命を拾った俺は、もう妻を愛さないと決めた第2話
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美智瑠の顔に浮かんでいた嫌悪感が一瞬で固まった。
その時、恭一が娘の手を引いて帰ってきた。
彼は自然な手つきで娘のリュックを玄関の棚に置き、穏やかな声で言った。
「陽真さん、お帰りなさい。何か言い争いしてるみたいですね。とりあえず僕が娘を部屋に連れていきますから、落ち着いて話してください」
そう言うと、慣れた様子で靴を脱ぎ、娘を連れて部屋へと消えていく。まるでこの家の主人のように。
その光景を見ながら、俺は思わず冷たい笑みを浮かべていた。
「たった1カ月家を空けただけで、彼が家の主人になったってわけか。美智瑠、お前に何か言い訳はあるのか?」
病院で死にかけていた間、彼女が恭一と家で甘い時間を過ごしていたことを思い出し、胸がざわついた。
美智瑠は眉をひそめ、苛立ちを抑えるように一本の煙草に火をつけた。
「あんたがどう思おうが勝手よ。私は何も説明するつもりはないから。心が汚い人間には、何を見ても汚く見えるものなのよ」
その時、部屋から出てきた恭一が手に一枚のディスクを持ってきた。
「陽真さん、怒らないでください。これは娘の誕生日の時のビデオです。あなたが間に合わなかったらと思って、霧島社長が特別に録画をお願いしたものです。これでいつでも見られますよ」
そう言うと、少し申し訳なさそうな口調で続ける。
「ただ、こんなに長く帰ってこなかったことは、娘にどう説明したらいいか......」
その言葉を遮るように、美智瑠が怒り声を上げた。
「何よそれ、私が頼んだなんて言わないでよ。あんたが勝手にやったことじゃない!私のことなんか勝手に説明しないで!家を空けてたのは私じゃないでしょ!」
俺は冷笑を浮かべ、恭一の手からディスクを払い落とした。
「そう思うならいいさ。離婚だ。娘は俺が引き取る」
そう言い捨てると、俺はそのまま自分の部屋へと向かった。背後で、美智瑠が驚いた顔をしていたが、気にしなかった。
少しして、怒りに満ちた顔の美智瑠が勢いよくドアを蹴り開け、叫んだ。
「あんた、そんなに早く他の女とイチャつきたいの!?家を空けて遊んでたくせに、帰ってきたら離婚だなんて言い出すの?陽真、頭おかしいんじゃない?娘を連れてどこかの女と暮らすつもり?!」
俺は手を止め、冷たい目で彼女を見返す。
「俺が遊んでただと?美智瑠、お前は俺がこの1カ月、どんな思いをしてたか知ってるのか?俺は――」
だが彼女は聞く耳を持たず、嫌味たっぷりに俺を遮った。
「どんな思い?飲み歩いて女遊び?それとも何か楽しいことでもしてたの?あんたの車、誰か女にでもあげたんでしょ?私をバカにしてるわけ?」
続けて美智瑠は、冷たい視線を俺に向けながら言った。
「車が盗まれた?鍵も副カードも一緒に?消費履歴が私に全部届いてるんだけど」
言葉が喉に詰まった。何もかもが意味を失った気がした。
彼女の目にはもう、愛情の欠片も見えない。俺への心配なんて、最初からなかったんだ。
俺は笑った。自分たちの七年間の愛を思い出して笑った。だが、気づけば涙が溢れていた。
病院で死にかけていた時、医者に生存の可能性は低いと言われても、涙を流すことはなかった。
何度も命を救われる手術を受けたが、未来を信じて、また元気な姿で妻と娘に会えることを願い続けてきた。
だが、今となってはその努力が無意味に思えた。
美智瑠は、俺が涙を流す様子をちらりと見たが、すぐに顔を背けた。その表情は、ただただ俺を嫌悪しているように見えた。
隣で恭一が俺を宥めるように肩に手を置いてきたが、俺は彼の手を払いのけた。
その音は鋭く、部屋中に響き渡った。
美智瑠は勢いよく振り返り、俺を鋭い目つきで睨みつけた。その目には、「あんたは取り返しのつかないことをした」と言わんばかりの怒りが宿っている。
「何してんの?あんた本当に頭おかしいんじゃないの?この1カ月、娘を面倒見てくれてたのは恭一だよ。あんた何様のつもり?俺たちに迷惑かけるために帰ってきたの?それならもう二度と帰ってこないでよ!」
彼女の視線はまるで刃物のように俺の胸を突き刺し、痛みを与えた。
だが、不思議とその瞬間、俺の中にあった感情はすべて消え失せた。
麻痺したように頷きながら静かに言った。
「離婚の書類にサインが終わったら、俺は消えるよ。二度とお前たちの邪魔はしない。そいつと一緒に何をしていようが、もう隠さなくていい」
美智瑠はそれを聞くなり、手に持っていたコップを床に叩きつけ、大声で怒鳴った。
「何度言わせるつもり!?あんた一体どこまでデタラメ言うつもりなの!?私があんたみたいに外で遊び歩いてた?何も言わなかったのはこっちだよ!娘が学校に通い始めたばかりだってのに、今さら離婚だなんて、あんた頭おかしいんじゃないの!?私も会社の仕事で忙しいし、娘の世話もしてんのよ!それなのに帰ってくるなり迷惑しかかけないって、どういうつもりなの!?」
俺は無表情のまま、彼女が怒りをぶつけてくる様子をただ眺めていた。その姿が、どうしようもなく滑稽に思えた。
横で、恭一が困った顔を作りながら美智瑠の肩にそっと手を置いた。
「霧島社長、落ち着いてください。確かに映像にはあの女性しか映っていませんけど、陽真さんに話す機会をあげてもいいんじゃないですか?」
そして、こちらに向き直り、あたかも心配しているような口調で続けた。
「陽真さん、どうしてカードをあの女性に渡しちゃったんですか?消費履歴のメッセージが全部霧島社長に届いてるんですよ。僕も正直、困ってるんです......」
俺は恭一のこういうところが大嫌いだった。
表向きは俺を擁護するような口ぶりでありながら、実際には「浮気してた」と決めつける形に持ち込んでくる。
その言葉を最後まで聞かず、俺は拳を振り上げ、彼の顔面に叩き込んだ。
恭一はうめき声をあげて後ずさった。
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