卒業写真から消された、私の七年の恋第1話
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卒業記念パーティーで、経済経営学部の4年間を振り返る記念映像が上映された。
編集を担当したのは、柏木智也(かしわぎ ともや)だった。
最後の一枚が映し出された瞬間、会場から一斉に冷やかす声が上がった。
写真には、海辺に並ぶ智也と宮本晴香(みやもと はるか)が写っていた。二人の背後に夕日が沈み、まるで選び抜かれたカップル写真のようだった。
私は元の写真を知っていた。
あの日、海へ行ったのは3人だった。
私はもともと、智也の左隣に立っていた。
だが今は、写真から切り取られていた。
司会者は笑いながら、どうしてこの写真だけを残したのかと尋ねた。
智也はマイクを握ると、私――高瀬栞(たかせ しおり)にちらりと目を向けた。
「栞は目をつぶってたから、写りが悪かったんだ」
客席から笑い声が上がり、誰かが、さすが柏木家の御曹司、彼女の写りまでちゃんと気にするんだな、とからかった。
私も一緒に笑った。
その場にいた誰も知らなかった。
ほんの30分前、私は東都のプロジェクト責任者に返事を送ったばかりだった。
卒業後、私は汐見市へは行かないことにした。
智也が7年間思い描いてきた未来に、今度は私はいなかった。
* * *
卒業記念パーティーが終わると、講堂の外は写真を撮る学生たちであふれていた。
4年間を共に過ごした仲間同士で抱き合い、角帽を空高く放り投げていた。普段はそれほど親しくない者たちまで、この日ばかりは一緒に何枚も写真を撮っていた。
私は階段の下で智也を待っていた。
十数分待っても、姿を見せなかった。
先にスマホが鳴った。
晴香がSNSを更新していた。
晴香は智也のアカデミックガウンを羽織り、彼の角帽をかぶっていた。智也は隣で花束を持ち、もう一人の男子学生が手前にしゃがんで写真を撮っていた。
投稿には、共通の友人たちから冷やかすコメントがいくつもついていた。
【やっと友達のふりをやめた?】
【パーティーで流れた写真より、こっちのほうがお似合いじゃん】
【彼女さんが見たらブチ切れるぞ】
晴香はすぐに返信した。
【変なこと言わないで。私たちはただの友達だって。栞はそんなことで怒らないよ】
私はしばらく画面を見つめたあと、SNSを閉じた。
そのアカデミックガウンにアイロンをかけたのは、私だった。
智也は朝7時に私のところへ持ってきて、午後は忙しいし、自分でやるとしわにしそうだからと頼んできた。
私は30分かけて丁寧にアイロンをかけ、カバーに入れておいた。
それを今、晴香が着ていた。
しばらくすると、二人が一緒に講堂の脇の扉から出てきた。
足早に歩いていた晴香のヒールが階段の隙間に引っかかり、体がぐらりと傾いた。
智也はとっさに彼女の身体を支えた。
ずいぶん慣れた動きだった。
晴香が体勢を立て直してから、智也はようやく私に気づいた。
晴香はアカデミックガウンを脱いで私に差し出し、写真を撮る間だけ借りていたのだと笑った。
私はそれを受け取った。
襟にはファンデーションが少しついていた。
「大丈夫」
そう言って、うつむいたままガウンを畳んだ。
晴香は明らかに戸惑っていた。
以前の私なら、晴香が智也のものを借りれば、少しは嫌な顔をしていた。
喧嘩をするわけではなかった。
ただ、一言注意するだけだった。
以前、晴香が智也の上着を着たまま自分の部屋へ戻ったときも、私は不満を口にしたことがあった。
そのとき、智也は笑って言った。
「上着くらいで気にするなよ」
その後も同じようなことが何度も続いた。
やがて私は、何も言わなくなった。
それでも、智也は私の様子がいつもと違うことに気づいていた。
寮へ戻る途中、智也は何度も私を見ていた。やがてパーティーで流した写真の話を持ち出し、元の写真では私がちょうど目を閉じていて、写りがよくなかったから切り取ったのだと説明した。
あまりにも自然な口調だった。
智也は、あの卒業記念映像の編集に丸1週間をかけていた。
大学4年間の写真があれほどたくさんある中で、晴香が一番きれいに写っている一枚は分かっていたのに、3人とも自然に写っている写真を探そうとはしなかった。
私は一つだけ尋ねた。
「元の写真は残ってる?」
「たぶんパソコンにある」
智也は大したことだと思っていない様子で、すぐにうつむいてメッセージを返し始めた。
画面に表示された名前が目に入った。
晴香だった。
私はそれ以上、何も聞かなかった。
それぞれの寮へ向かう道の分かれ目で、智也が足を止めた。
晴香が住む棟は、私の寮とは別方向にあった。
晴香は一人で卒業祝いの花束を抱え、先へ歩いていた。
智也はその姿を見た。
「荷物が多いから、送ってくる」
私はうなずいた。
「分かった」
智也は私に向かって軽く顎をしゃくった。
「着いたら連絡して」
私は自分の寮へ向かった。
23時を過ぎても、キャンパスにはまだ大勢の学生が残っていた。
あちこちで歌う声が聞こえ、卒業記念の動画を撮っている学生もいた。
私は部屋へ戻った。
シャワーを浴びた。
髪を乾かした。
翌日提出する書類も整理した。
0時半になっても、智也から無事に着いたかと聞く連絡はなかった。
以前も、智也は何度となく「着いたら連絡して」と言っていた。
私がいつまで連絡しなくても、無事に家に着いたか気にして、向こうから連絡してくることは一度もなかった。
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