和紙文夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた · 第3話設定≡

夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた第3話

この話は約1842字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

和真が美琴の口を塞ごうとするが、もう遅い。

改めて私に視線を戻した彼の目に、ようやくかすかな罪悪感が灯る。

私は裸足でカーペットの上に立ち、目には欠片ほどの期待もない。

和真は片膝をつき、いつものように私にスリッパを履かせながら言う。

「優奈、もう少しだけ待ってくれ。俺はただ、美琴を助けて攻略任務を終わらせたいだけだ。その時が来れば離婚する。俺の妻は、いつまでもお前だ」

その偽善ぶりに、胃の底がひっくり返る。

口では愛を囁きながら、裏では別の女を妊娠させている。

私は立ち上がり、上着を羽織って外へ向かう。

「離婚は離婚よ、仮の話なんてない。

明日、一緒に離婚届を出しに行こう」

そう言ってから、私は再び美琴に視線を向ける。

「この別荘の奥さんがあなただというのなら、主寝室は当然あなたが使うべきよ」

美琴は有頂天になり、和真の手をつかんだまま、止めどなくまくし立てている。

そして、翌朝、美琴はひとりでテーブルで朝食をとっている。私を見るなり、目元に得意と挑発を浮かべる。

「優奈、和真がわざわざ作ってくれた朝食よ。ひと口、食べる?」

彩りも香りも味も申し分ない朝食を見つめ、胸の奥が苦くなる。

あの時、私は和真のために案件を取ろうとして、人に突き落とされた。

それでも和真がきちんと食事をとれるか心配で、杖をつきながら台所に立った。

けれど、本当は和真も料理ができたのだ。

ただ、彼が世話をしたいと思う相手は、最初から私ではなかった。

幸いにも、私はすでにすっかり目が覚め、冷ややかな傍観者になっている。

美琴の挑発にも耳を貸さず、その場を去ろうとする。

だが、美琴が行く手を塞ぎ、冷ややかに笑う。

「優奈、あなたは一体、和真にどんなまやかしを使ったの?

私と結婚すると約束してくれたのに、いつまで経っても先延ばしにするばかり。

また攻略任務なんてくだらないことを持ち出してるの?

この世にシステムなんて本気で信じるのは、和真みたいに愚かな人間だけよ」

そして、美琴は低く沈んだ声で言う。

「でもね、優奈。あなたの存在は邪魔なの。

いっそ、死んでしまえば?」

次の瞬間、美琴が突然飛びかかり、私の手をつかもうとする。私は身をひねって必死にかわす。

その途端、美琴の体が大きく半回転し、勢いのまま後ろへ倒れ込む。

ちょうどその時、背後のドアが開き、和真のうろたえた声が飛んでくる。

「優奈、やめろ!」

和真は美琴を抱きとめ、体勢を整えると、怒りの目で私を睨みつける。

「優奈、何をしている!」

美琴は今にも泣き出しそうな顔で和真を見つめ、口を開くなり私に罪を着せた。

「和真、優奈が私を突き飛ばしたの。私はただ朝ごはん食べるかって聞いただけよ。それに、そのお粥はあなたが私のためにわざわざ作ってくれたって言っただけ。

そしたら優奈が突然逆上して、私を突き飛ばしたの……

お腹が、すごく痛いの……」

和真は眉を険しく寄せ、冷ややかな眼差しを向けると、容赦なく私の体を蹴り飛ばした。私は数メートルも吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。

「優奈、どうしてそんなに酷いんだ?」

胃の中がかき回され、口の中に血の味がじんわり広がる。けれど、私はぐっとこらえる。

和真は私を無理やり連れ出し、役所へ引きずっていく。離婚の手続きは、あっという間に終わった。

美琴の腹痛も、いつの間にか消えていた。彼女は和真の手を取り、すぐさま婚姻届を出しに行こうとする。

去り際、和真が冷たく言い放つ。

「優奈、お前がおとなしくならないかぎり、俺が許すことはない」

二人の幸せそうな背中を見送り、目尻から涙がひとしずく落ちる。

私はシステムを呼び出す。

「システム、私はもう攻略をやめる」

【宿主様、十分後にあなたを元の世界へ転送します】

【あなたは和真の手によって命を落とすことになります。痛覚は事前に遮断しますので、心の準備をしてください】

私は目を閉じ、送還を静かに待つ。

どれほど経ったのか――強い光が目尻を射す。

半ば目を細め、私は視線を上げる。猛スピードでスポーツカーがこちらへ突っ込んでくる。

助手席の美琴はほとんど全身を和真に寄せ、二人はむさぼるように口づけを交わしている。

突然、和真が美琴を突き放す。口から鮮血を噴き、手の震えがひどくなって、ハンドルをつかんでいられない。

ドン――

轟音とともに、私の体は羽のように宙へ舞い、地面に激しく叩きつけられる。

和真は全力でブレーキを踏み、よろめきながらドアを開ける。そして、数歩進んだところで、膝が抜けるように崩れ、その場に座り込む。

「足が……足が、どうして?」

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