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夫が教え子を選んだので、身を引いてやった結果第2話

この話は約1589字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結局、彼は申し訳なさそうな顔で私を振り返った。

「未紗、まずは頭を冷やしてくれ。さっきの話は聞かなかったことにする。急用ができたから出かけてくるけど、帰りにA市の老舗のうな重を買ってくるから。いいだろ?」

足音が遠ざかっていく。

誰からの電話かなど、推測するまでもなかった。

過去数年間、亜希子はありとあらゆる理由をつけて、貴弘を呼び出してきた。

彼女の言い訳にはもう聞き飽きた。

医学の進歩という大義名分を掲げて、既婚男性と何度も密会を重ねているが、実際にはまともな研究成果などほとんど出ていない。

それに気づいていないのは貴弘だけで、あろうことか彼はそれを楽しんでいるようだった。

私は病室のベッドで寝返りを打ち、眠れぬ夜を過ごした。

空が白み始めた頃、亜希子のSNSが更新されているのを目にした。

彼女は最近いちばん流行っているネタを真似して動画を一本撮り、ネットに投稿した。

【ずっと好きだった彼に告白しちゃった!🥺💓

今、大好きな人が隣で寝てて、トントンしてくれてるの……(///ω///)

私ってば、一人でよく頑張ったよね!

褒めて褒めて〜!】

添付された写真は、白いシーツの上でしっかりと絡み合う指と指。

貴弘の手だと、すぐに分かった。あまつさえ、写真では、彼は結婚指輪すら外していなかった。

かつて、あらゆる困難の中、私を導いてくれたその手。

胸が締め付けられるような痛みが走る。私は涙がこぼれ落ちないように、強く瞬きをした。

悲しむ必要なんてない。真心を裏切られることより、損切りのタイミングを見誤ることこそが一番恐ろしいのだから。

経済学には「埋没費用は、意思決定に考慮してはならない」という言葉がある。

私は深く息を吸い込むと、以前のように電話をかけて彼を問い詰めることはしなかった。

その代わり、スマホをマナーモードに切り替える。

今日は、ぐっすり眠ろう。

……

深夜のネットサーフィンに勤しむネット民たちが、瞬く間にその投稿をトレンド入りさせた。

【あやかりたい!私も告白成功しますように!】

【待って!この投稿主のプロフ見たら、医学界の重鎮の教え子じゃん!将来有望なので、人生勝ち組すぎて震える】

【私の見間違いかな……?この男の人、指輪してない?この女、まさか浮気相手……?】

コメント欄は、重箱の隅をつつくような特定班であふれ返り、彼らの主張が事実であることを証明する証拠が次々に投げ込まれた。

【天才医学生が、愛のために泥棒猫に】

その検索ワードは、瞬く間に数多の野次馬たちの興味を惹きつけた。

親友から電話がかかってきた。彼女の声は戸惑っていた。

「未紗、トレンド1位になってる動画、見た?

あの男の人がしてる指輪、あなたの結婚式の時のオーダーメイド品に似てない?」

確かにそうだ。もしネット民たちがさらに深く掘り下げれば、真実が露見するのは時間の問題だった。

現代のネット特定班のリサーチ能力を思うと、背筋が凍る。

私は自分への飛び火を避けるため、急いで車を出し、自宅へ向かった。まずは荷物をまとめて家を出るつもりだった。

電話を切った直後、今度は貴弘からの着信が入った。

スピーカーからは、亜希子の泣きじゃくる声が響いてきた。

「入江さん、どうしてネットの人たちが先生の指輪に気づいたんですか?もしかして、あなたが情報を漏らしたんじゃ……

私と先生は、本当にやましいことなんてないんです……

お願いです、誤解だって説明してください。そうしないと、先生の今年の受賞に影響が出ちゃいます……」

電話の向こうから、貴弘の怒鳴り声が重なる。

「入江未紗!騒ぐのもいい加減にしろ!

俺はただ、西野さんと学術的な議論をしてただけだぞ。それなのに、こんな報復をするのか?

今、アンチたちが西野さんに電話をかけてきてるんだ。君が表に出てこの事態を収拾しないなら、タダじゃおかないからな!」

あまりにも理不尽な彼の言い分に、私は冷笑を禁じ得なかった。

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