夫と秘書の愛のカップ麺劇場第2話
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硯也は幼いころから私の父のそばにいた。
私の家は身分や階級で人を差別することはない。硯也もまた、分別のある人だった。
よく学び、健やかに育ち、歪んだ思想を抱くこともなく――。
卒業と同時に、彼は私の家の会社で働き始めた。
最下層からスタートしたのにも関わらず、自身の能力と幼いころから染みついた我が家の在り方を強みとして、硯也は見る間に昇進していった。
家柄や地位が釣り合う相手と契約結婚をして、利害を一致させ、ビジネス上の提携を結ぶ――。それよりも、私は物分かりがよくて面倒をかけない男性を見つけたかった。
だからこそ、舟森硯也は私にとって最もふさわしい人物だったのだ。
「硯也、あなたは私のことをよく分かっているでしょう。私は家柄が釣り合う人との結婚を捨てて、あなたを選んだの。
なんでかっていうと、私は人に無理させるのが嫌いだから。あなたなら道理をわきまえているから、その点は心配ないわ。
私は小さなことに心を煩わせるのが嫌なの。汚いものだって見たくない。――私の言っている意味、わかるかしら」
私は身を起こし、そのままになっているカップ麺に視線を落とした。「この一杯を食べきってから寝てね。あなたの好きなものなんだから、無駄にしないでよ」
その晩、硯也はあのカップ麺を食べなかった。
お手伝いさんの話によれば、彼は書斎で座ったまま、一晩を過ごしたらしい。
カップ麺を食べなかったのは、私への反抗だ。
寝なかったことは私への従順でもある。
でもそれはただの様子見に過ぎなかったのだ。
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翌朝、テーブルにはいつも通りの朝食が並んでいた。硯也は私よりも先にリビングにいて、階段を下りてきた私を見ると、私の椅子を代わりに引いてくれた。
「昨晩のことを考えたよ」彼は私に牛乳を注ぐと、誠実な口調で言った。「僕の方が度を越していた。今後は気をつける」
私は返事をせず、俯いておかゆをすすった。
「昨日、硯也は何も食べなかったんだから、まずは食べなよ」
硯也は本当につつましい人だ。
カップ麺のことについて私はもう触れなかった。――そんなのしょせん、些細なことにすぎないのだから。
硯也はそれから深夜まで残業することはなくなり、支店の業務からも徐々に手を引いて部下にやらせるようになっていった。私は時折彼の支店を訪れたが、私の目の前に醜いものがちらつくことは二度となかった。
従業員の話によれば、林珊奈は営業部へ異動になったという。
――こうして、あの一件は収まったのだと私は思っていた。
硯也の祖父が八十歳を迎える、その一か月後までは。
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ここ数年、舟森家は私の家の隣に住んでいた。そのおかげで、東都では一躍置かれる存在となっていた。
硯也の祖父の誕生日を祝いに訪れたゲストは大勢いた。
私も孫の嫁として、当然その場に出席しなければならない。
会場に着いたとき、硯也はまだ来ていなかった。私は夫の家族と適度な距離間の良好な関係を築いていた。
その時、硯也が入ってきた。思いがけないことに、彼の後ろにはなんと赤いワンピースをまとった林珊奈がいた。
会場いっぱいのゲストの視線が、一斉にそこへ集まる。
硯也の祖母の笑みが一瞬で凍り付き、すぐに孫のもとに歩み寄り、低い声で問いただした。
「…どういうことなの?」
硯也は何食わぬ顔をして、私の方へやってきて、まるでごくありふれていたことを話すかのように言った。「ここに来る前、珊奈は僕と一緒に臨時の取引に行っていたんだ。祖父の80歳祝いについて聞いて、彼女もお祝いに来たいと」
林珊奈は慌てて硯也の祖母の手を取り、笑顔で挨拶をした。「お婆様、こんにちは。林珊奈と申します。舟森支店長の部下です。今日はお爺様のお誕生日と伺って、お祝いに駆けつけました」
彼女は明らかに入念に準備してきた様子だった。ウエストを強調する赤いワンピース、肩までおろした髪、前回よりも手の込んだメイク。
話し終わると彼女は再び私の方を見た。
「奥様、またお会いしましたね」
私は彼女を見返し、そして硯也をみた。彼の顔には困惑の色は微塵もない。
私は笑った。「林さん、お祝い事は招待されていない場合、自分から出向くものではないっていうルール、知らないの?」
林珊奈は固まった。
周囲は途端に静まりかえる。
硯也は眉をひそめた。
「薇香、彼女はただ——」
「彼女はあなたの部下に過ぎないのよ」私はコップを置いて彼を遮った。「あなたの部下はルールを分かっていないわ。この前しっかり管理するって言っていたでしょう」
「これが、あなたが管理した成果とでもいうの?」
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