半分こする愛なんていらない第2話
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「拓海くん、澪さんまだ怒ってるのかな?
泥だらけの服を洗濯カゴに放り込んだせいで、泥水が飛び散って、私の限定モデルのハイヒールまで汚れちゃったのよ」
ドアの外から、結月の甘ったるい愚痴が聞こえてきた。
続いて、拓海の足音が急ぎ足で近づき、バスルームのドアの前に止まった。
「澪!お前、また何のつもりだ?」
拓海がドアをガンガンと激しく叩き始めた。
「結月が明日の面接であのハイヒールを履いていくって知ってて、なんでわざわざ泥だらけにしたんだ!」
私は冷たいタイルの床にへたり込み、バスタブに背を預けていた。
体から血が溢れ出し、白いタイルの上に恐ろしいほどの血溜まりを作り出していく。
指先は凍りついたようで、拳を握りしめる力すら残っていなかった。
「拓海……お腹が、すごく痛いの……」
ドアの向こうへ届かせようと声を絞り出したが、あまりに弱々しいその声は、シャワーの水音にかき消されて途切れてしまった。
「病院に連れて行って……お願いだから」
ドアの外の叩く音が2秒ほど止まった。
すると、拓海がフンと冷笑する声が聞こえた。
「澪、お前の小細工もだんだん見苦しくなってきたな。
台風警報はもう最高レベルに引き上げられてるんだ。
市内の主要道路は全部冠水してて、車なんか出せるわけないだろ。
お前はただ、俺が結月を少し特別扱いしてるのが気に入らなくて、こんな時にわざと俺を困らせようとしてるだけだろ?」
隣で結月が、わざとらしく宥めるような声を挟んだ。
「拓海くん、もしかしたら澪さん、本当に具合が悪いんじゃない?
キッチンに行って、温かいうどんでも作ってあげたら?」
「いいんだよ。俺が普段から何でも大目に見てやってるせいで、図に乗ってるだけだから」
拓海は、さも自分がいかに心の広い夫であるかのように、呆れたような口ぶりでそう言い放った。
「結月、あいつを庇う必要はない。
ハイヒールが汚れちまったな。40万円振り込んでやるから、明日店で同じものを買えばいい。
台風が過ぎたら、ハワイにでも気分転換に行こう。
ちょうど向こうのギャラリーで展示会があるからな」
彼はそこで言葉を切り、わざとドアの中の私に聞こえるように声を張り上げた。
「澪!お前の分も同じ便のファーストクラスを予約しておいてやる!
ホテルの部屋だって、結月と全く同じオーシャンビュースイートだ!
シャワーを浴びたらさっさと床を拭いて、痛み止めでも飲んで寝ろ。
これ以上駄々をこねるなよ!」
足音が遠ざかり、リビングからはバラエティ番組の笑い声が聞こえ始めた。
私はうつむき、広がる血だまりを見つめた。
3年前、妊活がうまくいかなかった時、拓海は私を抱きしめて夜通し泣いたことがあった。
彼は私の平らな下腹部に顔を埋めて誓ったのだ。
もし子供ができたら、自分の命だって私たち母子に捧げると。
今、私の体内に宿ったこの子が消えかけている。
それなのに彼は、ドアの外で他の女に靴代を振り込んでいるのだ。
再び、結月の足音が近づいてきた。
彼女はドアのすぐ外に立ち、声を潜めて言った。
その声には、薄気味悪い笑みが混じっていた。
「澪さんが羨ましいわ。拓海くんはね、あなたが嫉妬しないように、私に靴を買う時は必ずあなたにも同じものを買ってあげるのよ。
たとえあなたが普段、数千円のペタンコ靴しか履かなくて、40万円もするピンヒールなんて絶対に履きこなせないと分かっていてもね。
澪さん、本当はもう気づいてるんでしょ?
拓海くんがあなたにお揃いのものを買うのはね、私へのプレゼントを優先して選んだ罪悪感を隠したいだけなのよ」
そう言い残し、彼女はスリッパをパタパタと鳴らして遠ざかっていった。
唇を強く噛み締めると、口の中に血の味が広がった。
二度と痛みに声を上げることも、拓海に助けを求めることもしなかった。
私は震えてスマホを落としそうになりながらも、病院に電話をかけた。
「助けてください。大出血しています……たぶん、流産です。
住所は……静安町4番地の2号棟、801号室です。
早く救急車をお願いします……もう、意識が……」
電話を切り、私は残された最後の力を振り絞って棚の上のバスタオルを引き下ろし、下半身をきつく巻き込んだ。
リビングから拓海が結月のリンゴを剥きながら楽しそうに談笑する声を聞きながら、私はゆっくりと目を閉じた。
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