妹を救った私は、炎の中に置き去りにされた第3話
この話は約1631字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
その時、2階から突然、耳をつんざくような音が響き渡った。
ピッ――ピッ――ピッ――!
煙感知器だ。
部屋に残っていた煙の濃度が再び警報を作動させ、赤いランプが激しく点滅している。
私は廊下に浮かびながら、けたたましく鳴り続けるその装置を見つめる。
これが、私に残された最後のチャンスだ。
誰かが様子を見に来てくれれば、誰かがあの木板をこじ開けてくれれば……
私を見つけてくれる。
私が家出したんじゃないと、分かってくれる。
私はずっとここにいて、みんなが探しに来るのを待っていたのだと、知ってもらえる。
階下から物音が聞こえてきた。
「なんだよ、うるせえな!」
父がソファから立ち上がり、いら立った様子で2階へ向かってきた。
来た!
お父さんが来た!
この瞬間、私の胸が激しく高鳴った――もう心臓なんて動いていないのに。
お父さん、早く来て!
早くドアをこじ開けて!
私はここにいる!
父は2階へ上がり、釘で固く封じられた私の部屋の前に立った。
眉をひそめ、頭上で点滅する赤い警報ランプを見上げる。
煙感知器はまだ鳴り続けている。
その音は、次第に激しくなっていく。
ピッピッピッピ――!
「ったく、このポンコツ、昨日ちゃんと点検したばっかりだろ」
父はぶつぶつ言いながら、腰の工具袋に手を伸ばした。
そこには釘抜き用のハンマーが入っていた。
父は木板をこじ開けて、中を確認するつもりだ。
近い。
もっと近くに。
ついにハンマーを取り出した。
父はドアの前に立ち、木板と釘の隙間にハンマーの先端を差し込んだ。
あと少し力を入れてこじれば、木板が外れる。
ドアが開けば、父は私の真っ黒に焼け焦げた遺体を見る。
そして、真実を知る。
私の魂は震え、必死に叫んでいた。
こじ開けて!
お願いだから、こじ開けて!
父の腕に力が入る。
ハンマーが木板を押し上げ始めた。
ギィ……
木板が小さな音を立て、ほんの少しだけ緩んだ。
その時――
「お父さーん!」
階下から、妹の甲高い泣き声が響いた。
「お父さん、煙の臭い、すごく嫌!ここに住みたくない、部屋を替えて!」
妹は病院から戻ってきたばかりだった。
その顔には包帯が巻かれ、泣きじゃくるような声を上げている。
父の動きが止まった。
振り上げられたハンマーも、そのまま静止する。
父は振り返り、階下を見た。
「お父さん、怖いよ……」
妹の泣き声が、ますます大きくなる。
やめて……
行かないで……
私は父の背後に浮かびながら、必死にその腕をつかもうとした。
あと一度だけでいい……
もう一度、こじ開けて……
お願い……!
けれど、父には私が見えない。私の声も聞こえない。
父はハンマーを引き戻し、工具袋にしまった。
「はいはい、分かった。父さん、今すぐ行くからな」
そう言うと、一度も振り返らずに階下へ降りていった。
足音が、どんどん遠ざかっていく。
ピッ――ピッ――ピッ――!
煙感知器はまだ鳴り続けている。
まるで最後の助けを求めているかのように。
けれど、もう誰も上がってこなかった。
それから5分ほど経つと、警報音が次第に途切れ途切れになっていった。
ピッ……ピッ……
電池が切れかけている。
さらに2分後、煙感知器が、最後にかすかな音を一度だけ鳴らした。
ピ……
そして、完全に沈黙した。
赤いランプも消えた。
廊下は再び暗闇に包まれた。
階下から、両親の話し声が聞こえてきた。
「ふう、やっと鳴り止んだな」
父がほっとしたように息を吐く。
「昨日の火事のせいよ。煙がまだ残ってるんでしょう」
母の声には、何の関心もなかった。
「そのうち自然に消えるわよ」
「それにしても、あの部屋は真っ黒に焼けちゃって、もう使いものにならないな」
「どうせあの子が帰ってきたら、自分で片づけさせればいいわ」
2人は階下で楽しそうに話していた。何もおかしいことなどないとでもいうように。
私は廊下に浮かびながら、木板で固く封じられたあのドアを見つめていた。
そして、もう消えてしまった煙感知器を見つめた。
絶望が、まるで潮のように私を飲み込んでいった。
もう、誰も来ない。
もう、誰にも見つけてもらえない。
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