夫が教え子を選んだので、身を引いてやった結果第3話
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「昨日、二人が何をしていたかは、自分たちが一番よくわかってるでしょ。
彼女を守りたいなら、まずは帰ってきて離婚するのよ」
電話の向こうで彼が何か言いかけたが、私は聞く耳を持たずに通話を切った。
私は家中の荷物をひっくり返し、自分のものをまとめ始めた。
ベッドサイドの引き出しに、貴弘の日記帳が入っているのが目に入った。
結婚して数年、私が見ようとするたび、貴弘はまるで重大な秘密でも暴かれるかのように血相を変えて拒んだ。疑念はあったが、あえて深く踏み込むことはしてこなかった。
けれど今、その日記帳は魔力を帯びたかのように、私を開くよう誘っていた。
適当にページをめくると、そこにあった文字に私の呼吸が止まった。
【2023年5月21日。西野から、免疫システムの自己調整に関する重要なメカニズムを発見したと連絡があった。
これは世界に貢献できる極めて重要な発見だ。他のことはもう何も構っていられない。
あの日、未紗からの電話に出る余裕さえなかった。ただひたすら、その鍵となる研究に没頭したかったのだ】
頭の中で何かが爆発し、耳鳴りがした。手が震えて止まらない。
かつて、私と貴弘の間には子供がいた。
事故は、日記に記されたその日に起きた。
私が子供を連れて車で買い物に行く途中、制御不能になった大型トラックが突っ込み、私の車は大破した。
顔から滴り落ちる血が地面を染めていく中、私は辛うじて意識を保っていた。
病院に着くと、医師は状況を見て深くため息をついた。
「この手術は、川田先生にしかできません。このような脳神経に関わる損傷は、我々の手には負えないのです。
ですが、先生と連絡がつかないんです」
そう、誰一人として彼と連絡が取れなかった。妻である私でさえも。
あの日、私は狂ったように、顔や服についた血を拭うことさえ忘れ、彼がいそうな場所を全て探し回った。
しかし、何一つ手がかりはなかった。
そうして私は、わが子の命が少しずつ消えていくのを、ただ無力に見守るしかなかったのだ。
後日、私は彼を殴り、罵り、あの日一体どこに行っていたのかと問い詰めた。
彼は一言も発さず、ただ私を強く抱きしめて慰めるだけだった。
断片的な記憶が、針のように心臓を突き刺す。
心は冷たい氷水に浸されたようで、少しの温もりも感じられない。
私は朦朧とした意識の中で、貴弘に電話をかけた。
涙がスマホの画面に落ち、声も震えて形にならない。
「川田貴弘……息子がなくなったあの日、あなたは一体どこに行っていたの?」
意味のない答えを待っていることはわかっていた。それでも、彼自身の口からその答えを聞かなければ、諦めがつかなかった。
貴弘はしばらく沈黙し、逃げることで答えようとした。
しかし、亜希子の反応は素早かった。彼女は無邪気を装って言った。
「入江さん、あの日、私、医学的な奇跡とも言える発見をしたんです。まあ、具体的なことを言っても入江さんにはわからないと思いますけど。だから、先生を呼んで一緒に研究してもらったんです。
入江さん、まさか怒ってます?」
電話の向こうで、誰かが口を塞いだのか、声が小さくなった。
私は彼女の挑発を無視した。
「貴弘、答えなさい。あの日が息子の事故の日だったことを、知っていたの?」
貴弘は深い疲労を滲ませた、優しい声で言った。
「知っていたさ。でも、子供はまた作れるだろう」
「だから、あなたは西野と一緒にいることを選んで、息子の最期を見送らなかったの?
川田貴弘、それでも人間なの?」
私は床に力なく座り込み、涙が止まらなかった。
長年、亜希子は次から次へと理由をつけては貴弘を呼び出していた。
そして貴弘は、決して彼女を拒まなかったのだ。
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