夫が私の腎ドナーを妹に譲ったから、私は笑って退院した第3話
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私が起き上がったのを見て、貴雅は冷たく一瞥をくれた。
「なんだ。やっと芝居は終わりか?
お前、香里に飯届けたくないなら、最初からそう言えよ。そんな茶番、いらねぇだろ」
その隣で、年彦がすかさず口を挟んできた。
「ママ、僕に『正直でいなさい』っていつも言ってたよね?嘘はダメって。
なのに、どうしてママは嘘をついたの?」
あんなに幼い年彦の口から、そんな言葉が出てくるなんて。胸の奥が、キリキリと痛んだ。
「もういい。お前が元気なら、俺たちは病院行くぞ」
その一言を残して、広い家には私ひとりだけが残された。
さっき倒れたせいで、頭が重くてどうしようもない。鈍い痛みがじわじわとぶり返してくる。
どうにもならず、鎮痛剤を丸ごと一本飲み干した。少しだけ、体が軽くなった気がした。
ぼんやりと意識が遠のき、そのままソファに身を沈み込んだ。
「パパ、香里おばちゃんってバラの花、好きかな?お家、花でいっぱいにしようよ!」
年彦の無邪気で、どこか楽しげな声が耳に入ってきた。その声に、私はようやく目を開けた。
……あれ?昨日の朝も、こんなに明るかった気がする。
まさか、ソファで丸一日眠ってた?
ってことは、貴雅たちは昨晩、帰ってこなかったね。
私は体を起こし、何か食べようとキッチンへ向かった──はずだったのに、年彦に行く手をふさいだ。
「ママ、忘れたの?今日は香里おばちゃんが退院する日でしょ。一緒にお祝いするんだよ!」
……お祝い?
私は、そんな話、ひと言も聞いていなかった。誰も私に教えてくれなかった。
年彦の声を聞いて、貴雅が顔をしかめた。そして年彦をちらりと見てから、ようやく私を見た。
「お祝いは金鱗ホテルでやる。今から香里を迎えに行く。お前は、好きにしろ」
それだけ言うと、貴雅と年彦は家の飾りつけを再開した。
知らなかった。あの貴雅が、こんなふうにロマンチックなことをできるなんて。
やっぱり私は、彼にとって「特別」じゃなかったんだ。
その「家族のお祝いの席」に、私の居場所なんてなかった。
「……体調が悪いから、私は遠慮するわ」
そう告げると、貴雅も特に何も言わず、うなずいただけだった。
朝食を軽くすませた後、私は再びベッドに横になった。
最近は、寝ていないと本当にしんどい。
うつらうつらしていたところに、スマートフォンの着信音が鳴った。
無意識に出てみると、相手は貴雅だった。
何か言っていた気がするけど、何も頭に入ってこなかった。ただ条件反射で、通話を切った。
どれくらい時間が経っただろう。静かな部屋の中で、突然ドンッと大きな音が響いた。
その音に目を覚ました。
血走った目で寝室のドアを見た。
怒りに満ちた貴雅が、勢いよく入ってきたかと思うと、私が半身を起こすよりも早く、ベッドの布団を一気に剥ぎ取った。
「お前、どれだけ図太いんだ?家族みんなお前を待ってんのに、ここで寝てるとかふざけんなよ?
不満があるなら、ちゃんと口に出せよ!そんなふうにふてくされて、何のつもりだ?
お前のせいで、香里はまた病院に逆戻りだ!それ、わかってんのか?」
彼の言葉が、何ひとつ頭に入ってこない。
ふてくされてる?
私は、最初から行かないって断ったはずだけど。
一体、何を言ってるの?
そう思った瞬間、手首を強く引っ張られた。
ビリッと、全身を突き抜けるような激痛。
背中に熱いものが走ったかと思うと、ぬるりとした感触が広がっていく。肌の表面には、血の粒がじわじわと滲んでいた。
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