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冷めたミルクティーで、彼を捨てる第1話

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「別れよう」

自分の声とは思えないほど、それは酷く冷たく、凪いでいた。

月のモノが重く、下腹部を締め付けるような痛みに耐えていた私のため、恋人の結城陸斗(ゆうき りくと)は「温かいものでも買ってくるよ」と部屋を出た。……はずだった。

しかし、彼が持ち帰ってきたミルクティーは、すっかり冷めきっていたのだ。

理由を問う私、須永紬希(すなが つむぎ)に対し、陸斗は悪びれもせずに言い放つ。

「途中で美紅に会ってさ。あいつも温かいのが飲みたいって言うから譲ったんだ。お前はぬるくても平気だろ?」

白川美紅(しらかわ みく)――彼が昔から甘やかしている女友達。

窓の外で十一月の木枯らしが吹く中、私ははっきりと悟ってしまった。

この3年間、陸斗が私と美紅を天秤にかけ、私を優先してくれたことなどただの一度もなかったのだと。

その事実を突きつけられた瞬間、私の中で張り詰めていた糸が、ぷつんと切れた。

「別れよう」

再びそう告げると、陸斗は呆れたように鼻で笑った。

「はいはい、またそれか。今度はどのSNSをブロックする気だよ?どうせすぐ機嫌を直すくせに」

彼は、私がただの痴話喧嘩で拗ねているだけだと思っている。

でも、彼は知らない。

別れを切り出すより前に、私が海の向こうにある最高学府への特別留学枠を勝ち取っていることを。

ええ、ブロックなんて面倒なことはもうしない。

今度こそ、私はあなたから完全に離れるのだから。

* * *

「たかがミルクティー一杯で?紬希、お前大げさすぎないか?

今回はどの連絡先をブロックする気だよ?メッセージアプリか?それとも電話?

わかったよ、待っててやる。どうせ二、三日もすれば、自分から泣きついて解除してくるんだからさ」

陸斗の声には、あからさまなからかいの色が滲んでいた。

彼はわざとらしく振り返ると、美紅や、ちょうど向こうから歩いてきた友人たちに向かって、やれやれと肩をすくめてみせた。

その唇の動きは、はっきりと「いつもの癇癪だよ」と語っている。

一方の美紅は、両手で湯気の立つホットのあずきミルクティーを包み込み、ちびちびと口に運んでいる。

彼女の視線は私と陸斗の間を面白そうに行き来しており、その瞳の奥には隠しきれない優越感が浮かんでいた。

私は、ただ静かに彼の顔を見つめていた。

この3年間、ずっと好きだった人。必死に背中を追いかけ、彼を中心にして自分の未来のすべてを思い描いていたはずの男を。

生理特有の鉛のように重い下腹部の痛みと、胸の奥に渦巻く息苦しさ。

それらが入り混じり、やがてスッと引いていくと、後には氷のように冷たく澄み切った感情だけが残った。

もう、彼らの誰の顔を見る気にもなれなかった。

私は黙って背を向け、その場を歩き出す。

お腹の痛みは相変わらずひどいままだったけれど、不思議なことに足取りはいつもよりずっと軽かった。

たかがミルクティー一杯で?

陸斗は一生気づかないだろう。その一杯のミルクティーが、これまでに積み重なった私の数え切れないほどの失望と、わずかばかりの期待を完全に押し潰す「最後の一撃」だったということに。

思えば、彼を好きでいた期間は3年に及ぶ。

出会いは大学の入学式の日だった。重いスーツケースを引きずっていた私に、早く着いていた彼が「手伝うよ」と声をかけてくれたあの瞬間から。

あの時の屈託のない笑顔や、真っ直ぐな眼差し。私はすっかり惹き込まれ、彼こそが同じ道を歩んでいける運命の相手なのだと信じ込んでしまったのだ。

彼の歩幅に合わせようと、必死に努力した。同じ講義を履修し、同じサークルに入り、彼と釣り合う優秀な人間になりたくて、寝る間も惜しんで勉強に打ち込んだ。

目標はただ一つ。彼と一緒にこの大学の大学院へ内部進学すること。それが私たちの共有する未来なのだと信じて疑わなかったから。

でも今はもう、そんな未来はいらない。

なぜなら、私はすでに海の向こうにある世界最高峰の大学院から、特別留学枠の合格通知をもらっていたからだ。

それは以前、彼が「難易度が高すぎる。非現実的だ」と鼻で笑って切り捨てた憧れの学府。

度重なる彼への失望は、私の抱いていた愛情をとうの昔にすり減らしていた。

だからこそ、別れを切り出すよりずっと前に、私は留学への準備を密かに進めていたのだ。

ただ、3年間という月日が足枷となり、完全に縁を切るという最後の一歩をどうしても踏み出せずにいた。

けれど、もう迷う必要はない。

彼と一緒に大学院を目指すのをやめるか?――イエス。

彼をすっぱりと諦めるか?――もちろん、イエスだ。

私の心はもう、彼のために波立つことはない。

私の未来はもう、彼を中心に回ることはないのだ。

……

別れを告げた後、私はすぐさま陸斗の連絡先をすべてブロックし、思いつく限りのSNSの繋がりも容赦なく削除した。

その手つきに迷いは一切なく、むしろある種の残酷なまでの快感すら覚えていた。

そうして、一週間の平穏な日々が訪れた。

私はこれでようやく心静かに過ごせると思っていた。

だが、そんな平和な時間は呆気なく破られた。

ある夜、陸斗とも面識がある共通の友人から、少し躊躇うような前置きと共に一つの動画ファイルが送られてきたのだ。

【紬希、これ見て……あんまり落ち込まないでね】

動画の背景は、大学の自習室だった。画面には、陸斗と数人の男友達、そして美紅が机を囲んで談笑する姿が映っている。

どうやら、誰かが画面の端からこっそり隠し撮りした映像らしい。

動画の中の陸斗は、いつものように自信たっぷりに笑い飛ばしていた。

「……平気だって。あいつが俺を無視できるのは数日が限界だろ。どうせそのうち耐えきれなくなって、自分から戻ってくるさ。今までもずっとそうだったしな」

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