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出生の秘密を知った日、私の命はもう尽きかけていた第2話

この話は約1774字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

「ちゃんときれいにするから」

母は鼻で笑うと、私の目の前で勢いよく寝室のドアを閉めた。

廊下にひとり残された私は、カーペットについた血を少しずつ拭き取った。

それから、窓もない狭い使用人部屋へ戻った。

硬いベッドに横になると、骨の奥の痛みがまた波のように押し寄せてきた。

3日前。

榎森総合医療センターの血液内科。

医師は検査結果を手に、気の毒そうな目で私を見た。

「重症の再生不良性貧血です。かなり厳しい状態です。

できるだけ早く造血幹細胞移植を検討する必要があります。血縁者がいれば、まずHLAを調べたいところですが、ご両親とは連絡が取れますか?」

薄い検査結果の紙を指先でつまんだまま、私は静かに首を横に振った。

「実の親はいません」

私は養子だ。

血のつながった家族なんて、どこにいるのかも分からない。

だから、治療を諦めた。

子どものころから飲食店のバイトや家庭教師をして貯めてきた140万円を、榎森市郊外の樹木葬霊園に墓所を取るための頭金に充てた。

残りは24万円。

あと2か月生きられれば、どうにか払いきれる。

そう思っていた。

けれど、ついさっき知ってしまった。

全部、嘘だった。

私にはちゃんと、血のつながった父と母がいた。

もしHLAが合えば、どちらかがドナーになってくれるかもしれない。

助かる可能性は、最初からすぐそばにあった。

でも、もう頼る気にはなれなかった。

翌朝。

体中の痛みをこらえて起き上がり、いつものようにキッチンで朝食の支度をした。

紗月は真新しい高級ブランドのワンピースを着て、お姫様みたいにダイニングテーブルについていた。

そのワンピースには見覚えがある。

半月ほど前、百貨店のショーウィンドウで、長いこと見つめていたものだ。

あのとき母は言った。

「高すぎるわ。うちの本当の娘でもないあなたが着るような服じゃないでしょう」

なのに、そのあとすぐ同じものを紗月に買っていた。

「お姉ちゃん、今日すごく顔色悪くない?」

紗月は目玉焼きを切りながら、何も知らないような顔で首をかしげた。

「昨日、ちゃんと眠れなかったの?この牛乳、飲む?もういらないから」

半分ほど残ったグラスを、こちらへ押してくる。

母はすぐにやってきて、グラスをつかむと、そのまま中身をシンクへ流した。

「紗月が親切にくれたからって、何でも受け取っていいと思ってるの?少しは自分の立場を考えなさい。

何の病気かも分からないのに、紗月にうつして今日のコンクールに響いたら、責任取れるの?」

シンクに流れていく白い牛乳を見ていると、胃がひっくり返りそうになった。

「もういい。ごちそうさま」

席を立ち、誰の顔も見なかった。

新聞を読んでいた父が顔を上げる。

「待て。紗月は今日コンクールだろ。荷物を持つためについて行くんじゃなかったのか。どこへ行くつもりだ?」

振り返る。

熱のせいで喉がひりつき、声は少しかすれていた。

「ちょっと用事があるの。青嶺移植医療支援センターに行ってくる」

母が鼻で笑った。

「移植医療支援センター?何しに行くの?

寄付でもして殊勝なところを見せれば、私たちが感心するとでも思ってるの?そういう見せかけだけのこと、やめなさい」

説明する気にもなれず、そのまま玄関を出た。

外に出ると、朝の光がやけにまぶしかった。

道路脇に立ち、青嶺移植医療支援センターへ電話をかける。

「すみません。ひとつ確認したいことがあるんですが。

重症の再生不良性貧血でも、死後に角膜を提供することはできますか?」

「誰に電話してる?」

すぐそばから声がして、顔を上げた。

黒塗りの高級セダンが、ゆっくりと路肩に止まっている。

窓が下がり、薄暗い車内から父の冷たい顔がのぞいた。

私を見るなり、眉間のしわが深くなる。

「乗れ」

電話を切り、ドアを開けて車に乗った。

車内は冷房が強く効いていて、思わず体が震えた。

父は車を出さず、助手席前のグローブボックスから茶封筒を取り出すと、私の膝へ放った。封筒が脚にぶつかった。

「自分で見ろ。何だ、これは」

封は閉じられていなかった。

中から何枚かの検査結果と、血縁照合登録票が滑り落ちた。

病気が分かったあと、ほんの少しでも生きられる可能性があるならと思い、家族には内緒で民間のDNA血縁照合サービスに登録し、検体を提出していた。

この家の本当の子じゃないと言われてきたから、どこかにいる実の親を見つけられるかもしれないと思ったのだ。

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