夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた第2話
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私は信じられない思いで、和真を見つめる。
かつて、夕陽に染まりながら、彼は私を抱きしめて言った。
「優奈、もし他の誰かが攻略システムなんて口にしたら、俺はきっと嘘だと思う。でも、お前が言うなら俺は信じる」
けれど、彼が信じる相手は、最初から私ひとりではなかったのだ。
涙をにじませながら、私は和真を見つめる。唇は震えたのに、言葉は最後まで喉から出てこなかった。
そして、不意に美琴が「ドサッ」と音を立てて私の前にひざまずき、哀願するように訴えてくる。
「ねえ、優奈……私、あなたたちの仲を壊しちゃいけないのはわかってる。でも、私は生きたいの。同じ攻略者なんだから、私を見捨てて死なせたりはしないよね?」
私が微動だにしないのを見て、美琴はぎゅっと歯を食いしばる。
「それなら……いっそ今ここで死んだほうがましよ……」
言うが早いか、美琴は柱へ身を投げる。
「もういい!」
和真が美琴をぐっと抱きとめ、怒りを宿した目で私をにらむ。
「優奈、美琴は妊娠しているんだ。どうしてそんなに追い詰めるんだ?」
私は口元に苦い笑みを浮かべ、そっと自分の腹に手を当てて、かすかに言う。
「じゃあ、私たちの子は何なの?」
和真は信じられないように顔を上げ、目がぱっと輝く。声はほとんど気づかれないほど微かに揺れている。
「お前……も、妊娠したのか?」
私はうなずき、じっと和真を見つめる。彼がどう選ぶのか、確かめたくて。
美琴が鼻で笑う。
「優奈、私が妊娠してるからって、和真をだまして自分も妊娠してるなんて言うの?」
和真の顔色がさっと曇り、私を見る目に疑いが宿る。
美琴は涙をため、心細げに言う。
「和真、あなたも知ってるよね。私は子どものころから父親がいなかったの。優奈がこんなふうに私と争うのは、私の子にも父親を奪うつもりなの?」
和真は冷ややかに私を見据え、あからさまな失望をにじませる。
「優奈、お前は一番分別があったのに。いつからこんなに意地悪になったんだ?」
その言葉は刃のように私の胸に突き刺さり、かき乱されるような痛みに襲われる。
涙が瞬く間にこぼれ落ちる。
「優奈、よく反省しろ。自分の過ちを認める気にならない限り、俺は家には戻らない」
そう言い放ち、和真は美琴を抱き上げると、背を向けたまま去っていく。
ほどなくして、美琴から挑発的なメッセージが届く。
【優奈、あなたが本当に妊娠してるのは知ってる。でも、それが何?】
【和真は絶対に私を選ぶ。そのとき、あなたのお腹の子は、ただの父なし子よ】
二分後、そのメッセージは取り消される。
私はそっと目を閉じ、再び医師のもとへ戻る。
「先生……この子をおろしたいんです」
かつてシステムは私に告げていた。和真の遺伝病は、実の子の臍帯血でしか治せない。さもなければ、三十を過ぎれば必ず障害が残る、と。
だから私はこの数年、ずっと必死に妊活を続けてきた。
けれど今、彼にはほんとうに望む子ができた。
私が想いを込めて授かったこの子を、父なし子にして、あの三人の幸せから外れた余計者にしたくはない。
麻酔がゆっくりと体にしみ込み、目尻を一筋の涙がすべる。意識が、遠のいていく。
再び目を覚ますと、腹の中は空っぽだった。私は目尻の涙をぬぐい、一人で家へ帰る。
夜更けの三時、和真が寝室に入るなり、ためらいもなく灯りを全部つけた。
首筋に鮮やかなキスマークが刻まれていて、その痕跡が私の心を深くえぐる。
私が口を開くより先に、和真は弱りきった私をベッドから力任せに引きずり下ろした。
そして、有無を言わせぬ口調で命じる。
「優奈、美琴は他所じゃ眠れない。この間は家で寝かせる。いいからすぐ起きて、美琴のシーツを替えてこい」
声をかすれさせながら私は口にする。
「和真、私は今日体調が悪いの。あなた……」
言葉を言い終えるより早く、和真は怒りに燃えて私の髪をつかみ、ぐいと顔を上げさせる。
「優奈、まだ惚けているつもりか?
美琴が妊娠したのがそんなに妬ましいのか?
脅しのメッセージまで送っておいて。いいさ。だったら俺の目の届くところに美琴を置いて、お前が何をするつもりか見てやる!」
そう言い終わって、和真は手を放ち、私を床に叩きつける。
腕が擦りむけ、内臓まで揺さぶられるような衝撃に、吐き気が込み上げる。
それでも和真は意に介さず、顔はさらに陰を帯びていく。
「優奈、お前に選択肢があると思うのか?
お前は攻略者だ。元の世界へ戻るのをやめた今、頼れるのは俺だけだ」
信じられない思いで、私は和真を見つめる。
やがて彼はかがみ込み、やさしく私を抱き起こすと、額にそっと口づけを落とす。
「いいか、優奈。安心しろ。お前がおとなしくしてさえいれば、いつまでも朝倉家の妻でいられる。
美琴のことは、死んでほしくないだけなんだ。お前なら分かってくれるだろ?」
私は、見知らぬ人のような和真をじっと見つめ、言葉を失う。
はらり――
扉の前に佇む美琴の手から、艶やかなネグリジェが床に落ちる。
彼女は涙に濡れた瞳で和真を見上げ、震える声を絞り出す。
「和真、優奈と離婚して私と結婚するって、そう約束したじゃない?
まさか、私たちの子を父なし子にするつもり?」
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