別れの日に、花は咲いていた第3話
この話は約1569字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
邸宅を出て家に戻ったあと、クラウドが帰ってきたのは真夜中を過ぎてからだった。
半分眠ったままの私を、クラウドが抱き寄せた。見知らぬ香水の匂いが、かすかなバラの香りと混ざり合い、空気に漂う。
吐き気が込み上げ、腹の奥までもがズキズキと痛みはじめる。
たまらずお腹を押さえると、クラウドが心配そうに身を寄せてきて、手を伸ばした。
だが私は苛立ちのまま、その手を振り払った。
「あなたの匂い……すごく嫌」
クラウドは一瞬顔を曇らせ、自分の服に鼻を近づけると、不自然に笑った。
「バラの匂いだよ。どうしても記念日のことを考えてしまってね。今日もバラ園に寄ってきたんだ。今すぐシャワー浴びてくる」
私はクラウドの嘘を暴く気にもなれなかった。なぜなら、彼は今日、会社に行くと言っていたからだ。
シャワーを終え、ベッドに入ったクラウドはすぐに寝息を立てたが、間もなくスマホの通知音に起こされた。
「起こしちゃった?まだ仕事が残ってるんだ。アンジェリーナは先に寝てて」
私は背を向け、寝たふりをした。
しばらくして、クラウドが探るような声で言った。
「アンジェリーナ?」
私は返事をしなかった。クラウドは待ってましたとばかりに、そっと部屋を出ていった。
【こんな写真送って誘惑してるのか?明日はベッドから起き上がれなくしてやるぞ】
直後、マペルから私にもメッセージが届いた。
【あんたもう女としての魅力ゼロでしょ?クラウドは今日、午後いっぱい私を求めてたのよ。今夜もまた会うことになったから、新しい体位も試してみるつもり】
【あ、それとね。私とクラウドは一回で妊娠したのよ。あんたは冷たい試験管に頼っても妊娠できないなんて、惨めよね】
全身が凍りついたように冷たくなり、私はすぐにスクショを保存した。ベッドに戻って横になる。
過去八年間、クラウドと出会うのが遅すぎたと思ってきた。命は短すぎると悔やんできた。
しかし、残りの一週間が、今は耐えられないほど長く感じられた。
翌朝、部屋を出た私とちょうど入れ替わるように、クラウドが家へ戻ってきた。
「君の大好きなチーズケーキ買ってきたよ」
得意げに見せてくるテイクアウトの箱。
クラウドが過去に失敗して私を怒らせたとき、決まってこのチーズケーキでご機嫌を取ろうとした。
その度に私は許してしまっていた……ただ彼を愛していたから。
でも今日、この突然のケーキは何のため?
他の女と一晩中過ごしたことへの罪悪感だろうか?
私はフォークを手に取り、チーズケーキを口に運んだ。クラウドへの怒りで、自分を犠牲にする気なんてなかった。
私の様子に異変がないことを確認し、クラウドは安堵したようだった。
「ちょっと隣の部屋で仕事片づけてくる。ゆっくり食べてて」
スマホを開いた瞬間、マペルが新しい投稿をしていた。
【彼って本当に優しいの。私がチーズケーキ食べたいってぽろっと言ったら、すぐに買ってきてくれたの】
載せられていた写真のケーキは、まさに私の前にあるものと同じ店のものだった。
その投稿にすぐさまコメントがつく。
クラウド【分かってくれて嬉しい】
次の瞬間、彼の母親もコメントを残した。
【優しくしてもらえるのは当然よ。だってあなたのお腹には赤ちゃんがいるんだから。産めない誰かさんとは違うわ】
そのコメントは、クラウドも目に入るはずだ。
私は彼の顔をうかがったが、クラウドは穏やかに微笑んだまま、気にした様子すらなかった。
思わず鼻で笑い、私は彼の母の連絡先をブロックした。ずっとそうしたかったのだ。
朝食が済む前に、クラウドのスマホが鳴り響いた。母親からの電話だ。
受話口から、耳障りな声が突き刺さる。
「アンジェリーナはどうしたの!?私をブロックするなんて!」
クラウドは眉をひそめて言った。
「アンジェリーナ、母さんが君に子宝に恵まれる食べ物を送ろうとしてるのに、なんで連絡先をブロックした?」
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