和紙文冷めたミルクティーで、彼を捨てる · 第2話設定≡

冷めたミルクティーで、彼を捨てる第2話

この話は約1997字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

横から男友達の一人が茶化すように口を挟む。

「そんなに余裕ぶってていいのかよ?紬希ちゃんって優秀だし、言い寄ってくる先輩だっているだろ。

万が一、うちよりずっとレベルの高い大学院にでも受かってどっか行っちゃったらどうすんだよ」

陸斗は鼻で笑い、見下すような口調で吐き捨てた。

「そうなったら清々してちょうどいいよ。一度高い壁にぶち当たって、現実を知ればいい。身の程知らずにも程がある」

そして、彼はまたいつものように不満を漏らし始めた。

「だいたい、あいつはいちいち細かいことを気にしすぎなんだよ。美紅のことくらいで、いつまでもネチネチと」

カメラの向きが少しだけ動き、美紅の顔がフレームに収まった。

彼女はわざとらしく唇を尖らせ、いかにも甘ったるい声で同調する。

「そうそう!陸斗くんたら、彼女ができた途端に私のこと全然構ってくれなくなるんだもん。昔から家族ぐるみのお付き合いなのに、薄情すぎー!」

その大げさな態度に、周囲からドッと笑いが起きる。

誰かが私と美紅を比べ、「紬希は真面目すぎる堅物で、美紅は愛嬌たっぷりの世渡り上手」などと冷やかした。

言わんとしていることはわかる。私は融通が利かない、面白みのない女だと言いたいのだ。

陸斗は苦笑いしながら肩をすくめた。

「はいはい。紬希は彼女で、美紅は妹みたいなもんだ。俺からすりゃ、どっちも大事なんだよ。ただ、紬希にはもう少し物分かりよく、大人になってほしいだけさ」

すると美紅が、すかさずあざとい声を張り上げる。

「わかってるってばー。これからはなるべく陸斗くんに迷惑かけないようにするね。また陸斗くんの『お姫様』の機嫌を損ねたら大変だもん。あーあ、私ってばほんと罪な女」

動画はそこで途切れていた。

私はスマートフォンを握りしめたまま、机の前でしばらく身動きすらできなかった。

ぐちゃぐちゃに絡まり合っていた感情は、やがてすーっと熱を失い――あとに残ったのは、芯まで凍てつくような、恐ろしいほどの冷静さだった。

そうか。彼の目に映る私は、そういう存在だったのだ。

私の募らせた好意も、これまでの献身も、そして別れを告げて去ったことすらも、彼にとっては取るに足らない茶番劇でしかなかった。

彼は安全な高みに立ったまま、私が惨めに泣きついて戻ってくるのを待っている。その上、私のことを「物分かりが悪い」と見下してさえいるのだ。

少し沈黙した後、私は父に電話をかけた。

電話が繋がると、父は開口一番、心配そうな声を投げかけてきた。

「紬希、最近どうだ?こないだ言っていた、こっちの大学院への進学を取りやめて、海外に留学するっていう話……あれは本気なのか?それに、陸斗くんとは……」

「お父さん」

私は努めて平坦な声で遮った。

「陸斗とは別れたの。……うん、本気だよ」

電話の向こうで、ふっと息を呑む気配がした。

構わず、私は続ける。

「海外のトップ大学院、もう合格したんだ。外の世界を見てみたい。もっと良い環境で、自分のためにしっかり学びたいの。当てつけなんかじゃない。私の、私のための決断だよ」

しばしの沈黙の後、父から返ってきたのは、どこか安堵したような、温かく力強い声だった。

「……そうか。お前が自分でよく考えて決めたことなら、お父さんは全力で応援するよ。手続きや準備で必要なことがあったら、いつでも遠慮なく頼りなさい」

通話を終えた後、私はスマートフォンのデリバリーアプリを開き、自分宛てにミルクティーを注文した。

木枯らしの吹くこんな寒い日には、やっぱり体の芯から温まるホットミルクティーが一番だ。

……

数日後、私は身辺整理を始めた。

陸斗から貰ったものはすべて、段ボール箱に放り込んでいく。特に、大学院の内部進学対策に関連するものは念入りに。

彼が丁寧にまとめてくれたノート、押し付けられた参考書、それに高価で意味ありげなプレゼントの数々――「良い論文が書けるように」と贈られた限定モデルの万年筆や、電子書籍リーダーなども全部引っ張り出した。

これらはかつて、甘い思い出や共に描いた未来への期待が詰まっていたはずのものだ。

でも今はもう、ただの皮肉なガラクタにしか見えない。

ガムテープで封をした段ボール箱はずっしりと重く、まるで二度と戻らない私の3年間のようだった。

この箱を抱えて下へ行き、どこかのタイミングで彼に突き返して、一切の未練を断ち切ろう。

そう思って女子寮のエントランスを出たところで――運悪く、美紅を送り届けにきたらしい陸斗と鉢合わせてしまった。

美紅はごく自然な動作で、陸斗が着ているコートのポケットに手を突っ込み、キャンディを一つ取り出して自分の口に放り込んだ。

その一連の動きは、これまで何百回と繰り返してきたかのように滑らかで、ひどく親しげだ。

陸斗もまた、それを咎めることなく当たり前のように受け入れている。

私と、私が抱える不自然なほど大きな段ボール箱に気づいた二人は、ピタリと足を止めた。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)