十年前に戻った妻は初恋を選び、すべてを失った第1話
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初恋が死んだと知った妻の成瀬美咲(なるせ みさき)は、新婚旅行中のクルーズ船から身を投げ、この世を去った。
そのときになって、ようやく俺は知った。
彼女は一度も、水沢奏太(みずさわ そうた)のことを忘れていなかったのだと。
少女の頃に戻った彼女は、迷いなく俺の手を振りほどき、初恋のもとへ駆けていった。
俺は二人の背中を見送って、そのまま背を向けた。
それから先、俺たちの人生が交わることはなかった。
ただ並んで伸びていくだけの、交わらない二本の平行線になった。
十年後、海市のパーティーで俺たちは再会した。
彼女はすでに社交界の新たな寵児となっていて、奏太の腕に親しげに寄り添いながら姿を見せた。
俺が人を捜して会場に入ってきたのを見ると、彼女は思わず口を開いた。
「どうしてそこまで私に執着するの?たとえ十年待ったとしても、私はあなたを愛したりしないわ」
俺は相手にせず、隅でこっそりケーキをつまみ食いしていた息子の首根っこをつかまえた。
その瞬間、彼女ははっとしたように目を赤くして、俺の手を強くつかんだ。
「わざと私を怒らせようとしてるの?あなた、言ったじゃない。この一生、愛するのは私だけだって」
* * *
初恋が死んだと知った妻の成瀬美咲(なるせ みさき)は、新婚旅行中のクルーズ船から身を投げ、この世を去った。
そのときになって、ようやく俺は知った。
彼女は一度も、水沢奏太(みずさわ そうた)のことを忘れていなかったのだと。
少女の頃に戻った彼女は、迷いなく俺の手を振りほどき、初恋のもとへ駆けていった。
俺は二人の背中を見送って、そのまま背を向けた。
それから先、俺たちの人生が交わることはなかった。
ただ並んで伸びていくだけの、交わらない二本の平行線になった。
十年後、海市のパーティーで俺たちは再会した。
彼女はすでに社交界の新たな寵児となっていて、奏太の腕に親しげに寄り添いながら姿を見せた。
俺が人を捜して会場に入ってきたのを見ると、彼女は思わず口を開いた。
「どうしてそこまで私に執着するの?たとえ十年待ったとしても、私はあなたを愛したりしないわ」
俺は相手にせず、隅でこっそりケーキをつまみ食いしていた息子の首根っこをつかまえた。
その瞬間、彼女ははっとしたように目を赤くして、俺の手を強くつかんだ。
……
「わざと私を怒らせようとしてるの?あなた、言ったじゃない。この一生、愛するのは私だけだって」まさかこの人生で、もう一度美咲と再会することになるなんて、夢にも思わなかった。
海市の名士たちが集う華やかなパーティーで、彼女は奏太の腕に手を添え、人々の輪の中に立っていた。笑みは優雅で気品に満ちていて、あの頃の少女の面影はもう少しも残っていなかった。
周囲に集まった人たちはみな愛想笑いを浮かべ、へつらうような口調で口々に言った。
「成瀬さんは本当に男勝りですね。こんな若さで県レベルのプロジェクトを勝ち取るなんて、先が楽しみです!」
「お隣の方はお相手でしょうか。まさにお似合いで、見ているこっちがうらやましくなりますね」
奏太は美咲を優しく見つめ、穏やかな声で言った。
「俺たちは年末に結婚する予定です。お時間がありましたら、ぜひ披露宴にいらしてください」
周囲からまた祝福の声が上がり、その中の誰かがふと尋ねた。
「お二人、もう十年も付き合ってるって聞きましたけど、どうして今になってようやく結婚なんですか?」
その疑問は、俺もちょっと気になっていた。
前の人生で、美咲は奏太を愛するあまり、後を追って死んでもいいと思うほどだった。
生まれ変わって戻ってきてからは、すぐに俺と別れた。
だから俺はてっきり、二人は卒業したらそのまま結婚するものだと思っていた。まさか今になっても、まだ籍を入れていなかったなんて。
その言葉を聞いた瞬間、美咲の顔にほんのわずかなこわばりがよぎった。だが次の瞬間には、それを隠すように笑みを浮かべた。
「まずは仕事、結婚はそのあと、ってことです。奏太には一番いい暮らしをさせてあげたいので」
彼女は奏太を見つめた。その目に浮かぶ甘やかな愛情は、今にもあふれ出しそうだった。
