別宅に夫の愛人がいた第3話
この話は約1661字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
通話を切ったあと、画面の中では紗季が唇を尖らせ、不満そうに甘えた声を出していた。
「もう、ほんとにびっくりしたんだから。今日いきなりあいつが来て、心臓止まるかと思った。私たちのこと、ばれたのかと思っちゃった」
郁人はそんな彼女の額に軽くキスを落とし。
「ばかだな。俺がそんなヘマするわけないだろ。
ちょうど年末だしさ。怖い思いさせたお詫びに、オークションでも連れてってやろうか?」
紗季はぱっと顔を輝かせると郁人の首に抱きつき、そのまま胸元へと指先を這わせていった。
――その先は、さすがに見ていられなかった。
卓也の仕事は本当に早かった。
翌朝、目を覚ましたときには、もう調査結果が届いていた。
紗季は郁人のいとこでも何でもなかった。
ただ同じ地元だったというだけで、私と出会う前の郁人にとっては、ずっと忘れられない初恋の相手だったらしい。
郁人がまだ私と付き合っていた頃も、二人は何度も別れかけては、ずるずると関係を続けていたらしい。
ただ、その頃の郁人はまだこの街で地盤を築けていなかったせいか、二人の関係も中途半端なままだった。
それが結婚後、仕事が軌道に乗って金に余裕ができると、郁人の欲はますます膨らんでいった。
彼は私の持ち家を自分のもののように使い、そこへ紗季を住まわせた。
やがて二人は、私の知らないところで、まるで夫婦のようにそこで暮らすようになった。
卓也が集めてくれた利用明細に目を通すと、食事から服、家賃、日用品に至るまで、どれも贅沢なものばかりだった。
小さな出費まで合わせれば、総額は二億円近くになっていたらしい。
その情報を手がかりに、私は別アカウントで紗季のSNSをのぞいた。
そこにいたのは、まるで裕福な奥様気取りの紗季だった。
彼女が身につけているものの中には、私が誕生日に自分で買ったダイヤのネックレスもあれば、昔、両親から贈られたダイヤの指輪もあった。
証拠を見れば見るほど怒りが込み上げてきた。
あれほど郁人を信じていた自分が情けなくて、吐き気がするほどだった。
SNSの最新投稿には、母が遺してくれたあの家を紹介するルームツアー動画が上がっていた。
動画の中で紗季は、いかにも慣れた口ぶりでこう話していた。
【邸宅に住み慣れちゃうと、三百平米のリバービューでもちょっと手狭に感じちゃうのよね。夫が思い出があるからって残してるけど、正直、安く譲ってもいいかなって思ってるくらい】
するとコメント欄には、たちまち羨望の声が集まり始めた。
【えっ、こんな素敵なおうち、手放しちゃうんですか?いくらくらいで考えてるんですか?】
【え、気になる……もしかしてかなりお得だったりします?】
紗季は得意げに返していた。
【うーん、どうしようかな。値段はそこまでこだわってないかも】
するとコメント欄には、【ほんとに恵まれてますね】【優しくてお金もある旦那さんとか羨ましすぎます…!】といった声が次々と並び始めた。
それに対して紗季は、ますます調子づいたように返信していた。
【そうなの。彼がね、私は余計なことを考えずに、好きな服を着て、好きなものを身につけていればいいって。
お金のことは気にしなくていい、稼ぐのは俺の役目だからって。それに、もうすぐオークションにも連れて行ってくれるの】
私はすぐに別アカウントでコメントを書き込んだ。
【ねえ、その日のオークションって配信する予定ないの?一度でいいから、そういう世界を見てみたいな】
するとそのコメントはたちまちほかのフォロワーの目にも留まり、【見てみたい】【配信してほしい】といった声が次々に集まり始めた。
気づけば「いいね」は千件を超えていた。
しばらくして、紗季本人から返信がついた。
【わかった。見たいって声が多かったから、その日は配信するね。ちゃんと見に来てよ。見に来てくれた人向けに、ちょっとしたプレゼント企画も考えておくね】
それを見た瞬間、胸につかえていたものがほんの少しだけ軽くなった。
あとは、きっちり準備を整えるだけ。
せっかくここまで舞台を整えたのだ。
主役が揃わないまま、幕を開けるわけにはいかない。
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