夫の幼なじみと入れ替わり、私は身を引いた第1話
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夫の小寺翔太(こてら しょうた)は、いつもまとわりついてくる幼なじみを、ずっと疎ましく思っていた。
私、小寺理乃(こてら りの)のために、その幼なじみ、奥島悠実(おくしま ゆうみ)との連絡すら絶ってくれたほどだった。
それなのに、目が覚めると、私は悠実と身体が入れ替わっていた。
翔太に相談しなくちゃ。でも、悠実の姿のままでは、門前払いされてしまうかもしれない。
頭の中で何通りもの説明の仕方を考えてから、私は翔太との家を訪ねた。
玄関のドアを開けた翔太は、私を見るなり眉をひそめ、慌てて扉を閉めると、無理やり外へ押し出そうとした。
私は悠実じゃない。そう説明しようとした瞬間、翔太が、ぎゅっと私を抱きしめた。
「なんでここに来たんだ?さては、この2日間、俺のことが恋しくてたまらなかったんだろ」
* * *
呆然とする私をよそに、翔太は固まったままの私の頬へ軽く口づけた。
「ここ何日か、理乃の監視が厳しくてさ。抜け出して会いに行く暇がなかったんだ」
理乃は私だ。私がここにいる。なら、この家の中にいる「私」は、誰?
背筋がぞくりと冷える。目の前の男までもが、急に見知らぬ他人に思えてきた。
黙り込んだのが気に入らないのか、翔太は顔を曇らせ、私の顎を乱暴につかむ。
「言っただろ。理乃の前で騒ぎを起こすなって。妻の座以外なら、何だって叶えてやる」
目に涙をためたまま、私は言葉を失っていた。涙に濡れた顔を見て、翔太の表情がふっとほどける。
「わかったわかった。まったく、すぐ泣くんだから。いい子だ、あとでたっぷり可愛がってやるよ」
急に吐き気がこみ上げた。翔太は今までずっと、こうやって私を欺いてきたのだ。本当のことを言おうとした瞬間、玄関の扉が開き、翔太は反射的に私を突き放した。
「私」が、目の前に現れた。彼女は笑みを浮かべて言う。
「悠実、来てたのね。どうして中に入らないの?翔太ったら、女の子を追い返してどうするの。さあ、上がって」
翔太は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「なんでこんなところに来たんだか。追い返そうとしていたところだ。俺たちの邪魔をするな」
「私」は笑いながら翔太の手を揺する。
「もう、翔太ったら。私以外の女の子みんなに、そんな怖い顔しなくてもいいじゃない」
そう言いながら、「私」は歩み寄り、私の手を取った。視線が絡んだ瞬間、悟った。彼女は悠実だ。私たちは、身体が入れ替わっているのだ。
問い詰めようと手を伸ばすが、悠実はぱちりと瞬きをしてみせた。
「さあさあ、入って。面白い話をしてあげる」
何か考えがあるのだと察し、私は黙ってついていった。
翔太は少し慌てた様子で、後ろから追ってくる。
「理乃、なんでこいつを家に上げるんだよ。水入らずの時間が台無しじゃないか」
そう言いながらも、翔太は悠実の目を盗んで、そっと私の手を握ってきた。私は居たたまれず、その手を振りほどく。
ソファに腰を下ろして、ようやく気づく。テーブルの上に、私と翔太のウェディングフォトが何枚も広げられていた。ゴミ箱に放り込まれたものまである。信じられない思いで、私は立ち上がった。
「これ、どういうつもり?」
翔太が、訝しげに私を見る。
「理乃が、この写真は古いし写りもよくないから、捨てて撮り直したいって言うんだよ。お前がなんでそんなに取り乱すんだ」
悠実が、私の顔で言う。
「そうよ、悠実。私が自分の写真を捨てるだけなのに、どうしてあなたがムキになるの?」
「捨てないで!捨てちゃだめ!」
声を張り上げるなり、私はゴミ箱に駆け寄り、汚れてしまった写真を拾い上げた。
悠実はすぐに立ち上がり、私の声で言った。
「悠実、何してるの?ちょっと待ってて。きれいな服とタオルを持ってくるから」
耳など貸さず、私はただ黙々と写真を拾い集めた。まるで、汚れてしまった私と翔太の愛そのもののようだった。
悠実が席を外した隙に、翔太はしゃがみ込んだ私の顎を、無理やり持ち上げた。
「お前さ、どうかしたのか。たかがウェディングフォトだろ」
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