一回目の人生で俺と付き合っていたとき、俺は何度も彼女にプロポーズした。
それでも、家族から圧力をかけられるまで、美咲はようやくしぶしぶ俺との関係を認めるだけだった。
愛しているかどうかなんて、ここまではっきり出るものなんだな。
俺が背を向けて立ち去ろうとしたそのとき、視界の端に小柄な人影が映り、体が反射的にそのあとを追っていた。
「きゃっ!」
シャンパンが床一面に飛び散り、トレーを持ったスタッフが不機嫌そうに俺をにらみつけた。
「どこから入り込んできたの?ちゃんと前を見て歩けないの?」
声が大きかったせいで、周囲の視線が一斉にこちらへ集まった。
俺の顔を見た美咲は、はっきりと驚いた顔をした。
「白石柊真(しらいし しゅうま)、どうしてここにいるの?」
俺はうつむいてスタッフに謝りながら、事情を説明した。
「人を探しに来たんです」
それを聞いた誰かが興味深そうに美咲へ尋ねた。
「成瀬さん、お知り合いですか?」
美咲はグラスを持つ手にわずかに力を込め、目つきをすっと冷やした。
「ええ、元彼ですよ」
その場の誰かが口を滑らせた。
「十年も付き合ってたなら、てっきりお互い初恋同士かと思ってましたよ」
奏太の笑みがわずかに薄れた。だが彼は美咲の手を握ったまま、何でもないことのように言った。
「若い頃のことですからね。けんかして少し離れていただけです。若いうちって、誰だって一度くらいは道を踏み外すものでしょう?」
美咲は何も言わなかった。俺の上を視線がかすめ、そのままスタッフへ向けられる。
「損害は私のほうで持つわ。この人は帰してあげて」
彼女は静かにそこに立っていた。さっき目が合ったとき以外、俺のほうを見ようともしない。
奏太の前で、かつて道を誤った過去としての俺と、きっぱり線を引くつもりなのだろう。
スタッフはすぐに俺を外へ押し出そうとした。
「成瀬さんが親切に尻ぬぐいしてくれたんですよ。次はありませんからね」
そして俺のしわだらけの寝間着を見下ろし、あからさまに顔をしかめた。
「ここはあんたみたいなのが来る場所じゃない。さっさと出ていってください」
俺はその手を振りほどき、できるだけ穏やかに言った。
「人を探しに来ただけなんです。見つけたら、自分で出ていきます」
スタッフは鼻で笑い、白けたように目をむいた。
「玉の輿でも狙ってるような奴は、これまで何人も見てきましたよ。こんなパーティーに、あんたみたいなのが入れる立場だと思ってるんですか?これ以上しつこく居座るなら警備を呼びますよ!」
「待って」
そのとき、背後から美咲の声がした。
彼女はドレスの裾をつまみながらこちらへ歩いてきて、俺を見て小さくため息をつき、困ったように言った。
「この人は私に会いに来たの。だから、私が話すわ」
奏太は彼女の隣に立ち、所有を誇示するようにその肩を抱いた。
「白石、俺と美咲はもうすぐ結婚するんだ。少しでも羞恥心ってものがあるなら、このタイミングで元恋人に会いに来たりはしないと思うけど?」
美咲の顔色はさらに悪くなり、とうとう我慢できなくなったように俺を諭した。
「どうしてそこまで私に執着するの?たとえあなたが十年待っていたとしても、私はあなたを愛したりしない。
そもそも、あなたと付き合っていたこと自体が間違いだったの。ようやくその間違いを正す機会を得たんだから、あなたにも早く過去を手放してほしい」
奏太は俺を上から下まで眺め、その目にあからさまな嘲りを浮かべた。
「美咲に会いに来たくなる気持ちは、まあ分からなくもないよ。今の美咲は有名な実業家だからね。取り入ろうと寄ってくる連中がいても不思議じゃない」
おそらく、俺の身につけたしわくちゃの寝間着が彼をいっそう増長させたのだろう。奏太は得意げに言い放った。
「お前だって一応は名門校の出なんだろ?それが今じゃこの有様か。俺がお前なら、恥ずかしくて外なんて歩けないけどね」
美咲は眉をひそめ、スマホを取り出すと、いら立ちをにじませた声で言った。
「昔の別れ方が納得いかないっていうなら、今ここで手切れ金を払ってもいいわ。
一千万で足りる?」
彼女の指が画面の上を二度ほど滑ったところで、不意にその動きが止まった。
「……私の連絡先、削除したの?」
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