囚われの愛は哀れみ半分第2話
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私は震える手で、あの契約書にサインした。
言はようやく満足そうに笑い、契約書を背後のまどかに手渡した。
彼女は得意げな笑顔で、手にした契約書を私に向かって振ってみせた。
「本当にありがとう、お姉様。
今度、私の母を迎えてこの旧邸に堂々と住まわせるわ。きっと喜ぶわね」
私は腹が立って彼女とこれ以上話したくなかった。ただ顔を背けて言を見た。
「じゃあ、モコを放してくれるわね」
言は頷き、手を上げてボディーガードにモコを放すよう指示した。身をかがめて、ちょうど私を立たせようとした時だった。
背後のまどかが突然恐怖の叫び声を上げた。
「きゃあ、助けて!助けて!
車椅子が何か変なの!」
彼女は叫びながら、座っている電動車椅子を加速して後方へ突進させた。
電光石火の如く、車椅子はモコの体の上をまっすぐ轢き、壁にぶつかって止まった。
「痛い、足が痛い!」
彼女はまだ痛みを訴えることができた。
でもモコは手足を縛られていて、逃げることもできず、ただ巨大な重量が体の上を踏みつぶしていくのを耐えるしかなかった。モコは一声悲鳴を上げ、その後は動かなくなった。
言は見て見ぬふりをして、モコの体を跨いで通り過ぎた。
真っ青な顔のまどかを抱き上げ、優しく慰めた。
「大丈夫だ、俺がいる。今すぐ病院に連れて行く」
そして慌ただしく去って行った。
私はほとんど転がるようにモコに駆け寄った。モコの口角から血が溢れている。
傍らの獣医の手を掴んで、叫んだ。
「助けて!
呼吸してないみたい。あなた医者でしょう?早く助けてあげて!」
獣医はモコの鼻息を確かめ、私に首を横に振った。
「水原さん、もう亡くなっています」
耳の中でブーンという音がした。
激しい耳鳴りが脳内で炸裂した。
その日の午後、私は自分がどうやって抜け殻のようにモコの遺体を抱いて火葬場へ行ったのか、ほとんど覚えていない。
私には身内がいない。
母は早くに亡くなり、父は浮気をした。
この数年、心から愛したのは、言とモコだけだった。
でも今、モコは無惨に死に、言は私を裏切った。
灼熱の火葬炉の傍らに立っていても、四肢が寒さで震えるばかりだった。
ポケットの携帯電話が震えた。
言からのメッセージだ。
【ちょっと轢かれただけで、モコはまだ鳴き声を上げていた。大丈夫だろう?
まどかはひどく怯えている。病院で付き添うから、今夜は帰らない。契約書にもサインしたんだし、明日の訴訟は取り下げてくれ。
悲しまないで。これから、倍にして愛してやる】
私は返信しなかった。
モコの骨壺を抱き、下げた視線が薬指の指輪に落ちた。ただ無性に皮肉に思えた。
愛?
本当に笑わせる。
言は私が悲しむと分かっていて、それでもやった。
あれは過ちじゃない、わざとの選択だ。
私を傷つけることと愛すること、その二択の中で、彼は傷つけるのを選んだ。故意の、意図的な傷害だ。
永遠に許されない。
その日の午後、私は訴訟を取り下げず、一晩かけて荷物をまとめて言の家から引っ越した。
かつて私たちが愛し合った証だったあの指輪を、私は外し、テーブルの上に放り投げた。
指輪はゴミだ。言の愛はもっとゴミだ。
携帯電話が再び震えた。
航空会社からのメッセージだ。
【水原美寧様、北都発サンフランシスコ行きの航空券のご購入が完了いたしました。当該便は明後日午前10時15分に出発いたします。良い旅を!】
またひとつ震えた。知らない番号からだ。
【水原様、調査が完了しました。白石まどかは実際には交通事故に遭った記録がありません】
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