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地震の夜、救助隊長の夫は初恋を救った第2話

この話は約1976字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

彼は、規則だから特別扱いできないと言った。誰に対しても公平だと言った。80歳の年寄りも、3歳の子もいるのだと。

では、美咲の祖父は?彼女の両親や叔父夫婦は?

あの人たちはいったい何なのだろう。その規則の例外が許される特別な人たちなのか。それとも、怜司の世界では、最初から優遇されて当然の人たちなのか。

私はその救護テントをにらみつけた。喉の奥に、毒を含んだ炎の塊が詰まっているようだった。熱は胸の奥まで広がり、内臓まで煮えるように苦しい。

十数年の献身も、十数年かけて信じてきた支え合いも、その温かな光景の前で、粉々に砕けた。

怜司は彼女の家族をあれほど丁寧に守っている。その一方で、私の父には何度も頭を下げさせ、がれきに囲まれた中で、血のにじむ妹を背負ったまま、いつ来るともわからない手当を待たせていた。

それどころか、父たちに一度も目を向けようともしなかった。

私は勢いよく振り返り、父と妹が身を寄せているテントへ一気に走って戻った。急ぐあまり、地面に横たわっていた鉄筋につまずきそうになった。

私がテントに駆け込むと、父は私の顔色に気づき、慌てて立ち上がった。

「夕奈!どうした?水をもらえなかったのか?大丈夫、大丈夫だ。蘭には、さっきそこの人からもらった水を飲ませたばかりだから……」

父は汚れたホーローのカップを取り出した。中には、少し土ぼこりがかかった水が半分ほど残っていた。

その瞬間、必死に保っていた冷静さも理性も、完全に崩れ落ちた。

けれど父は何も知らない。

私は何も言わず、再びテントの外へ飛び出した。

父はすぐにあとを追い、テントを出たところで私の腕をつかんだ。そして、洗いざらして白っぽくなった上着の内ポケットから、しわだらけのビニール袋を取り出した。

中に入っていたのは菓子パンだった。袋は少し潰れていたが、封は開いていない。地震の前に買ったものだろう。父は自分では食べず、私たちのためにずっと取っておいたのだ。

父はどこか遠慮がちで、機嫌をうかがうような目で本部テントのほうをちらりと見た。

そして声を落として言った。

「夕奈。これを怜司さんに持っていってくれ。きっと忙しくて、飯も食っていないだろう。少し硬いけど、食べないよりマシだろ」

父はその菓子パンの袋を私の手に押し込んだ。ざらついた指先が手の甲をかすめ、紙やすりのように痛かった。

「家から持ってきたって言えばいい。誰にも見られていないし、規則にも触れないだろう」

そう言って、父は無理に笑ってみせた。目尻のしわが深く寄り、濁った目には、ただ切実な願いだけが浮かんでいた。

私は手の中のパン袋を見下ろした。父のほこりまみれの上着、擦り切れた袖口。そして地面に横たわり、額からまだ血をにじませている蘭。

喉まで込み上げたものを、私は強くのみ込んだ。

「ここで待ってて、お父さん」

菓子パンの袋を握りしめ、私は重い足取りで、温かな黄色い灯りのともる救護テントへ向かった。

テントの入口は、まだ半分めくられていた。

外に立つと、中から食器の触れ合う音と、声を潜めた笑い声が聞こえた。

「怜司、これ食べて。母があなたのために残しておいた牛肉の煮込みなの」

美咲の甘ったるい声がした。

それに答えたのは、聞き慣れた低い声だった。けれどそこには、私が一度も聞いたことのない気安さと笑みが混じっていた。

「うん、うまい。美咲のお母さんは料理が上手だな」

私はその場で固まった。指に力が入り、ビニール袋の中のパンがぎしりと音を立てる。

入口の隙間から、怜司が折りたたみテーブルの横に座っているのが見えた。ほこりまみれの救助服の上着は脱ぎ、きれいな濃色のTシャツ1枚になっている。

美咲は隣に座り、彼に料理を取り分けていた。そのそばには彼女の祖父、両親、叔父夫婦、それからボランティアにあやされている子どもがいる。

テーブルには温かい弁当がいくつも並んでいた。野菜も肉もあり、まだ湯気が立っている。美咲の祖父の手元には水筒が置かれている。水筒はふたが開いていて、しょうが湯の甘い香りが漂っていた。

怜司は器を持ち、飯をかき込んだ。頬が少しふくらみ、横顔には暖かな灯りが柔らかく縁取るように落ちていた。

外から吹き込む夜風に、私は思わず身を震わせた。

自分の姿を見下ろす。全身ほこりだらけで、爪の間には泥が入り込み、髪は乱れて額に張りついていた。

そして手の中のビニール袋を見る。中には、くしゃくしゃに潰れた菓子パン。

彼はここで温かい食事を取り、大切な初恋の人と、その家族に付き添っている。

そのころ私の父は、隅で背中を丸めてうずくまっている。妹は地面に寝かされ、傷口から血をにじませたまま、きれいな水を一口飲むことさえできない。

胸の奥が、細かい針で何度も刺されるように痛んだ。

私は勢いよく目の前のテントの幕をめくり、中へ入った。

テントの中は、一瞬で静まり返った。

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