光を恐れず、影に怯まず第3話
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結局、私は誰にも頼らずに荷物を運ぶことにした。
大きな袋を三つ。三回に分けて、一つずつ階段を下ろし、また一つずつ校門前の宅配便受付まで運んだ。
指には持ち手が食い込み、紫色の痣ができていた。
海凪行きの送り状を書き終えると、重くなった腕を軽く振り、そのまま今夜の卒業記念の打ち上げが開かれるカラオケ店へ向かった。
個室に入ると、秀平はソファの真ん中に座っていた。円香がぴったりと隣に寄り添っている。みかんを一房むき、自然な仕草で秀平の口元へ差し出すと、秀平は少し顔を傾け、そのまま口に含んだ。
口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
私はソファの端に腰を下ろした。
荷物の持ち手で擦れた手のひらの痣はまだ痛み、生理中の下腹部にも鈍い痛みがあった。
「澪菜、遅刻したんだから罰ゲームだぞ」
幹事役の学生が私に気づき、冷えたビールを一本、目の前に置いて言った。「ルール分かってるよな?一気飲み」
私は慌てて首を振った。「飲めないの」
個室の空気が一瞬静まり返った。
秀平は眉をひそめ、ビールへ手を伸ばした。「こいつ酒飲めないから。俺が代わりに飲む」
一瞬だけ、胸の奥が温かくなった。
一年生の歓迎会でも、秀平は同じように私の前へ立ってくれた。「俺の澪菜は、誰にも気を遣う必要なんてない」
あの言葉を、今でも覚えている。
すると円香が秀平の手首をそっと押さえて言った。「秀平、それはさすがにひいきじゃない?」
そう言って私のほうを振り向き、明るく笑った。「澪菜、今日は卒業記念の打ち上げなんだから、みんな同じルールでしょ?一人だけ特別扱いしたら白けちゃうよ」
竹林洸太(たけばやし こうた)も、すぐに囃し立てた。
「そうだぞ。秀平、なんでそんなに澪菜をかばうんだよ。知らない奴が見たら、付き合ってるって思うぞ」
秀平は円香をちらりと見てから、周りを見渡した。
皆から向けられる視線に、彼はゆっくりと手を引っ込めた。
「まあ、そうだな。遊ぶならルールは守らないと。
澪菜、少しくらい飲んでも死なないって。みんなの雰囲気を壊すなよ」
胃の中がひっくり返るようだった。
私はバッグからアレルギーの薬を取り出した。
ビールを一口飲んでは薬を一錠。
それを繰り返し、気づけば瓶は空になっていた。
秀平は眉をひそめた。
一瞬、何か言いたげに唇が動いた気がした。
そのとき円香が水を差し出して言った。「秀平、水飲みなよ。お酒たくさん飲んだでしょ」
秀平は視線をそらすと、そのまま水を受け取った。
その後、個室では、「真実か挑戦か」というゲームが始まった。
円香の番になると、彼女は「真実」を選んだ。
そして、円香と仲のいい女子が大きな声で尋ねた。「大学四年間で、一番心残りだったことって何?」
円香は下唇を軽く噛み、秀平をちらりと見てから口を開いた。
「一番心残りだったことかぁ……たぶん、いいタイミングで、ふさわしい人に出会えなかったことかな」
その途端、個室はさらに大きな歓声に包まれた。
「えっ、もう出会ってるじゃん!秀平なんて円香にベタ惚れだし!」
「ほんと、美男美女でお似合い!」
そのとき、誰かがぽつりと言った。「じゃあ、澪菜は?」
その一言をきっかけに、あちこちから声が上がり始めた。「略奪女ってことじゃない?」
「ほら、あんな顔してる。円香に秀平を取られて嫉妬してるんだよ」
「円香はあんなに澪菜のこと大事にしてるのにね。親友扱いしてるのに、澪菜はいつも秀平にベタベタしてさ」
円香は口元を押さえて笑うと、私を横目でちらりと見て言った。
「もう、みんな。そんなこと言わないで。澪菜、本当に顔色悪くなっちゃってるよ」
一言一言が、針のように耳に突き刺さった。
私は秀平を見つめた。
三年間隠し続けた恋。秀平はずっと、「お前を守るためだ」と言って、公表することを許さなかった。
今、私はみんなに踏みつけられている。一言でいいから、否定してほしかった。
けれど秀平は視線をそらし、気だるそうに言った。「友達同士の冗談だろ」
私はズボンの縫い目を握り締めていた指を、ゆっくりと離した。
すると円香が勢いよく立ち上がって言った。「だめだめ。真実なんてつまらない!やっぱり挑戦にする!」
幹事役の学生が口笛を吹いて言った。「じゃあ、この場にいる異性一人と二か月だけ恋人になること!」
円香は秀平の前まで歩いていき、少しかがんで微笑んだ。「秀平、受けて立てる?」
秀平は円香をまっすぐ見つめ返した。「何が怖いんだよ」
その一言で、個室は歓声に包まれた。
「キス!キス!」
円香は頬を赤く染めながら秀平に近づいていく。
秀平は避けなかった。彼は立ち上がると、そのまま円香の腰を抱き寄せた。
照明が交錯する中、二人はそのまま唇を重ねた。
私はその光景をじっと見つめていた。さっきまであれほど痛かったはずなのに、不思議と下腹部の痛みをまったく感じなくなっていた。
私は立ち上がり、静かに個室のドアを開けた。
背後から、同級生たちがひそひそと話す声が聞こえてきた。
「なんであんなに急いで出ていったの?本当に秀平のことが好きだったんじゃない?嫉妬したとか」
「澪菜が?秀平があいつを好きになるわけないだろ」
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