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夫の後悔が届く頃、私は海を越えていた第3話

この話は約1897字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

外では冷たい雨がしとしとと降り、灰色の空が街を覆っていた。

千景は署名を終えた書類を封筒に入れ、宗介の会社に送った。

すべてを済ませると傘を手に取り、1人で郊外の霊園へ車を走らせた。

人影の少ない霊園で、「鷹取朔也(たかとり さくや)」と刻まれた小さな墓石の前に立った。

ぼんやりと見つめているうちに、元気に走り回っていた朔也の姿が目の前に浮かんだ。小さな手で服の裾をつかみ、甘えるように「ママ」と呼んでいた。笑顔は手を伸ばせば触れられそうなほど鮮明だった。

千景が呆然とし、幻に手を伸ばそうとした時、背後から大勢の足音が押し寄せた。

カメラとマイクを手にした記者たちが群がり、レンズを一斉に千景に向けた。

「三枝さん、昨日の調停でようやく離婚に同意したばかりなのに、今朝、鷹取社長の会社へ送った封筒には、10年前に書いたラブレターが入っていたそうですね」

「離婚まで決まったのに、昔の手紙まで持ち出して縋るほど、まだ鷹取社長を諦められないんですか?」

「離婚の原因は、結局どちらにあるのでしょうか?」

幾つものマイクとカメラに囲まれ、千景は何が起きているのか分からないまま、その場に立ち尽くした。

待機していたボディーガードがすぐに駆け寄り、千景を背後にかばって記者たちを遠ざけた。

千景は混乱を押し殺して車に戻り、宗介の会社に直行した。

受付に着いて、ようやく社員から事情を聞いた。

今朝、宅配便が受付に届いた時、宗介を訪ねてきた朋花がその場に居合わせた。朋花が勝手に封筒を開けると、中から黄ばんだラブレターがこぼれ落ちた。その場に取材で来ていた記者が偶然目撃し、瞬く間に話が広まったという。

怒りが一気に込み上げた。千景はそのまま上階へ向かい、社長室の前で朋花を見つけた。

一歩詰め寄った。

「宅配便が届いてから開封されるまで、防犯カメラに全部映っている。あの手紙をどこから持ってきたの?」

宗介はすぐに駆け寄って朋花を抱き寄せた。千景に説明する隙も与えず、その腕をつかんで社長室へ引き入れ、扉を強く閉めて外の野次馬を遮った。

まず朋花を椅子に座らせ、わずかに膨らんだ腹に手を添えた。

「怖がらなくていい。俺がいる。落ち着け。お腹の子に障る」

朋花を落ち着かせてから、ようやく千景に向き直った。

「この件をいつまでも責めるな。朋花が封筒を取り違えただけだ。あの手紙は、朋花が見てみたいと言ったから、俺が渡した。離婚協議書は受け取っている。このことで納得できないなら、財産分与の条件をさらに上乗せしてもいい」

千景は呆然と立ち尽くした。

何も言わない彼女を見て、宗介は眉を寄せ、苛立ちを露わにした。

「何年も前の手紙が数通あっただけだ。いつまでこだわるつもりだ。昔の話は、もう終わった。あの頃の気持ちは、もう過去の俺の中にしかない。今の俺には、読む気もなければ興味もない」

千景は指が白くなるほど拳を握った。喉の奥に痛みが込み上げ、掠れた声が漏れた。

「そうね。あなたは、もう変わってしまったもの」

千景は顔を上げ、2人の青春と努力が詰まった社長室を見回した。

6年前、この部屋が完成した時は何もなかった。千景は宗介と夜遅くまで残り、少しずつ部屋を整えた。

だが今は、どこを見ても朋花の物ばかりだった。

柔らかなクッション、甘い香りのディフューザー、趣味のいい小物。

そばで朋花が、柔らかな声で口を挟んだ。

「宗介、もしかしたら……千景さんは、補償がまだ足りないと思っているのかも。昨日あんなにあっさり離婚に応じたのは、何か別の思惑があったからなのね」

宗介の顔つきが険しくなった。

千景に冷たい目を向けた。

「俺は十分に譲歩してきた。それでもしつこく追い詰め、それでもしつこく争うつもりなら、最後には何の財産も受け取れなくなるかもしれないぞ」

千景は警告を無視し、静かに宗介を見つめた。

「宗介。今日が何の日か、分かってる?」

宗介の体が強張った。喪服のような黒い装いに目を奪われた。

胸の奥が不意に空っぽになった。眉を寄せたまま、意識は遠い過去に引き戻された。

それは2人の胸の奥深くに埋め、どちらも触れられずにいた傷だった。

だが数秒後、朋花のかすかな息遣いが宗介を現実に引き戻した。

一瞬の揺らぎを押し込め、宗介は言った。

「もう10年経った。過ぎたことは、過去にしなければならない。俺にはもうすぐ新しい子どもが生まれる。千景にも、いつか新しい人生や大切な人ができるだろう。俺に執着して残りの人生を無駄にする必要はない」

千景は、10年愛した男を見つめた。

次の瞬間、乾いた音が閉ざされた社長室に響き渡った。

不意を突かれた宗介の顔が横を向き、頬にくっきりと赤い跡が浮かんだ。

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