君が白髪になるその日を待ち、愛が燃え尽きるまで第2話
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澪は呆れたように目を閉じ、思いきって涼介のLINEを削除した。
翌日、澪は手元に残った全財産を使って墓地を購入し、連絡先の欄に涼介の名前を記入した。
暗記しているその番号を見つめながら、澪は自分がどれほど惨めな存在なのかを痛感した。
葬儀の手配をすべて終えた澪は、静かに別荘へと戻った。
だが玄関先では、自分の私物がまるでゴミのように無造作に散乱していた。状況を飲み込む間もなく、甘ったるい声が耳に入る。
「ねえ涼介、ここの全部、本当に私のものなの?」
涼介は穏やかな笑みを浮かべ、琴音の唇に何度もキスを落とした。
「全部、君のものだ。君がこの家の女主人だよ」
二人は、玄関先で立ち尽くしている澪の存在に気づかなかった。
澪は拳を握りしめ、これ以上惨めに見えないよう努めようとしたが、抑えきれずに一気に駆け寄った。
地面に散らばったかつての思い出の写真は、すでに粉々に破かれていた。その中で澪が最も目を背けたくなるのは、両親の位牌が汚水の中に落ち、泥まみれになっていた光景だった。
「誰がやった!?」
拳を震わせながら、澪は怒りをにじませた視線を向ける。琴音は怯えた素振りで涼介の背に隠れ、か細い声で訴える。
「涼介、彼女、怖い……私のこと殴ったりしないよね?」
涼介の顔には無表情が張りついていたが、その手はしっかりと琴音を庇い、口調にはわずかな怒気がにじんでいた。
「俺がやった。何か文句あるか?」
「ここは俺の家だ。お前はもう離婚協議書にサインした。嫌なら出ていけ」
澪の胸に鋭い痛みが走ったが、顔からは感情が抜け落ちていた。
「まだ離婚届は提出してないわ。ここは、私の家でもある」
「後ろのその人、何の立場?警察に通報して身元を確認してもらった方がいいかしら?」
その一言が、涼介の怒りに火をつけた。彼は眉間に皺を寄せ、露骨な嫌悪を滲ませながら冷笑を浮かべた。
「澪……お前、プライドはどこに捨てた?自尊心はどうした?」
澪は汚れた位牌を拾い上げ、無言で階段を上がると、琴音の荷物をすべて引きずってきて、涼介の目の前で床に叩きつけた。
琴音の目はたちまち真っ赤になり、泣き叫びながら家を出て行こうとした。だが、澪はすでに部屋のドアを閉め、すべてを締め出していた。
疲れた。本当に、心の底から疲れた。
目を閉じると、頬を一筋の涙が静かに伝った。この家は、両親が亡くなる前に遺した最後の財産だった。
涼介は知っているはずだ。澪がなぜ、この家を必死に守り続けてきたのかを。
ここは澪にとっての、帰る場所だったのだ。
けれど今、握った手に力はなく、心の奥にあった最後の気力さえも、静かに消えていくようだった。限界はすぐそこにあった。
それでも澪は立ち上がり、涼介との思い出の品々を探し集めた。
涼介が誕生日に贈ってくれた赤いドレスは、琴音にオートクチュールを購入した際のおまけだった。
束になった数百枚のお守りの裏には、びっしりと琴音の生年月日が書き込まれていた。
そして、あの結婚指輪。
十年間、大切に身につけてきたその指輪は、いつも少し大きいと感じていた。あらためて見てみると、内側には琴音の名前のイニシャルが刻まれていた。
澪は静かに目を閉じた。胸の奥に鋭い痛みが広がる。
自分は、なんて愚かだったのだろう。今になってようやく気づいた。
涼介は一度だって、彼女を愛したことなどなかったのだ。
もうこれ以上、思考を支える余力はなかった。涼介が家を空けている間に、澪はそれらすべてを庭で丁寧に処分した。
ようやく目を閉じ、静かに休もうとしたとき、突然、涼介専用の着信音がスマホから鳴り響いた。
反射的に電話に出たら、冷たい声が耳を刺す。
「澪、星那に何かあった。すぐに来い」
その一言で、澪の中の何かが目を覚ました。慌てて家を飛び出した。道中、ただひたすらに祈り続けていた。
雨宮星那(あまみや せな)は、澪が難産の後に引き取った白血病の子どもだった。涼介との関係が完全に破綻したあと、やむを得ず児童養護施設に預け、澪は毎週のように会いに行っていた。
星那は、驚くほどお利口で、どんなに痛くても澪の手をそっと握るだけだった。
「お母さん、いたくないよ」
澪はもう、二度と自分の子を持つことはできない。この子は、澪にとって実の子どもも同然だった。その一言で、澪はアクセルを踏み込み、施設まで車を走らせた。
だが、息を切らしながら施設の扉を開けたその瞬間、
人だかりの中から、琴音の笑い声が響いた。
「ハハハ!涼介、やっぱり言った通りだったわ。彼女って本当、犬みたい。一言で飛んでくるのね」
嘲笑に満ちた周囲の視線を感じて、澪はすべてを理解した。
彼女は静かに踵を返そうとした。だがその腕を、琴音が強引に掴んだ。逃れようとしたその瞬間、澪の身体は力強く押され、湖へと突き飛ばされた。
汚れた水が口と鼻から肺に流れ込み、必死にもがく中、琴音の顔にはこれまで見たことのない勝ち誇った笑みが浮かんでいた。
「あんたなんかに、私を愛人呼ばわりする資格があると思ってるの?」
湖の中を一時間も漂っていた澪が、ようやく岸に辿り着いたとき、まず向かったのは琴音のもとだった。
全身を震わせながら、腕を振り上げ、渾身の力を込めて琴音の頬に、全力の平手打ちを叩きつけた……
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