別宅に夫の愛人がいた第2話
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家に戻るなり、私はすぐ紗季のインスタを開いた。
中でもひときわ「いいね」が集まっていた投稿が三つあった。
最初の投稿には、真珠のブレスレットをつけた手首の写真が載っていた。
キャプションにはこう書かれている。
【彼にもらったの。これっていくらくらいすると思う?】
――それは、昔義母がずっと身につけていたものだった。
本間家では、そのブレスレットは代々、長男の嫁にだけ渡されるはずのものだ。
少し前に家を片づけたとき見当たらなくて、郁人は実家に置き忘れたのかもしれないと言っていた。
それをまさか、あの女に渡していたなんて。
こみ上げてくる吐き気をどうにか押し殺しながら、私はそのまま画面をスクロールした。
二つ目の投稿には、バリの高級ホテルのインフィニティプールで、ビキニ姿の紗季がゆったりと寝そべる写真が添えられていた。
その背中に日焼け止めを塗っている手が映り込んでいて、それを一目見ただけで郁人の手だとわかった。
子どものころの怪我のせいで、小指の形が少しだけ人と違うからだ。
投稿日の日付を見て、私は息をのんだ。
その日は、私たちの結婚記念日だった。
あの日のために私はずっと前から準備して、どうしても一緒に過ごしてほしいと頼んだのに、郁人は急な出張だと言って聞き入れなかった。
子どもみたいなことを言うな、俺の立場も考えろとまで言われた。
三つ目は、いちばん新しい投稿だった。
紗季は今回のパリ旅行で買ったブランド品を、これ見よがしに並べていた。
画面の端に映り込んだカードの一部を見た瞬間、私は息をのんだ。
末尾の番号に見覚えがあった。あれは間違いなく、郁人のクレジットカードだった。
ざっと見ただけでも、それらの総額は控えめに見て4000万円は下らない。
まさか、ここまでとは思わなかった。
郁人は紗季には4000万円分もの贈り物を惜しげもなく与えておきながら、私には記念日でさえ映画のチケット1枚で済ませていたのだ。
そのくせ私は彼を気の毒に思い、あの家まで売って資金繰りを助けようとしていた。
自分の見る目のなさにも、両親の反対を振り切ってまで彼と結婚した過去にも、腹の底から怒りがこみ上げてきた。
今になって思えば、最初から二人に笑いものにされていたようなものだった。
怒りに任せて、私は手元の証拠をすべて同級生の三浦卓也(みうら たくや)に送った。
今の彼は法律事務所の看板弁護士で、離婚訴訟では一度も負けたことがない。
卓也は証拠を見終えた瞬間、怒りを抑えきれない様子で吐き捨てた。
「郁人のやつ、よくもこんなことをしたな。お前のご両親の支えがなかったら、今のあいつなんて絶対にあり得ないのに。
安心しろ。あいつがこれまで奪ってきたものは、全部きっちり取り返してやる」
その言葉を聞いて、胸につかえていたものがほんの少しだけ軽くなった。
郁人がそこまでやるなら――私だってもう容赦しない。
長電話のせいで喉がからからになり、水を飲んでひと息ついたところで、郁人から電話がかかってきた。
「工場の注文が立て込んでてさ。今夜は残業で帰れそうにない。
そういえば紗季から聞いたけど、今日あいつに会ったんだって?家賃はこっちから振り込んでおくから、確認しておいてくれ」
考えるまでもない。
その家賃だって、どうせ郁人が肩代わりしているに決まっている。
先に話しておけば、私に疑われないとでも思っているのだろうか。
あまりにも浅はかで、呆れるしかなかった。
紗季もきっと聞き耳を立てているはずだと分かっていた私は、わざと声を張った。
「いいの。紗季さんのこと、すごく気に入ったし。そのお金はそのまま返してあげて。残業、大変だろうけど……無理しないでね」
――もちろん、あの二人はまだ気づいていない。
今朝あの家を訪ねたとき、紗季が目を離したほんのわずかな隙に、私はすでに超小型カメラを仕掛けていた。
ただ、さすがにここまでとは思わなかった。
私が朝あそこへ乗り込んだばかりだというのに、その夜にはもう、二人は何事もなかったかのように同じベッドに入っていたのだから。
画面の中で、裸のままの二人はぴたりと身体を寄せ合い、何度も唇を重ねながら、互いを求め合うように肌を這わせていた。
郁人は違和感など欠片も抱いていないのか、すっかり気を緩めた声で言った。
「じゃあ、お前ももう寝ろよ。愛してる」
少し前の私なら、きっとその一言だけで満たされていた。
けれど――今回ばかりは、嫌というほど思い知らされた。
もう、あの人の言葉を信じることはできない。
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