兆円の遺産とマッチ三本、私はマッチを選んだ第3話
この話は約3572字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
その時まで何ともなかった両親の足先が、真っ黒に変色していた。
両親は足を押さえ、喉を押し殺したようなうめき声を漏らしている。
私は一瞬で頭が真っ白になり、必死で119に電話した。
救急隊が駆けつけた時には、黒い部分は足の指からみるみる下半身全体へと広がっていた!
医師は重苦しい表情で宣告した。
「症状の進行が早すぎます。直ちに切断手術の準備をしなければ」
私は目の前が真っ暗になり、ほとんど気を失いそうだった。
二度目に願った言葉を思い出し、自分を殴り殺したいほどに悔しかった。
やっとの思いでかき集めたお金は、すべて瞬く間に手術費に消えた。
「先生、父と母が……どうしてこんなことに……」
泣き崩れる私を見て、医師も首を振り、深いため息をついた。
「具体的な原因は……まだ分かりません。こんな症例、私だけでなく、私の先生でさえ、これまで見たことがありません」
私は声を上げて泣き続け、ほとんど気を失っていた。
翌日、取り立てが、病院にまで押しかけてきた。
「クソッ!お前らを探し回ったぞ!病院に逃げ込んだからって、それで終わりだと思うな!今日こそ、お前らの手を切り落としてやるからな!」
私はドサリと取り立て屋の前にひざまずいた。
取り立て屋はうっとうしそうに、私を蹴飛ばした。
しかし、彼らが病室に入り、両親の無残な姿を目にした瞬間、全員が凍りついたように立ち止まった。
それまでの横柄な態度は、一瞬で憐れみの色に塗り替えられていた。
「これは……もういい。金がある時でいいから、返せ……」
立ち去る前に、彼らは私に二千円札を投げつけ、何か食べるものを買えと言った。
私はそのお金をポケットにしまいながら、ふと、三本目のマッチに触れた。
一度目、私は良いことを願ったのに、良いことが悪いことになってしまった。
二度目、逆の願いをかけたのは、悪いことを良いことに変えたかったからなのに、悪いことがそのまま現実になってしまった!
――これは願いを叶えるマッチなんかじゃない。パンドラの箱を開ける鍵だ。
でも、願わなければ、もうこの先に待っているのは絶望だけだ。
三本目のマッチは、私と両親の運命を逆転させる、最後のチャンス。
……でも、三つ目の願い、私は一体どう願えばいいの?
頭の中は混乱し、思考がまとまらない。
まずは両親の世話をしなければ。私はひとまず、マッチのことを考えないようにした。
突然の切断手術で、両親は激しい幻肢痛に苛まれ、気分も沈みがちだった。
それでも、眠れぬ夜に痛みにうなされながら、両親は私を慰めようとしてくれた。
「真由美、お父さんとお母さんは大丈夫だよ……そんなに痛くないから」
「そんなに悲しまないで。きっとこれも、天が与えた試練なんだ。乗り越えられれば、きっと明るい未来が待ってる!」
私は涙をこらえ、必死で笑顔を作り、気丈に振る舞った。
両親に栄養をつけさせたい。私は建設現場の雑用仕事を始めた。
ようやく稼いだ数千円で、両親に大好きだった牛肉の煮込みを買った。
病院へ向かう道すがら、両親が少しでも喜んでくれる顔を想像し、胸がほんのり温かくなった。
しかし、病室のドアの前で、母の手にしたコップが、私の頭めがけて飛んできた。
「出ていけ!出ていきなさい!」
私は呆然と立ち尽くした。
振り返ると、何日も姿を見せなかった妹が、両親のベッドの間に立っていた。
彼女は得意げにスマホを揺らし、振り向いて両親をぎゅっと抱きしめた。
「お父さん、お母さん、私が遊び歩いてるだけだと思ってたでしょう?実はずっと……お姉さんを監視してたんだ。
前からお姉さんがおかしいって気づいてて、ドローンでこっそりこの動画を撮影したの。
絶対に本当よ!お姉さんは、優しそうな顔して、実は心が真っ黒なんだから!」
動画の中の私は、一本のマッチを握りしめ、熱心に願いをかけていた。
声はかすれていたが、言葉ははっきりと聞こえた。
「お願い……お父さんとお母さんが体を壊し、一生貧乏で苦しみますように!」
父の目に、怒りと絶望の炎がメラメラと燃え上がった。
「道理で……道理でここまで散々な目に遭うわけだ!お前が……お前がずっと俺たちを呪ってたんだな!」
私は慌てて、真実をすべて打ち明けようとした。
「お父さん、お母さん、聞いてください!お願い!
お爺さんがくれたマッチには、本当に願いを叶える力があって……!
