冷たい家族の中で第2話
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理由は――何だったんだろう。
お母さんの代わりに思い出してみた。たぶん……一枚の紙だった。
そう、たった一枚の作文用紙。
先生が出した宿題は、「わたしのお母さん」というテーマで作文を書くっていう、すごくシンプルなもの。
なのに、お兄ちゃん――蓮(れん)くんは、なかなか取りかかろうとせずに、先生からも軽く注意されてた。
でも私は知ってた。彼の原稿用紙には、すでに細かい文字がぎっしり書かれてたことを。
何気なくのぞきこんだ私は、そこで目を疑うような言葉を見つけた。
【ぼくのママは、価値のない花瓶。家でダラダラしてるだけの役立たず。突然死んでくれたらいいのに。そしたら朝倉おばさんをママって呼べるのに】
……そのあとには、朝倉おばさんのことをベタ褒めする文章が延々と続いてた。頭が良くて、自立してて、仕事もできて、自分に優しくしてくれる――今のママなんかより何百倍も素敵だって。
私は思わず声を尖らせて、「なんでそんなこと書くの?」って問いただした。
でも彼は私を睨んでこう言った。
「紬(つむぎ)、余計なことに首突っ込むなよ」
結局、蓮くんはその作文を提出しなかった。ただ適当に畳んで、ぐちゃっと鞄に押し込んだだけ。
お母さんがそれを読んだかどうか、私は確信が持てない。
でもそれ以来、お母さんは私たちの鞄を一切触らなくなった。
どんなに使用人がいても、いつも子どもの世話を全部自分でしていたお母さんが――それをやめた。
あの紙を、わざと鞄に入れたのか、うっかりだったのか。それも私にはわからなかった。
でもあの時、まだ私は気づけてなかった。
お母さんが、どれだけ苦しい場所に立っていたのかってことを。
ただひとつだけ、はっきりしてたのは――お母さんが、だんだん無口になっていって、目の奥にぽっかり空いた悲しみが、まるで底なしの闇みたいに広がっていたこと。
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