娘に三発撃った夫を、私はもう愛せない第1話
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深田麻実(ふかだ あさみ)の夫である深田博之(ふかだ ひろゆき)は、警察の特殊急襲部隊随一の狙撃手だった。任務での命中率は百パーセント。これまで、ただの一度として的を外したことはなかった。深田麻実(ふかだ あさみ)の夫である深田博之(ふかだ ひろゆき)は、警察の特殊急襲部隊随一の狙撃手だった。任務での命中率は百パーセント。これまで、ただの一度として的を外したことはなかった。
けれど今回の救出作戦では、彼は実の娘、深田晴菜(ふかだ はるな)に3発もの銃弾を撃ち込んだ。4発目でようやく犯人を仕留めた。
すべては、麻実の姉である高月綾子(たかつき あやこ)を無事に逃がすためだけに。
救急車の中で、麻実は震える両手で娘を抱きしめていた。小さな体からとめどなくあふれ出す鮮血が、彼女の視界をどこまでも赤く染め上げていった。
病院へ搬送されたものの、晴菜は右手と左脚を切断することとなり、かろうじて一命を取り留めた。
綾子は、かすり傷ひとつ負っていなかった。
誰もが、博之は職務を全うするため、あの引き金を引いたのだと信じている。
だが、麻実だけは知っていた。あの引き金を引いたのは、彼自身の私情からだったのだと。
けれど今回の救出作戦では、彼は実の娘、深田晴菜(ふかだ はるな)に3発もの銃弾を撃ち込んだ。4発目でようやく犯人を仕留めた。
すべては、麻実の姉である高月綾子(たかつき あやこ)を無事に逃がすためだけに。
救急車の中で、麻実は震える両手で娘を抱きしめていた。小さな体からとめどなくあふれ出す鮮血が、彼女の視界をどこまでも赤く染め上げていった。
病院へ搬送されたものの、晴菜は右手と左脚を切断することとなり、かろうじて一命を取り留めた。
綾子は、かすり傷ひとつ負っていなかった。
誰もが、博之は職務を全うするため、あの引き金を引いたのだと信じている。
だが、麻実だけは知っていた。あの引き金を引いたのは、彼自身の私情からだったのだと。
* * *
麻実は取り乱し、博之の職場に押しかけたこともあった。彼の拳銃を奪って胸元に銃口を突きつけ、半狂乱で問い詰めた。どうしてなの、と。
博之は落ち着き払った声で答えた。
「スコープの向こうで、犯人がナイフで綾子の首を切りつけたのが見えた。次の瞬間には人質を殺すつもりかもしれない。賭けには出られなかった。
あの3発は、晴菜の命を奪わずに犯人を仕留める最善の選択だった。すべて計算し尽くした上でのことだ」
その声は少しも乱れることなく、静かに響き渡った。
「犯人を仕留める。それが俺の職務だ」
拳銃を構える両手がわななき、麻実の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「じゃあ誓える?綾子のためじゃないって」
博之は目を伏せ、何ひとつ答えようとはしなかった。
その沈黙が、麻実の胸を締めつけた。力なく手から拳銃が滑り落ち、彼女は体を折り曲げ、声もなく泣き崩れた。
彼が覗き込んでいたスコープに映っていたのは、綾子ただひとりだったのだ。実の娘の命が風前の灯火であったあの瞬間、彼の頭を占めていたのは、もうひとりの女をどう守るかということだけだった。
隊員に引き離された麻実は、娘の集中治療室の前で一昼夜座り込んだ。その日を境にして、彼女は別人のように変わってしまった。
もう毎日、昼に弁当を作って博之の職場へ届けることも、立入禁止エリアの外からつま先立ちになって彼の姿を追うこともしなくなった。
毎月の収入の半分を母、高月明美(たかつき あけみ)に渡すことも、仕事帰りに明美の家事を手伝うこともやめた。
綾子の息子である高月悠斗(たかつき ゆうと)も家に送り返した。もう送り迎えも、身の回りの世話を焼くこともしなくなった。
事件から半月が過ぎ、博之はようやく病室に姿を見せた。
連れ立っていたのは、綾子と明美だった。
博之は病床の晴菜を見つめ、その瞳に痛ましげな色を浮かべながら、小さな頭を撫でようと手を伸ばした。だがその手は、麻実によって強く払いのけられた。
「触らないでッ!」
麻実は荒い呼吸で胸を大きく上下させ、目を強く閉じた。
「……出て行って」
博之は眉間に深く皺を寄せた。
「いつまでそうやって意地を張るつもりだ。
晴菜は俺の娘でもある。お前以上に、俺だって辛いんだ」
晴菜の布団を掛け直していた麻実の手が止まり、堪えきれずに涙がこぼれ落ちた。ゆっくりと振り返り、冷たく口元を歪めた。
「はっ……あなたも辛いって?
辛いなら、どうして一度も来なかったの?それなのに、傷ひとつ負わなかった綾子には、まるで犬のようにつきまとって」
病室が一瞬、静まり返る。明美は険しい顔で麻実に歩み寄ると、勢いよく彼女の頬を平手打ちし、鋭い声を上げた。
「この人でなし!綾子の夫は博之を助けて命を落としたのよ。あの子がどれだけ長い間、ひとりで子供を抱えて苦労してきたと思ってるのよ!よくも綾子に、そんなことが言えたわね!」
耳の奥で甲高い音が鳴り、麻実の頬が熱を持って腫れ上がった。
顔を覆いながら、記憶が遠い過去へと引き戻されていった。
そう、綾子の夫が博之をかばって死んだ。そのせいで、博之の休暇はいつも綾子と悠斗のために費やされ、父親代わりとして出席する保護者会も、悠斗のものばかりだった。
明美は悠斗ばかりを可愛がり、晴菜にはただの一度として笑顔を向けなかった。お年玉やプレゼントをもらうのも悠斗だけ。
家族旅行でさえ、いつもあの4人だけのものだった。
彼らは麻実の犠牲の上に成り立つ生活を、当然のように享受し続け、麻実と晴菜を家族として扱ったことは一度もない。
そばに立つ綾子の目に、今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんだ。
「ごめんね麻実、全部私が悪いの。博之やお母さんを責めないで……」
麻実は青ざめた顔のまま身をかがめ、意識のない晴菜の、青白い小さな顔にそっと触れ、額に唇を寄せた。
晴菜。ママがこの吐き気のするような家からあなたを連れ出すからね。これからは、これからは、ママの愛情は全部、晴菜だけのものだからね!
麻実は振り返り、博之を見据えると、静かな声で告げた。
「離婚しましょう、博之」
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