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凪いだ夜に、君はもういない第2話

この話は約2006字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

十年前、真尋はシステムによってこの世界に送り込まれた。

当時、慧は詩織に振られたばかりで重度のうつ病を患い、日に日に痩せ衰えていた。

彼女の任務は、何度も自殺未遂を繰り返すターゲットを救い、彼をまっとうな人生の軌道に戻すこと。

慧が健康を取り戻し、二度と死を望まなくなれば、彼女は元の世界に帰還できるはずだった。

彼女は彼に寄り添い、共に語らい、散歩し、あらゆる辛い日夜を乗り越える支えとなった。

そして、いつしか彼女は彼に心を奪われていた。

だから、システムが任務完了を告げた日、彼女は残ることを選んだ。

報酬として得た全ポイントを、この世界で生き続ける資格と引き換えたのだ。

しかし今になって、それがすべて自分の独りよがりだったと悟った。

真尋は一睡もできず、夜が明ける頃には赤く腫れた目で忙しく動き回っていた。

この数年間で父子から贈られたものをすべて整理し、大きな段ボール三箱に詰め込んだ。

時間通りに宅配業者が訪れ、箱を運び出し始める。

その時、呼び鈴が鳴った。

「何を片付けてるんだ?」

声がしたかと思うと、真尋ははっと振り返った。

入口には慧と湊、そして……詩織が立っていた。

慧はスーツケースを二つ引きながら、不機嫌そうに眉をひそめる。

「手伝え。車にまだ荷物がある。詩織がしばらくここに住むことになった」

真尋の心は凍りついた。

慧が所有するもう一軒のマンションについて尋ねようとしたが、言葉は喉の奥で詰まってしまった。

喉に広がる苦い味さえ感じられる。

「ママ、何を片付けてるの?」

湊が詩織の手を振りほどき、興味津々で段ボールを覗き込んだ。

慧の視線も段ボールに注がれる。

彼は一目で、真尋に贈った限定モデルの腕時計だと気づき、その声は瞬時に冷え切ったものになった。

「これ、全部捨てるのか?一体何を考えてるんだ!」

真尋はかろうじて微笑んだ。

「物が多いから。新しく住む人のために、場所を空けないとね」

か弱い声が、絶妙なタイミングで響いた。

「真尋さん、私が住むのがご迷惑なのかしら。誤解しないで、本当に一時的なものだから……」

詩織は潤んだ瞳で真尋を見つめる。

まるで、彼女が頷かなければ非情な人間だと言わんばかりに。

湊もそれに便乗した。

「ママってケチだなあ!家はこんなに広いのに、片付けなんて必要ないよ。十人増えたって平気だよ!」

真尋は結局何も言わず、身を翻して二階へと上がった。

部屋に入るとすぐに慧が追いかけてきて、彼女をドアの前に追い詰めた。

「真尋、しばらく詩織を刺激するな。彼女はうつ病なんだ。わかるな?」

真尋は立ち止まり、深く息を吸って振り返った。

「安心して。彼女を刺激するなんて、そんなに暇じゃないから」

慧は一瞬戸惑った表情を見せ、すぐに階下へ戻っていった。

ウェディングフォトが飾られていた場所が空白になっていることにも、彼は気づかなかった。

彼の目には詩織しか映っていない。

昔も、今も、これからも。

夜、真尋が水を飲みに階下へ降りた。

客間の前を通りかかると、中から湊の明るい笑い声が聞こえてきた。

「詩織おばちゃん、大好き!ずっとここにいてくれたら、毎日おいしいものが食べられるのに!」

真尋の足が止まった。

彼女はドアまで歩み寄り、礼儀として二度ノックした。

笑い声がぴたりと止む。

さらには、湊の慌てたような声まで聞こえてきた。

「詩織おばちゃん、ケーキを隠して!ママに見つからないように!」

真尋の心に怒りがこみ上げる。

さらに二度、ドアを叩いた。

「湊、中にいるのはわかってるのよ。開けなさい」

ドアが開いた。

詩織が入口に立ち、笑顔を浮かべている。

「真尋さん、まだ寝てないのか?」

真尋は笑顔を装う気力さえなかった。

彼女の視線は詩織の顔を通り過ぎ、ケーキを隠そうとしている湊に向けられた。

「あなたは卵白アレルギーでしょう。医者からケーキは止められているはずよ。忘れたの、湊」

湊はわっと泣き出した。

「ほんのちょっとしか食べてないもん!どうして他の子は食べられるのに、僕だけダメなの?ママは支配欲が強すぎるよ!パパも僕もコントロールしようとしてる!大嫌いだ!」

真尋の心はナイフで抉られるように痛んだ。

詩織が湊のそばにしゃがみ込み、その髪を優しく撫でるのが見えた。

「湊くん、ママにそんな言い方しちゃダメよ。ママはあなたのことをとても愛しているんだから」

湊は詩織の胸に顔をうずめ、泣きじゃくりながら言った。

「でも、パパもママのこと、そう言ってた」

かつて心から愛した二人が、今、最も鋭い刃で彼女の心を一片一片切り刻んでいく。

真尋の顔は紙のように白くなり、胸に大きな石が乗ったように呼吸さえ苦しくなった。

その時、部屋のドアがノックされた。

慧がドアを開けて入ってきて、一目で詩織の腕の中で泣いている湊の姿を捉えた。

彼の眉が険しく寄せられ、何も問いただすことなく、そばに立つ真尋を頭ごなしに非難した。

「真尋、こんな夜更けに息子を寝かせもせず、ここで何を騒いでいる?」

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