妹を救った私は、炎の中に置き去りにされた第1話
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幼い頃から、私・江原美緒(えはら みお)は火が怖かった。
母・江原裕子(えはら ゆうこ)は家中の火を使うものをすべて電化製品に替え、誕生日のロウソクさえ私の目に触れさせなかった。
しかし、妹・江原佐緒里(えはら さおり)が生まれてから、彼女は家族の新しい宝物になった。
大晦日の夜、妹はこっそり私の部屋に入り込み、キャンドルランタンで遊び始めた。
火の粉がテーブルクロスに燃え移った。
炎は布を伝って瞬く間に広がり、部屋中がもうもうと煙に包まれた。
物音を聞いた私は、恐怖を必死に押し殺して妹を助けに飛び込んだ。けれど、濃い煙を吸い込んで意識を失い、その場に倒れてしまった。
それでも私は、妹を半ば引きずり、半ば抱きかかえながら、必死に外へ這っていった。
そして、私たちがもう少しで部屋の外へ出られるという、その時だった。
両親が駆けつけてきた。
2人の目に入ったのは、妹の上に覆いかぶさるように倒れている私と火傷を負った妹の顔だった。
そして、私の手にはまだライターが握られていた。
「この人でなし!妹を焼き殺すつもりだったのか!」
父・江原康夫(えはら やすお)の目は血走っていた。私が弁解する暇さえ与えず、次の瞬間、背中に思い切り蹴りを入れた。
両親は妹を抱き上げ、そのまま外へ飛び出していった。そして、火を何よりも恐れる私を、部屋の中に閉じ込めた。
「中でちゃんと反省しろ!少しは思い知るんだ!」
2人は妹を病院へ連れていくのに必死だった。けれど、誰一人として振り返らなかった。
濃煙を吸い込み、何度も血を吐きながら咳き込む私のことなど、誰も気に留めなかった。
* * *
身体が突然、ふっと軽くなった。
そのまま私は、宙へ浮かび上がっていった。
下を見下ろすと、部屋の隅で小さな身体がうずくまっていた。
制服は焼け焦げ、残っているのはわずかな布切れだけ。皮膚は焼けた紙のように真っ黒に焦げ、少し触れただけで灰になってしまいそうだった。
髪の毛は一本も残らず、青白い頭皮がむき出しになっている。
そこには無数の水ぶくれがびっしりと浮かんでいた。
それは私だった。
もっと正確に言えば、それは私の死体だった。
私は死んだ。
大晦日の夜、自分の部屋で、生きたまま焼き殺されたのだ。
階下から、救急車のサイレンが聞こえてきた。
邸宅の庭にある人感センサーライトが点いては消え、消えてはまた点く。
遠くからは、途切れ途切れにお正月の歌も聞こえていた。
救急隊員たちが担架を抱えて駆け込んでくる。
母の泣き声が、張り裂けそうに響き渡った。
「佐緒里ちゃん!目を開けて、お母さんを見て!お願いだから!」
母は妹をぎゅっと抱きしめ、両手を震わせていた。
父も担架の横について歩き、顔面を真っ青にして、一歩たりとも離れようとしない。
妹の顔の火傷を見つめながら、目を真っ赤にしていた。
「絶対に助けてやってくれ……頼む……」
最初から最後まで、誰一人として2階を見上げることはなかった。
救急車はサイレンを響かせながら、走り去っていった。
邸宅のリビングでは、テレビがまだ特番を流していた。
アナウンサーは満面の笑みを浮かべている。
「この家族団らんのひとときに、皆さまのご家族に幸せが訪れますように……」
それから、およそ1時間が経った頃、父が戻ってきた。
その顔は、今にも雷が落ちそうなほど険しかった。
父は大股で2階へ上がり、私の部屋の前で足を止めた。
「美緒!出てこい!」
父は焦げたドアを思いきり蹴り飛ばした。
ドンッ!
大きな音が響き、木片が床に散らばった。
私は父の目の前まで浮かんでいき、「お父さん」と呼ぼうとした。
けれど、声が出なかった。
「中に隠れていれば、俺が許すとでも思ったか?」
父は冷笑した。
「お前の妹はまだ救命処置を受けてるんだ。顔の傷が残ったら、お前は一生ただじゃ済まさないからな!
まだ子供のくせに、なんて悪どい心をしてるんだ。あれはお前の実の妹だぞ!」
父の言葉がまるで刃物のように私の胸へ突き刺さった。
けれど、もう痛みを感じることはできなかった。
しばらく待っても返事がないことで、父はさらに怒り狂った。
父は踵を返して物置へ向かい、釘打ち用のハンマーと何枚かの木板を持ってきた。
私は父が何をするつもりなのか分からなかった。
父が木板を私の部屋のドアに当て、ハンマーを振り上げた……
ドンッ!
1本目の釘が打ち込まれた。
ドンッ!
2本目。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
その動きが、まるで棺の蓋を打ちつけているように見えた。
「やめて!」
私は叫びながら父のもとへ駆け寄り、その腕をつかもうとした。
けれど、私の手は父の身体をすり抜け、何もつかむことができなかった。
木板は1枚、また1枚と打ちつけられ、焦げたドアは完全に封鎖されていった。
父はドアの前に立ち、木板を力いっぱい引っ張ってみた。しっかり固定されていることを確かめると、満足そうな表情を浮かべた。
「これがお前の報いだ。中でしっかり反省しろ!妹が目を覚ましたら、またお前にきっちり落とし前をつけさせる!」
父はスマホを取り出し、母に電話をかけた。
「もしもし?佐緒里ちゃんはどうだ?……まだ救命処置中?分かった。
あのクソガキはもう始末した。部屋のドアを釘で打ちつけて閉じ込めた。何日か腹を空かせてりゃ、もう二度と人を傷つけようなんて思わない」
電話の向こうから母の声が聞こえた。
「ちゃんと釘は打った?また出てきて佐緒里ちゃんを傷つけたら大変よ……」
「安心しろ。びくともしないくらい、しっかり打ちつけた」
そう言い捨てると、父は乱暴に電話を切り、階下へ降りていった。
廊下は再び暗闇に包まれた。
窓の外では、まだ軽やかな音楽が響き続けている。新年のイルミネーションが街を彩り、辺りをほのかに照らす。
そのきらびやかな光が窓から差し込み、廊下に打ちつけられた木板を浮かび上がらせていた。
まるで私を、あの世へ送り出すかのように。
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