夫が兄になりすまして義姉と契った話第3話
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「何をするの!」
彼はうつむき、その吐息が額にかかった。
数秒、沈黙が続いた。
「変わったな、お前」
私は一瞬固まって、すぐに彼の言いたいことが分かった。
思わず笑ってしまった。
「悲しい過去を忘れて、前に進んだら、変わったってことになる……っていうの?」
顔を上げて、彼を見据えた。
「あなたも、知恵さんも、お義母さんも、散々私に言ったじゃない。前に進めって、やり直せって。
今、やっとその通りにできたのに、何がいけないの?」
彼の顔色がさっと険しく変わった。
ギリッと歯を食いしばった。
「嘘だ。あんなに愛していたのに……俺……の、弟のことを」
押し殺した声が、ほとんど歯の隙間から絞り出されるようだった。
「たった三年で、翔伍のことを忘れられるのか?あの子のことも?」
最後の一言が、刃のようにまっすぐ心臓を突き刺した。
私はぎゅっと手を握り締めた。
あの子。
私が守り切れなかった、あの子。
なのに、どの口がそれを言うのか。
彼の訃報さえ聞かなければ、あんなふうに取り乱して早産することもなかったのに。
赤ちゃんだって、感染して窒息死することもなかったはずなのに。
自分が何を言ったか気づいたのか、彰宗は慌てて謝ろうとした。
だが、私はそれを許さなかった。
「自分が何様だと思っているの」
必死に涙をこらえて、彼の顔を射抜くように睨みつけた。
「どうして信じないの?愛してないって言ったら、もう本当に愛してないのよ。もうあの人のために一人で生きたりしない。涙だって、二度と流さない」
「黙れ!」
彼の瞳はわずかに揺れた。
私にそんなことを言わせたくないのか、耳元に押しつけていた手が、さらに強く押しつけられた。
焦ったように顔を近づけ、何かしようとしたその瞬間。
「あなたたち、何をしているの?」
顔が青ざめている知恵が、薄暗い明かりの下に立っていた。
彰宗はすぐに手を離した。
「誤解しないでくれ」
大股で歩み寄って、彼女を腕の中に引き寄せた。
「美咲がよろけたから、ちょっと支えただけだ」
なんて見え透いた言い訳だというのに、知恵はそれにあっさり騙された。
そして、無理に笑みを作った。
「そうだったの、てっきり……」
少し間を置いて、話題を変えた。
「さっきお義母さんから電話があって、優(ゆう)が会いたがってるって」
「優」という名前を聞いた瞬間、息が止まりそうになった。
あの頃、私と知恵はほぼ同時期に妊娠していた。
本当の彰宗が事故に遭ったあの日は、ちょうど知恵の出産予定日だった。
その事情も慮って、彼らは「身分交換」という途方もない大嘘をついたのだ。
なんて滑稽なんだろう。
知恵のことは考えたのに、私のことは、考えなかった。
知恵の子は元気に生まれてきた。
だが私の子はいなくなった。
子供の存在が私の傷に触れないようにと、優はずっと義母のもとで育ってきた。
車で十分もかからない距離だから、会おうと思えばいつでも会える。
「美咲ちゃん」
知恵が呼んだ。
「明日、彰宗と一緒に大事なお客様に会いに行かないといけなくて、悪いんだけど、幼稚園に優を迎えに行ってもらえる?」
彰宗は眉をひそめた。
「体の具合が良くないんだから、家政婦さんに行ってもらえばいい」
「大丈夫、私が行くわ」
彼の言葉を遮って、私は答えた。
……
翌日の午後。
買ったばかりのキャンディを手に、幼稚園の門の前に立っていた。
小さなリュックを背負って走り出してきた優は、甘えるように私を呼んだ。
「美咲おばちゃん」
小さな手が私の手のひらに滑り込んできた瞬間、その温もりに目頭が熱くなった。
私の子が生きていたら、同じくらいの歳になっていた。
でも、その小さな手を包み込もうとしたとき、制御を失った配達バイクが、歩道に突っ込んできた。
反射的に体を翻して、優をきつく抱きしめて庇った。
背中に激痛が走り、優を抱えたまま地面に転がった。
自分の傷など構わず、すぐに優を確認した。
優はひどく怯えて大泣きしていて、額をぶつけてすりむき、そこから血がとめどなく流れていた。
病院へ向かう途中も、血はなかなか止まらなかった。
……
救急室の前。
知恵はボロボロと涙をこぼし、普段の穏やかさとはまるで別人のようで、私を指差して激しく罵った。
「あなたがここ数日落ち込んでいるみたいだから、気を遣って優を迎えに行かせてあげたのに!こんな風に面倒を見るなんて、どういうことなの!? 」
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