一度目に裕福になるよう願ったら、逆に破産しちゃったから……二度目は、だから逆のことを願ったんです……!」
両親の目に、ほんの一瞬、迷いのようなものが走った。
しかし妹がさっと近づき、私の頬を思い切り平手打ちした。
「じゃあ、お爺さんがくれたマッチって、どう願っても災いしか招かないってこと?
でたらめもいいとこよ!血のつながったお爺さんが、そんな呪いの道具を残すわけないでしょう!?」
両親もその言葉に納得したらしく、私を見る目つきは再び氷のように冷たくなった。
「今日から……亜由美だけが、私たちの本当の娘だ。あんたのような厄介者は……どこへでも行ってしまえ!」
私は完全に打ちのめされた。胸が張り裂けそうだった。
――いったい……なぜ、こんなことに?
妹が私のわずかな持ち物をすべて廊下に放り出し、私は隙を見て彼女に詰め寄った。
「全部……あなたの仕業でしょ?もう兆円の遺産を手に入れたのに……なぜ、私からお父さんとお母さんまで奪おうとするの?」
妹は涼しい顔で、一瞥くれ、白い目をむいた。
「別に。ただ単に、あんたのことが気に入らないから!」
バタンッ。
ドアが私の鼻先で閉められた。
室内からは、三人の楽しげな、くすくすという笑い声が漏れてくる。
病院の廊下を行き交う人々の視線の中、私は戸口に立ち尽くし、まるで負け犬のようだった。
前世、妹は両親を心底憎んでいた。
今世、彼女が自ら両親にすり寄るのは、きっと何か魂胆があるに違いない。
私は一刻も早く真実を見抜かなければ。さもなければ、前世の悲劇が、また繰り返されてしまう。
真っ先に疑ったのは、妹が私のマッチをすり替えたことだった。
願いを叶えるはずのマッチが、災いを招く呪物に変えられたのだ。
私は残ったわずかな持ち物をすべて売り払い、さらに借金を重ねて、私立探偵を雇った。
しかし、探偵が持ち帰った調査結果は、私を失望のどん底に突き落とした。
あの三本のマッチは、確かに祖父から直接私に手渡されたものであり、妹が触ったりすり替えたりした形跡は一切ない、という。
「もっと……もっと調べてください!何か見落としてるはずです!」
探偵はきっぱりと首を振った。
「借金してまで私を呼んだのは、たった三本のマッチを調べてほしかったから?
お嬢さん、頭がおかしいんじゃないのか?こんな仕事は引き受けられない。後でトラブルに巻き込まれるのが怖いよ」
私は「奇妙な行動」のせいで、どうやら探偵業界全体から事実上の出入り禁止を食らってしまったようだ。
科学で説明できないなら、神秘的な力に頼るしかない。
私はネットのオカルト系掲示板に経緯を投稿した。いくつかは大きな反響を呼んだ。
その中で、ある「高名な霊能者」を名乗る人物が、無料で力を貸すと言ってくれた。
私は藁にもすがる思いで、その夜のうちに指定された場所へ駆けつけた。
私の経験を涙ながらに語ると、霊能者は目に涙を浮かべ、胸を叩いて必ず助けると約束してくれた。
しかし、マッチを手に取り、あれやこれやと調べた後、彼は首をひねるばかりだった。
「……何の問題もない。これはごく普通の、古いマッチだ」
最後には「悪いことをすれば天が罰する」などという、どこにでもある慰めの言葉をかけられるだけだった。
――マッチに問題がないなら……問題があるのは、私自身なのか?
でも、ほんの数週間前に受けた健康診断では、身体も精神も、極めて正常だとされていた。
途方に暮れ、うつむいていたその時、突然、スマホに妹からの画像メッセージが届いた。
【お姉さん、お父さんとお母さんがあなたの部屋も、あなたの大好きなものも、全部私にくれちゃったよ!
これ、お姉さんが小さい時からずっと抱いて寝てたテディベアだったよね?あら、うっかりハサミが滑っちゃって。怒らないでね?】
画像には、ぼろぼろに切り刻まれたクマのぬいぐるみが映っていた。
私はスマホを握りしめる手が震えた。
これは……私を一番可愛がっていた祖母が、亡くなる前にお守りとしてくれた、唯一の形見だった!
怒りが頭頂まで沸き上がり、妹を食い殺したい衝動に全身が震えた。
その時、ふと、画像の中の一つの細部に目が留まった。
そして、さっきの霊能者がぼんやり口にした言葉も、脳裏をよぎった。
この瞬間、すべてのピースがカチリとはまった。
なぜ今世、二つも願いをかけたのに、望むものが何一つ得られなかったのか。
そしていま、三本目のマッチに、いったい何を願えばいいのか――すべてが、ついにわかった!
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