名もなき星として輝く第2話
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蒼真はわずかに視線を泳がせ、硬い口調で答えた。
「あの時、莉奈をこの街から遠ざけたのは事実だ。だが、彼女のお母さんが先日重病で危篤状態になった。娘として看病に戻ってくるのは当然だろう。人として当たり前の事だ」
「当たり前?」
結衣は鼻で笑った。
「だからその女が戻ってくるのを許容した?子供たちに近づくのを許し、あまつさえ……ママと呼ぶのまで許したの?蒼真、私を馬鹿にしているの!」
「言葉に気をつけろ!」
蒼真はさらに眉をひそめた。
「この件に関しては、最初から俺が悪かった。お前を裏切り、家庭をないがしろにして莉奈に心を奪われたのは俺だ。
だが莉奈は何も悪くない。子供たちが彼女に懐いているのは、莉奈が今、ピアノの講師をしているからだ。この前、悠真と結愛のピアノの先生を探していた時、大勢の候補の中から莉奈を選んだのは子供たち自身だった。
お前との約束通り家庭に戻ると決めてから、俺は彼女と一線を越えるような真似は一切していない。ただの普通の友人として接しているだけだ。お前が勝手に神経質になっているだけだろう。どうしてそこまで彼女を目の敵にするんだ?」
必死に関係を否定しつつも暗に莉奈をかばう彼の様子に、結衣の胸は張り裂けそうだった。
十六歳の時のことを思い出した。バスケットボールコートの脇で、白いシャツを着た少年の蒼真が、陽光を背にして彼女に歩み寄り、耳を赤くしながらも輝くような瞳で言った。
「橘結衣、君が好きだ。付き合ってくれないか」
大学時代、生理痛で苦しんでいた時、彼は重要な実験の授業をすっぽかし、塀を乗り越えてお汁粉を買いに行ってくれた。結衣の寮の前で一時間も待ち続け、自らの手で温かいお汁粉を渡してくれた。
プロポーズの夜、二人が初めて出会った大学のグラウンドにキャンドルで巨大なハートを描き、片膝をついて声を詰まらせながら言った。
「結衣、結婚してくれ。一生、結衣だけを愛する。永遠に変わらない」
双子を産んだばかりの時、彼は子供たちを抱きしめ、目を赤くして疲れ切った彼女に言った。
「結衣、ありがとう。これからは家族四人、永遠に一緒だ。俺が命を懸けてお前たちを守る」
かつての誓いが甘いものであればあるほど、今の裏切りは深く心をえぐる。
彼は自分の目の前で、別の女に心変わりしたと認めたのだ。
それどころか、家庭を壊そうとした女をかばい、自分のことを神経質だと責め立てた。
「つまり」
結衣の声はひどく掠れ、絶望の淵にいるような静けさを帯びていた。
「あなたの目には、私が水城を理不尽に攻撃しているようにしか見えないのね。でも、あなたは考えたことがある?自分の子供が別の女をママと呼ぶのを直接聞いた時、私の心がどれほど痛むか。ほんの一秒でも、私の立場になって考えたことはあるの?」
赤く腫れた目をして、今にも倒れそうな彼女を見て、蒼真の喉仏が動いた。
「俺は……」
彼が口を開きかけた時、結衣は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。再び目を開けた時、その瞳には冷ややかな決意だけが残っていた。
「蒼真、二つの選択肢をあげる。
一つ目、今すぐ水城をクビにして、私と子供たちの生活から完全に消え去らせること。二つ目……」
彼女は言葉を切り、全身の力を振り絞るように言った。
「離婚しましょう」
離婚。
その言葉を、彼女はついに再び口にした。
しかし、以前のように慌てふためくことはなく、蒼真の目は恐ろしいほど冷静だった。
「ダメだ。子供たちはすでに莉奈に懐いているし、彼女の教え方はとてもいい。俺はお前と約束した以上、二度と彼女と一線を越えることはない。正当な理由もなく彼女を解雇することはできない」
彼は結衣を見つめ、確信に満ちた口調で、わずかな見下しすら含んで言った。
「結衣、いつも離婚を盾にして脅すのはやめろ。わかってるんだ、お前は子供たちのために、本気で離婚する気なんてないってことを」
子供たちのために……
結衣の心は、その言葉に激しく踏みにじられた。
そうだ、前回彼にチャンスを与え、耐え忍ぶことを選んだのは子供たちのためだった。
しかし、その弱点が、彼が自分をコントロールし、つけ上がるための切り札になるとは思いもしなかった。
結衣が絶望に満ちた視線でこちらを見つめているのに気づき、蒼真は苛立たしげに眉間を揉んだ。そして、事を荒立てまいとするような、いい加減な口調で言った。
「わかった、今日は子供たちもやり過ぎた。あいつらには謝らせる。この件はこれで終わりにしよう。お前もこれ以上しつこく追求するのはやめてくれ、いいな?」
彼は振り返り、少し離れたところにいる結愛と悠真を手招きした。
「悠真、結愛、こっちへ来い。ママに謝りなさい」
二人はしぶしぶ歩み寄り、顔には不満がありありと浮かんでいた。
悠真は口を尖らせた。
「僕たち、なにも悪いことしてないもん……」
「悠真!」
蒼真は声を荒らげた。
悠真はようやく不承不承、小さな声で呟いた。
「ごめんなさい」
結愛も小さな声で言った。
「ごめんなさい」
誠意のかけらもない謝罪。二人を見つめながら、結衣はただひたすら空しく、悲しかった。
警察署を出ると、蒼真がすでに車に乗って待っていた。
彼は莉奈に二人の子供を連れて先に乗るように言い、自分は結衣の前に歩み寄った。
「乗れよ」
彼の口調はいつもの平坦なものに戻っており、先ほどの口論などなかったかのようだった。
結衣は何も言わず、黙って助手席に乗り込んだ。
車内は、重苦しい空気に包まれていた。
子供たちは左右から莉奈にまとわりつき、ぺちゃくちゃと喋っていた。莉奈は優しく相槌を打ち、時折ティッシュで結愛の額の汗を拭いてやった。
運転席に座る蒼真は、時折振り返って三人の会話に加わった。子供たちに今日幼稚園で何を学んだかを聞き、莉奈に母親の病状を尋ねた。
四人は和気あいあいと笑い合い、穏やかな雰囲気に包まれていた。
まるで彼らこそが本当の家族であるかのように。
一方の結衣は、間違って入り込んでしまった部外者のように、彼らの世界から完全に隔離されていた。
猛スピードで後ろへ流れていく窓の外の街並みを見つめながら、結衣は胸の空洞がどんどん広がり、骨の髄まで凍りつくような寒さを感じていた。
これが、私が自己を犠牲にし、苦心して維持してきた家庭なのだろうか。
あまりにも滑稽だった。
車が交差点に差し掛かったその時、横から一台の乗用車が突然コントロールを失い、赤信号を無視して突っ込んできた。
ドンッ――!
激しい衝突音が響き渡った。
結衣は体が激しく宙に投げ出され、再び重く叩きつけられるのを感じた。額や体中のあちこちから激痛が走り、生温かい血が視界をぼやけさせた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。救急車の甲高いサイレンの音が近づいてくる。救急隊員の声が聞こえた。
「こっちだ!負傷者をすぐに病院へ!」
ストレッチャーが近づく音がしたが、次の瞬間、二つの影に遮られた。
「莉奈おばちゃんを先に助けて!」
泣き声を交えながらも、異常なほど頑なな悠真の声だった。
「血がいーっぱい出てるの!気絶して動かないんだよ!」
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