光を恐れず、影に怯まず第1話
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卒業アルバムの集合写真を撮る日。
私、白石澪菜(しらいし みおな)は、彼氏である橘秀平(たちばな しゅうへい)の指にそっと自分の指を絡めようとした。
すると彼は私を軽く突き放し、冷たく言った。「お前は一番後ろに立ってろ。
一番かわいい子が真ん中にいたほうが写真映えするだろ。お前がそこにいたら邪魔になる。円香、代わりに来い」
顔から血の気が引いた私に、親友の相沢円香(あいざわ まどか)は笑いながら言った。
「澪菜、秀平も澪菜のためを思って言ってるんだよ。
澪菜は気が弱いから、真ん中に立っても落ち着かないでしょ。一番後ろのほうが澪菜らしいよ」
クラスメイトたちはそれぞれ位置を決め終え、カメラマンは待ちきれない様子で撮影を急かしていた。
私は何も言わず、一番後ろへ下がった。
譲ることに慣れすぎて、悔しささえも声にならなかった。
撮影が終わると、クラスの代表がグループチャットに写真を送ってきた。
写真の中の私は、前に立つ背の高い男子生徒に隠れ、顔すら写っていなかった。
円香はさっきまで私が立っていた場所で秀平と指を絡め合っている。
秀平はわずかに顔を傾け、優しいまなざしで円香だけを見つめている。
秀平の視線が私に三秒以上向けられたことなど、今まで一度もなかった。
三年間、私たちは周囲に隠れて付き合ってきた。
秀平はいつもこう言っていた。「毎日お前のことばかり見てたら周りにバレるだろ。それに、お前なんか見て何になる?」
私はペアリングを買い、彼に関係を公表したいと伝えた。
けれど秀平は指輪を引き出しに放り込み、こう言った。「お前は気が弱い。公表したら周りにあれこれ言われて耐えられないだろ。俺はお前を守ってるんだよ」
翌日、その指輪は円香の指にはめられていた。
少し離れた場所で、二人は寄り添いながら何枚も写真を撮っている。
陽の光を受けて輝くおそろいの指輪が目に入り、目の奥が熱くなった。
公表しないなら、それでもいい。これから先、もう公表する必要はない。
* * *
専用に設定していた通知音が二度鳴った。
円香がSNSを更新したらしい。
開いてみると、九枚の写真が投稿されていた。添えられていたのは、「卒業おめでとう。私たちのツーショット写真も、もう百三十二枚になってたね」という言葉だった。
秀平が円香の卒業式用の服の襟元を整えている姿。
少し身をかがめ、円香の話に耳を傾ける姿。
円香の額を指先で軽く弾き、笑みを浮かべる姿。
私は改めて、自分のスマホのアルバムを開いた。
私と秀平は十四年来の幼なじみで、三年間、周囲に隠れて付き合っていた。それなのに、私たちにはまともなツーショット写真が一枚もない。
その事実に、喉の奥がきゅっと詰まった。
鉄棒にもたれながら水を飲む秀平の横で、円香はハンカチを手に、秀平の顎に浮かんだ汗を拭っている。
私は二人から少し離れたところで足を止めた。
秀平はゆっくりと顔を上げ、私を一瞥すると、声をかけてきた。「どうした?なんか元気ないな」
「……一緒に写真、撮ろう」
せめて、この十四年間を締めくくる記念にしたかった。
しかし、秀平は鼻で笑った。「仲がいいほど写真は少ないもんなんだよ。そのくらい分かんない?」
円香も笑って言った。「そうだよ、澪菜。秀平の言うとおり。本当に仲がいいなら、写真で証明する必要なんてないよ」
秀平はいつものように髪をかき上げた。その指にはめられた指輪が、また眩く光っている。
「それに、お前ってカメラ向けられるとすぐ逃げるだろ。ガチガチに固まるし。
撮ったって無駄だ」
私の顔色が悪いことに気づいたのか、円香は私の肩を抱き寄せ、場を取り繕うように笑った。
「澪菜、考えすぎだよ。秀平も澪菜のこと心配してるだけ。写真映りが悪かったら、澪菜が落ち込むんじゃないかって」
私はゆっくりとうつむき、スマホの画面を消した。
「……分かった」
もう、撮らない。
この十四年間も、思い出として残す必要はない。
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