夫が初恋に子を授かった後、私は攻略を諦めた第1話
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私、朝倉優奈(あさくら ゆうな)は子どもを授かるために、夫とありとあらゆる体位を試した。
ナース服のまま、ベッドの柵に手錠で繋がれ、私はとろんとした目で彼を誘う。夫の朝倉和真(あさくら かずま)が身をかがめて覆いかぶさってくる。
さらに進もうとした矢先、和真は初恋の人からの電話で呼び出され、部屋を出ていく。
どれほど呼びかけても、彼は一度も振り返らなかった。
そのとたん、股のあたりに生ぬるさが広がり、下腹が波のように痛み出す。
私は痛みに耐え、どうにか拘束を外して病院へ向かう。医者は厳しい顔で告げる。
「妊娠しています。夫婦のこととはいえ、こんな無茶はもうやめなさい」
私はうれしさのあまり涙があふれ、和真に伝えようと電話をかける。
だが、そのとき、背後から着信音が鳴る。
体がこわばり、ゆっくりと振り返る。そこには、ふくらみはじめた腹を抱える香坂美琴(こうさか みこと)の妊婦健診に付き添う和真の姿があった。
* * *
私、朝倉優奈(あさくら ゆうな)は子どもを授かるために、夫とありとあらゆる体位を試した。
ナース服のまま、ベッドの柵に手錠で繋がれ、私はとろんとした目で彼を誘う。夫の朝倉和真(あさくら かずま)が身をかがめて覆いかぶさってくる。
さらに進もうとした矢先、和真は初恋の人からの電話で呼び出され、部屋を出ていく。
どれほど呼びかけても、彼は一度も振り返らなかった。
そのとたん、股のあたりに生ぬるさが広がり、下腹が波のように痛み出す。
私は痛みに耐え、どうにか拘束を外して病院へ向かう。医者は厳しい顔で告げる。
「妊娠しています。夫婦のこととはいえ、こんな無茶はもうやめなさい」
私はうれしさのあまり涙があふれ、和真に伝えようと電話をかける。
だが、そのとき、背後から着信音が鳴る。
体がこわばり、ゆっくりと振り返る。
そこには、ふくらみはじめた腹を抱える香坂美琴(こうさか みこと)の妊婦健診に付き添う和真の姿があった……
病院の廊下で、和真は片腕で美琴を抱き寄せ、もう一方の手で苛立たしげに着信を切る。
美琴は弱々しく、くたりと和真にもたれ、笑みを湛えてたずねる。
「誰からの電話なの?どうして出ないの?」
和真の視線は美琴の下腹に落ち、声はやわらかくなる。
「たいした相手じゃない。いま一番大事なのは、お前と俺の子どもだ……」
曲がり角に立ち尽くし、スマホを握りしめた私の手が、凍りつくように冷たい。
結局、私もお腹の子も、彼にとっては取るに足らない存在にすぎない。
十年前、システムに導かれてこの世界へ来た私は、和真を攻略する使命を背負わされた。
けれど、任務を果たせないまま、私は逆に彼のためにこの世界に残ることを選んだ。
和真には家族性の遺伝病があり、三十を過ぎれば体が動かなくなる運命にあった。彼を救えるのは、実の子の臍帯血だけ――その事実を知ってから、私はあらゆる手を尽くして妊娠を願った。
それでも和真は、焦らなくていい、子どもがいなくても構わないと、いつも言い続けている。
けれど本当は、子どもがいらないんじゃない。私の子どもが、いらなかったのだ。
見えない手に胸をぐっとつかまれたように、苦しくて、悔しい。
少し離れたところで、和真は不意に何かを察したように、はっと顔を上げる。
目が合うと、彼はわずかにうろたえ、反射的に美琴の前へ立って庇おうとする。
「優奈、お前の考えていることとは違う。説明させてくれ。
美琴は、ただの妹だ。今日は健診に付き添っただけなんだ。深読みしないでほしい」
その慌てた様子を見て、私はふっと笑ってしまう。
けれど、それは苦い笑いだ。
なんて滑稽なことだろう。
ただの妹――その一言で、あの肝心なときに私のもとを離れていったのだ。
私の手錠を外すことさえ忘れていた。
私は検査結果の紙を和真の胸に叩きつけ、口元に嘲りを浮かべる。
「何を説明するの?彼女があなたの子を宿してるってことを?
それとも、十年そばにいた私はあなたにとってただのたいした相手じゃないってこと?
和真、あなたは一度でも、心から私を愛したことがあるの?」
声が震え、嗚咽のようになる。
和真の顔色が一気に青ざめる。
十年前、システムに導かれてこの世界へ送り込まれた私は、ひと目でその清澄な少年に胸を締めつけられ、救おうと決意した。
彼の前に現れるなり、私は切り出した。
「私はあなたを攻略するために来たの。でも信じてください。必ずあなたをこの苦境から救い出す」
痩せた少年がふと顔を上げてこちらを一瞥する。だが、その虚ろな瞳は澱んだ水面のように沈みきり、何ひとつ波を立てなかった。
その後、私は持てる限りの金をつぎ込み、彼と共に起業した。いちばん貧しい頃は、湿った半地下の部屋で身を寄せ合って眠り、案件を勝ち取るために吐くまで酒をあおった。
ついに、彼の瞳に私の姿が映り込んだ。
ようやくその瞳に光が差し、彼は問いかけてきた。
「優奈、どうして俺にこんなに優しくしてくれるんだ?」
私は和真の頬をそっと撫で、微笑んだ。
「だって、あなたを愛しているから」
最初は彼を攻略するためにこの世界へ来た。けれど、朝夕を共にするうちに、私はとっくに彼を愛してしまった。
やがて会社は上場し、和真は片膝をついて私にプロポーズした。
「優奈、愛してる。俺と結婚してくれ。攻略なんて捨てて、この世界に永遠に残り、俺のそばにいてくれないか?」
和真の真剣な姿を見つめながら、私は涙をこらえつつうなずいた。
結婚後、私はシステムから、和真を救うためには臍帯血が必要だと知らされた。
そこで、私は会社の職を辞し、家で体を整えて妊活に専念した。
結局、私が一口ごとに苦い薬を飲み下していたその頃、和真は美琴と日々寄り添っていた。
そっと目を閉じると、涙が頬を伝い、和真の手の甲へと滴り落ちる。
和真はうろたえ、ほかのことなど構っていられず、私を強く抱きしめて涙を拭ってくれる。
「優奈、泣かないで。お前が泣くと、胸が痛む」
美琴が和真の袖をつまみ、うるんだ目で見上げる。
「和真……」
和真は私をいちど見て、ためらいがちに子うさぎみたいな美琴へ視線を移し、そして苦しげに言う。
「美琴も攻略者なんだ。彼女が俺の子を宿せないなら、彼女にはもう生きる道がない」
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