和紙文夫が私の腎ドナーを妹に譲ったから、私は笑って退院した · 第3話設定≡

夫が私の腎ドナーを妹に譲ったから、私は笑って退院した第3話

この話は約1394字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

私が起き上がったのを見て、貴雅は冷たく一瞥をくれた。

「なんだ。やっと芝居は終わりか?

お前、香里に飯届けたくないなら、最初からそう言えよ。そんな茶番、いらねぇだろ」

その隣で、年彦がすかさず口を挟んできた。

「ママ、僕に『正直でいなさい』っていつも言ってたよね?嘘はダメって。

なのに、どうしてママは嘘をついたの?」

あんなに幼い年彦の口から、そんな言葉が出てくるなんて。胸の奥が、キリキリと痛んだ。

「もういい。お前が元気なら、俺たちは病院行くぞ」

その一言を残して、広い家には私ひとりだけが残された。

さっき倒れたせいで、頭が重くてどうしようもない。鈍い痛みがじわじわとぶり返してくる。

どうにもならず、鎮痛剤を丸ごと一本飲み干した。少しだけ、体が軽くなった気がした。

ぼんやりと意識が遠のき、そのままソファに身を沈み込んだ。

「パパ、香里おばちゃんってバラの花、好きかな?お家、花でいっぱいにしようよ!」

年彦の無邪気で、どこか楽しげな声が耳に入ってきた。その声に、私はようやく目を開けた。

……あれ?昨日の朝も、こんなに明るかった気がする。

まさか、ソファで丸一日眠ってた?

ってことは、貴雅たちは昨晩、帰ってこなかったね。

私は体を起こし、何か食べようとキッチンへ向かった──はずだったのに、年彦に行く手をふさいだ。

「ママ、忘れたの?今日は香里おばちゃんが退院する日でしょ。一緒にお祝いするんだよ!」

……お祝い?

私は、そんな話、ひと言も聞いていなかった。誰も私に教えてくれなかった。

年彦の声を聞いて、貴雅が顔をしかめた。そして年彦をちらりと見てから、ようやく私を見た。

「お祝いは金鱗ホテルでやる。今から香里を迎えに行く。お前は、好きにしろ」

それだけ言うと、貴雅と年彦は家の飾りつけを再開した。

知らなかった。あの貴雅が、こんなふうにロマンチックなことをできるなんて。

やっぱり私は、彼にとって「特別」じゃなかったんだ。

その「家族のお祝いの席」に、私の居場所なんてなかった。

「……体調が悪いから、私は遠慮するわ」

そう告げると、貴雅も特に何も言わず、うなずいただけだった。

朝食を軽くすませた後、私は再びベッドに横になった。

最近は、寝ていないと本当にしんどい。

うつらうつらしていたところに、スマートフォンの着信音が鳴った。

無意識に出てみると、相手は貴雅だった。

何か言っていた気がするけど、何も頭に入ってこなかった。ただ条件反射で、通話を切った。

どれくらい時間が経っただろう。静かな部屋の中で、突然ドンッと大きな音が響いた。

その音に目を覚ました。

血走った目で寝室のドアを見た。

怒りに満ちた貴雅が、勢いよく入ってきたかと思うと、私が半身を起こすよりも早く、ベッドの布団を一気に剥ぎ取った。

「お前、どれだけ図太いんだ?家族みんなお前を待ってんのに、ここで寝てるとかふざけんなよ?

不満があるなら、ちゃんと口に出せよ!そんなふうにふてくされて、何のつもりだ?

お前のせいで、香里はまた病院に逆戻りだ!それ、わかってんのか?」

彼の言葉が、何ひとつ頭に入ってこない。

ふてくされてる?

私は、最初から行かないって断ったはずだけど。

一体、何を言ってるの?

そう思った瞬間、手首を強く引っ張られた。

ビリッと、全身を突き抜けるような激痛。

背中に熱いものが走ったかと思うと、ぬるりとした感触が広がっていく。肌の表面には、血の粒がじわじわと滲んでいた。

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