可愛いお気に入り』が、代わりに届けてくれたようだから」
目を赤くした女の子が私たちの前に飛び込んでくると、赤く腫れ上がった彼女の薬指には、大粒のダイヤの指輪が食い込むようにはまっていた。
彼女は肩を震わせて泣きながら言い訳をした。
「悠真さん、私、翠さんのためにサイズを確かめようとしただけで、そしたら抜けなくなっちゃって……」
悠真の顔色がみるみるうちに青ざめ、激しい口調で彼女を叱りつけた。
「誰が触っていいと言った!それは俺が翠に贈るものだぞ!」
彼は乱暴に指輪をねじって引き抜こうとしたが、指輪は微動だにしない。
私は腕を組んでこの茶番を眺めながら、ふっと笑みをこぼした。
「簡単なことよ。外せないなら、指ごと切り落とせばいいじゃない。」
悠真は一瞬ポカンとし、すぐさま女の子に向かって怒鳴りつけた。
「莉子!お前は何てことをしてくれたんだ!その指輪が抜けなかったら、明日から会社には来なくていい!」
水野莉子(みずの りこ)の目は一瞬で涙でいっぱいになったが、悠真に許しを乞うことはせず、私の方へ向き直り、何度も何度も頭を下げて謝罪し始めた。
その大げさなお辞儀のせいで、市役所のロビーにいた人々が次々とこちらを振り返る。
「翠さん、本当にごめんなさい。お願いですからクビにしないでください。私、どうしてもこの仕事が必要なんです」
言葉が終わるや否や、彼女は指を無理やり捻り、痛々しい角度に曲げてみせた。
悠真は眉をひそめ、すかさず彼女の手首を掴んで止めた。
「馬鹿かお前は。あんな話を真に受ける奴があるか?」
彼は車のキーを取り出し、莉子を引きずって外へ向かいながら、有無を言わさぬ口調で言った。
「車に乗れ、今から病院へ行く。今日中に絶対にその指輪を外すぞ!」
その間、悠真は私に一瞥もくれなかった。
市役所の中では、通りすがりの人々が少なからず同情の目を私に向けていた。
だが、私は異常なほど落ち着いていた。
何しろ、似たような茶番はこれまでに何百回と繰り返されてきたのだ。私はとうの昔に慣れっこになっていた。
すべてが歪み始めたのは、1年前のパーティーでの出来事だった。
当時、私は婚約の報告をしようと準備していた。
だが、ワインを運んでいたウェイトレスが手を滑らせてボトルを割ってしまったのだ。
彼女はふらふらと悠真へ近づき、その目には久々の再会を喜ぶような輝きが宿っていた。
「悠真さん、久しぶり。婚約したの?」
その馴れ馴れしい口調は、明らかにただの知り合いではなかった。
私と悠真は付き合って5年。彼の交友関係はすべて把握しているつもりだったが、この人の顔は見たことがなかった。
いつも温厚な悠真が、私の前で初めて声を荒げた。
「莉子、お前が何をしたか分かってるのか。さっき割ったシャンパンが、一体何百万すると思ってるんだ?」
莉子は顔面を蒼白にしてその場に立ち尽くし、まるで過ちを犯した子供のように悠真の怒りを一身に浴びていた。
大人の対応として、その場はあえて追及せず、ただ新しいボトルを運ばせた。
後に、悠真はこう説明した。
莉子はただの幼馴染で、子供の頃から彼にべったりくっついて回っていたが、引っ越してからは完全に連絡が途絶えていたのだと。
彼女を語る悠真の口調には、悪夢が蘇ったようなウンザリした響きすら混じっていた。
しかし翌日、私は会社で入社手続きにやって来た莉子と出くわしたのだ。
私が問い詰めると、悠真は少し苛立ったように眉間を揉んだ。
「翠、俺だってどうしようもなかったんだ。莉子は両親を交通事故で亡くして大学も中退し……今はレストランのバイトで、なんとか食いつないでる状態なんだよ。
彼女の両親には恩がある。見捨てるなんて無理だよ。君なら分かってくれるよな?」
私には到底理解できなかった。
だが、悠真との5年間の情を思い、私は沈黙を選んだ。
婚姻届を出した後、悠真を実家に連れて行き、両親に会わせれば、自分の選択が間違っていなかったと証明できるはずだと思っていた。
だが、婚姻届を出すその日、悠真が開けた指輪ケースの中に、一つのプルタブが転がっているなどとは、思いもしなかった。
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