和紙文夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた · 第2話設定≡

夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた第2話

この話は約2078字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は信じられない思いで、和真を見つめる。

かつて、夕陽に染まりながら、彼は私を抱きしめて言った。

「優奈、もし他の誰かが攻略システムなんて口にしたら、俺はきっと嘘だと思う。でも、お前が言うなら俺は信じる」

けれど、彼が信じる相手は、最初から私ひとりではなかったのだ。

涙をにじませながら、私は和真を見つめる。唇は震えたのに、言葉は最後まで喉から出てこなかった。

そして、不意に美琴が「ドサッ」と音を立てて私の前にひざまずき、哀願するように訴えてくる。

「ねえ、優奈……私、あなたたちの仲を壊しちゃいけないのはわかってる。でも、私は生きたいの。同じ攻略者なんだから、私を見捨てて死なせたりはしないよね?」

私が微動だにしないのを見て、美琴はぎゅっと歯を食いしばる。

「それなら……いっそ今ここで死んだほうがましよ……」

言うが早いか、美琴は柱へ身を投げる。

「もういい!」

和真が美琴をぐっと抱きとめ、怒りを宿した目で私をにらむ。

「優奈、美琴は妊娠しているんだ。どうしてそんなに追い詰めるんだ?」

私は口元に苦い笑みを浮かべ、そっと自分の腹に手を当てて、かすかに言う。

「じゃあ、私たちの子は何なの?」

和真は信じられないように顔を上げ、目がぱっと輝く。声はほとんど気づかれないほど微かに揺れている。

「お前……も、妊娠したのか?」

私はうなずき、じっと和真を見つめる。彼がどう選ぶのか、確かめたくて。

美琴が鼻で笑う。

「優奈、私が妊娠してるからって、和真をだまして自分も妊娠してるなんて言うの?」

和真の顔色がさっと曇り、私を見る目に疑いが宿る。

美琴は涙をため、心細げに言う。

「和真、あなたも知ってるよね。私は子どものころから父親がいなかったの。優奈がこんなふうに私と争うのは、私の子にも父親を奪うつもりなの?」

和真は冷ややかに私を見据え、あからさまな失望をにじませる。

「優奈、お前は一番分別があったのに。いつからこんなに意地悪になったんだ?」

その言葉は刃のように私の胸に突き刺さり、かき乱されるような痛みに襲われる。

涙が瞬く間にこぼれ落ちる。

「優奈、よく反省しろ。自分の過ちを認める気にならない限り、俺は家には戻らない」

そう言い放ち、和真は美琴を抱き上げると、背を向けたまま去っていく。

ほどなくして、美琴から挑発的なメッセージが届く。

【優奈、あなたが本当に妊娠してるのは知ってる。でも、それが何?】

【和真は絶対に私を選ぶ。そのとき、あなたのお腹の子は、ただの父なし子よ】

二分後、そのメッセージは取り消される。

私はそっと目を閉じ、再び医師のもとへ戻る。

「先生……この子をおろしたいんです」

かつてシステムは私に告げていた。和真の遺伝病は、実の子の臍帯血でしか治せない。さもなければ、三十を過ぎれば必ず障害が残る、と。

だから私はこの数年、ずっと必死に妊活を続けてきた。

けれど今、彼にはほんとうに望む子ができた。

私が想いを込めて授かったこの子を、父なし子にして、あの三人の幸せから外れた余計者にしたくはない。

麻酔がゆっくりと体にしみ込み、目尻を一筋の涙がすべる。意識が、遠のいていく。

再び目を覚ますと、腹の中は空っぽだった。私は目尻の涙をぬぐい、一人で家へ帰る。

夜更けの三時、和真が寝室に入るなり、ためらいもなく灯りを全部つけた。

首筋に鮮やかなキスマークが刻まれていて、その痕跡が私の心を深くえぐる。

私が口を開くより先に、和真は弱りきった私をベッドから力任せに引きずり下ろした。

そして、有無を言わせぬ口調で命じる。

「優奈、美琴は他所じゃ眠れない。この間は家で寝かせる。いいからすぐ起きて、美琴のシーツを替えてこい」

声をかすれさせながら私は口にする。

「和真、私は今日体調が悪いの。あなた……」

言葉を言い終えるより早く、和真は怒りに燃えて私の髪をつかみ、ぐいと顔を上げさせる。

「優奈、まだ惚けているつもりか?

美琴が妊娠したのがそんなに妬ましいのか?

脅しのメッセージまで送っておいて。いいさ。だったら俺の目の届くところに美琴を置いて、お前が何をするつもりか見てやる!」

そう言い終わって、和真は手を放ち、私を床に叩きつける。

腕が擦りむけ、内臓まで揺さぶられるような衝撃に、吐き気が込み上げる。

それでも和真は意に介さず、顔はさらに陰を帯びていく。

「優奈、お前に選択肢があると思うのか?

お前は攻略者だ。元の世界へ戻るのをやめた今、頼れるのは俺だけだ」

信じられない思いで、私は和真を見つめる。

やがて彼はかがみ込み、やさしく私を抱き起こすと、額にそっと口づけを落とす。

「いいか、優奈。安心しろ。お前がおとなしくしてさえいれば、いつまでも朝倉家の妻でいられる。

美琴のことは、死んでほしくないだけなんだ。お前なら分かってくれるだろ?」

私は、見知らぬ人のような和真をじっと見つめ、言葉を失う。

はらり――

扉の前に佇む美琴の手から、艶やかなネグリジェが床に落ちる。

彼女は涙に濡れた瞳で和真を見上げ、震える声を絞り出す。

「和真、優奈と離婚して私と結婚するって、そう約束したじゃない?

まさか、私たちの子を父なし子にするつもり?」

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