十年前に戻った妻は初恋を選び、すべてを失った第2話
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俺は少し首をかしげた。どうして彼女がそこまで大きく反応するのか、よく分からなかった。
別れたあとに連絡先を消すなんて、普通のことじゃないか。
それに、うちにはとんでもなく嫉妬深いやつがいる。もし俺がまだ元カノの連絡先を残してるって知ったら、きっとしばらく大騒ぎになる。
「前に言っただろ。別れたあと、もう自分を探しに来ないでほしいって」
美咲の表情がすっと冷えた。何か言いたげだったが、結局口にはしなかった。
俺は淡々とした口調で付け加えた。
「手切れ金もいらない。必要ないから」
立て続けに思い通りにならなかったせいか、美咲の顔色はさらに悪くなり、冷たく言い放った。
「今さら私の前で何を取り繕ってるの?今のあなたがあまりにもみじめだから、少し声をかけてあげただけ。そうでなければ、一言だって話したくなかったわ」
奏太はやさしく彼女をなだめた。
「美咲、君は本当に甘いな。こんな男のこと、気にかける必要なんてあるかい?その薄汚れた格好を見れば分かる。どうせ何をやってもものにならない男だよ」
見下したようなその口ぶりは、まるで十年前の自分のほうが俺よりましだったことにでもなっているみたいだった。
前の人生で、美咲の家が娘と奏太の交際に反対したのは、彼に学がなく、裏社会に足を突っ込むようなチンピラだったからだ。
大学で初めて美咲に会ったとき、彼女はちょうど奏太を警察から保釈してきたばかりで、家族に無理やり別れさせられていた。
美咲がいちばん塞ぎ込んでいたあの時期、ずっとそばにいたのは俺だった。彼女がそこから抜け出せるよう、支え続けた。
彼女は写真を撮るのが好きだったから、俺は起業資金にするはずだった金を回して、何十万もする機材を買ってやった。
真冬でも真夏でも、何十キロもある機材を背負って彼女のあとをついて回った。ただ心から笑ってくれれば、それでよかった。
まさか、先に告白してきたのが美咲のほうだったなんて、当時の俺は思いもしなかった。
俺は彼女と奏太の過去を知っていたし、彼女が時おりアルバムの中のツーショットを見つめてぼんやりしているのも見ていた。
だから、美咲に告白されたとき、俺は本気で尋ねたんだ。
本当に奏太のことはもう吹っ切れたのか、と。
あのとき彼女は俺をぎゅっと抱きしめ、きっぱりと言った。
「あれはもう過去よ。誰が本当に自分を大事にしてくれるのか、私はとっくに分かってる。柊真、大好きだよ。付き合って」
俺たちは七年付き合った。それを見て、彼女の親友ですら驚きを隠せなかった。
「あんなに奏太のこと好きだったのに、まさかこんなに続くなんて思わなかった」
けれど、誰も知らなかった。
美咲が人知れず、何度も俺のプロポーズを断っていたことを。
「柊真、私は結婚する気がないの。このままずっと一緒じゃだめ?」
その後、両親からの結婚の催促が厳しくなって、ようやく彼女は結婚に同意した。
だが、新婚旅行の最中、奏太が事故で亡くなったという知らせが届くと、彼女はクルーズ船から海へ身を投げた。ただ一通の遺書だけを残して。
その遺書に綴られていたのは、最初から最後まで奏太への愛だけだった。俺への言葉は一文字たりともなかった。
そして最後に、彼女は血でこう書き残していた。
【奏太、私はこの一生、あなたの花嫁になりたかった。今、あなたのところへ行くわ】
その瞬間、彼女へ向けていた俺の愛も完全に灰になった。
だから、やり直したあとで美咲が別れを切り出してきたとき、俺は引き止めなかった。
引き止めたところで無駄だと、分かっていたからだ。
二人がよりを戻すのを見届けたあと、俺は美咲の連絡先をすべて消した。この人生でもう会うことはないと思っていた。
なのに、まさかこんな場所で再会するなんて。
俺は立ち去ろうとしたが、奏太はなおも食い下がり、どうしても皆の前で俺に恥をかかせたいらしかった。
「美咲に取り入るために、ずいぶん必死なんだな。その格好を見るに、どうせまともに食っていける仕事すらないんだろう。
そうだな、ここで給仕でもやればいい。人に仕えることを覚えれば、月に十八万や十九万くらいは稼げるんじゃないか?」
そばにいた連中も機嫌を取ろうとして、へらへら笑いながら口を挟んだ。
「ここは海市でも一等地のホテルですよ。ここで働けるなんて、あなたみたいな人にはこの上ない幸運でしょう。ほら、水沢さんにお礼を言ったらどうです?」
人に囲まれてしまい、すぐには抜け出せそうになかった。俺は仕方なく言った。
「お気持ちだけで結構です。でも、もう仕事はあります。写真を撮ってるんです」
その一言に、美咲はぴくりと反応して俺を見た。目の奥に複雑な色がよぎり、唇がわずかに動く。
だが彼女はすぐ顔をそらし、そっけなく言った。
「写真でいくら稼げるっていうの?趣味を仕事にしたって食べてはいけないわ。顔なじみだから言ってるのよ。私なら、あなたに仕事を回してあげられる」
俺は一瞬きょとんとしたが、すぐに彼女が勘違いしているのだと分かった。
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