娘誕生日、母の私が入替え国家組織へ第1話
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娘の誕生日だった。
彼女はわざと、みんなの前で言った。「ママはくたびれた顔のおばさんなんだから、ケーキは食べなくていいよ。これ、パパがすごく高いのを買ったんだもん」
胸の奥が、すとんと沈んだ。
振り向くと、娘は一番大きなケーキを皿にのせ、家庭教師に差し出していた。
「小山ママ、このケーキのイチゴ、すごく甘いの。早く食べて」
夫は私の居心地の悪さなど気にも留めず、笑いながら娘と家庭教師の頬にクリームを少し塗った。
「長生きして、元気でいられますように」
三人が楽しそうに笑い合う姿は甘くて幸せそのものに見えた。
その瞬間、私はすべてを諦めた。
そして私の先生に電話をかけ、国の極秘プロジェクトに参加することを選んだ。
この人たちのために夢を捨てるなんて、あまりにも割に合わなかった。
* * *
娘の誕生日だった。
彼女はわざと、みんなの前で言った。「ママはくたびれた顔のおばさんなんだから、ケーキは食べなくていいよ。これ、父さんがすごく高いのを買ったんだもん」
胸の奥が、すとんと沈んだ。
振り向くと、娘は一番大きなケーキを皿にのせ、家庭教師に差し出していた。
「小山ママ、このケーキのイチゴ、すごく甘いの。早く食べて」
夫は私の居心地の悪さなど気にも留めず、笑いながら娘と家庭教師の頬にクリームを少し塗った。
「長生きして、元気でいられますように」
三人が楽しそうに笑い合う姿は甘くて幸せそのものに見えた。
その瞬間、私はすべてを諦めた。
そして私の先生に電話をかけ、国の極秘プロジェクトに参加することを選んだ。
この人たちのために夢を捨てるなんて、あまりにも割に合わなかった。
……
私の話を聞くと、先生は数秒黙り込み、やがて少し落ち着いた声で言った。
「行かないって言ってたよね?子どもも、まだ小さいし。どうして急に気が変わったの?」
荷造りをしていた手が止まり、私は一度唇を引き結んでから答えた。
「大丈夫ですよ、先生。もうちゃんと考えました。七菜ちゃんには、私みたいな母親はいらないんです。家で専業主婦をしているより、国のために力を使いたいんです」
電話を切ったあと、私はベランダのソファに座り、することもなく外の景色を眺め続けていた。
頭の中では、今夜レストランで起きた出来事が自然と何度も蘇っていた。
今日は娘・内川七菜(うちかわ なな)の誕生日だった。お祝いのため、私は都内の高級レストランで個室を予約していた。
朝早くから休みを取り、定時よりも早く帰宅し、手作りでイチゴのケーキを焼いた。
最初は終始、和やかな雰囲気だった。
けれど、ケーキを切り分ける段になって、七菜はわざと私を何度か見てから口を開いた。
「ママはくたびれた顔のおばさんなんだから、ケーキは食べなくていいよ。これ、父さんがすごく高いのを買ったんだもん」
胸の奥が、すとんと沈んだ。
振り向くと、娘は一番大きなケーキを皿にのせ、家庭教師の小山愛海(こやま まなみ)に差し出していた。
「小山ママ、このケーキのイチゴ、すごく甘いの。早く食べて」
その言葉が落ちた瞬間、場の空気が一瞬止まり、友人や親戚たちは黙って私たちに視線を向けた。
やがて小さなざわめきが広がり、七菜の中で、私はもう母親として数えられていないのだと悟った。
私はその場に立ち尽くし、ただ気まずく笑うしかなかった。
けれど内川安彦(うちかわ やすひこ)は私の顔色には目も向けず、笑いながら七菜と愛海の頬にクリームを塗った。
「長生きして、元気でいられますように!」
「パパ、ひどい!小山先生にも塗った!」
愛海はか弱そうな笑みを浮かべ、今度は父娘の頬にもそっとクリームを塗り返した。
三人が笑い合う甘く睦まじい光景を目にした瞬間、私の中で何かが静かに切れた。そのまま背を向け、店を出た。
帰り道、ネオンがきらめいていた。
無数の灯りの中に、私を迎え入れてくれる明かりは一つもなかった。
冷たい風に吹かれながら、思考は乱れ、頭の中には私と安彦の過去ばかりが浮かんでは消えた。
私たちは大学で出会い、惹かれ合い、恋に落ちた。
キャンパスからウェディングドレスまで、周囲から羨ましがられる恋人同士だった。
結婚して二年目、私は七菜を身ごもった。
体質の問題かどうかは分からないが、妊娠中は不眠が続き、苦しみが重なって倒れ、病院に運ばれることも少なくなかった。
数か月のうちに、体は見る見る痩せていった。
安彦は私の様子に胸を痛め、涙を流しながら、この子を諦めてほしいと訴えた。そして膝をつき、言葉を絞り出すように誓った。
「この先、子どもがいなくても、君を愛し続ける。苦しむ君を見て、何もせずにいられるはずがない。子どもと君なら、俺は君を選ぶよ」
あの頃の安彦はどれほど真剣で、どれほど私を愛していたのだろう。
それなのに、どれほどの時間が経ったというのだろう。まだ倦怠期と呼ばれる時期にも達していない。
愛海という存在が彼の人生に入り込み——気づけば、命がけで産んだ娘も、私が愛し続けてきた夫も、私から離れていった。
人生の途中に取り残されていたのは、私だけだった。
ガチャリと音を立ててドアが開き、安彦が不機嫌そうな顔で入ってきた。
「黒木玲奈(くろき れいな)、いい加減にしろ。今日は娘の誕生日だろう。母親のお前が途中で帰るなんて、どういうつもりだ。七菜ちゃんは冗談を言っただけじゃないか。それを本気にするのか」
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